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沖縄県名護市辺野古の沖合で3月16日、修学旅行中の同志社国際高校(京都府)の生徒を乗せたボート2隻が転覆し、17歳の女子生徒1人と70代の男性船長1人が死亡したと報じられました。

学校の記者会見などによると、当日、2隻のボートには、高校生18人と乗組員3人の計21人が乗船し、アメリカ軍基地の移設工事の様子を海から見学する研修の最中に事故が起きたとされています。

転覆の具体的な経緯はまだ不明な点が多く、現段階では法的な問題について具体的な話をすることは難しいのですが、船を運航させていた団体や学校の法的責任について、今後争点となりうるポイントを整理します。

●団体の刑事責任について

海上保安本部は、船を運航していた団体について、「業務上過失往来危険」と「業務上過失致死傷」の容疑で捜査を進めているとされています。

業務上過失往来危険罪は、仕事上の不注意によって船を転覆させるなど、航行の危険を生じさせた場合の罪です(刑法129条2項、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)。

業務上過失致死傷罪は、仕事上の不注意によって人を死なせたり怪我をさせたりした場合の罪です(刑法211条、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)。

なお、ここでいう「業務」とは、社会生活上の地位にもとづいて反復継続して行う活動をいうとされています。

「業務」は有償である必要はありません。ボランティアとして繰り返し船を運航していた場合も、必要な許可を取らずに運航していた場合も「業務」にあたる可能性があります。

●「過失」が認められるには、事故が起きただけでは足りない

注意すべきは、事故が起きればなんでも「過失犯」となるわけではないということです。

おおざっぱにいえば、過失犯が成立するためには、大きく次の2つが必要となります。

1)「こういう結果になるかもしれない」と具体的に予見できたこと(予見可能性)。

2)その予見に基づき、「この行動をすべきだった」または「この行動をしてはいけなかった」という注意義務があり、その注意義務を怠ったこと。

そして、2)の注意義務は、「いつ、どの行為について」のものかを具体的に特定する必要があります(東京高裁平成29年(2017年)9月20日・天竜川下り転覆事故の裁判例などを参照)。

「どの時点の、どの判断」を注意義務と設定するかによって、証明しなければならない事実は変わってきます。

●「出航前の判断」の問題なのか?「航行中の対応」の問題なのか?

本件で「過失」として考えられる注意義務は、大きく2つあると思われます。

1つ目はそもそも「出航を中止すべきだった」のに、中止せず出航した点に過失がある、という点です。

本件では、波浪注意報が出航前から発令されていたようです。

そこで、出航の時点で「転覆するかもしれない」と具体的に予見できたのであれば、出航を中止すべき義務が生じます。

このような「過失」が認められる場合には、「出航さえしなければ転覆はなかった」という形で因果関係も認めやすくなると考えられます。

しかし、「波浪注意報が出ていた」のに出航したという事実だけで、本件で問題となっている「過失」が認められるわけではありません。

報道によると、出航前の午前7時半の会議で船長は「海の状況は悪くない」と判断していたといいます。

船長はベテランだったようですし、当時の天候はそれほど悪くなかったようです。

事故現場の地形などの具体的な状況なども合わせて考えた場合、船長の出航の判断自体は合理的だった可能性があります。

また、海上保安庁の船舶も転覆しているようです。そこで、今回の転覆の原因となった高波が、通常予想されるよりもずっと大きかった可能性も否定できません。

2つ目は「航行中に引き返すべきだった」という点です。この義務を認めるには、「引き返す余裕がある段階で危険を認識できた」ことと、「実際に引き返せた可能性があった」(結果回避可能性)ことが認められる必要があります。

現時点では、このような事情は不明です。

報道によれば、事故は監視警戒中の海保の船舶が2隻に安全航行を呼びかける中で発生したようです。しかし、海保がいつから呼びかけていたのかははっきりしません。

転覆の直前だったのか、それとも事前から繰り返し警告していたのか、などの事情で、「認識できたか」どうかの認定は変わります。

白波や揺れが出航直後から続いていたのか、途中で急変したのかも不明です。

なお、沖縄タイムス(3月16日)は「高波を受けて」と速報しており、突然の高波だった可能性があります。

また、2隻が転覆している点について、報道では2隻目は1隻目の救助の際に転覆したとのことです。

もしそうなら、2隻目の船長が問われる義務は「引き返すべき義務」ではなく「救助行動を適切に行う義務」という、まったく別の義務を設定することになるかもしれません。

過去の裁判例では、天候悪化の中で瀬渡し船が転覆した事案(鹿児島地裁平成21年(2009年)5月22日)において、航行中の「救助要請・転覆回避のための帆(スパンカー)の展開・救命胴衣着用の指示」という具体的な措置を怠ったことを過失と認定しています。

つまり、「どの具体的な措置を、いつ怠ったか」を特定することが求められます。

現時点ではその特定に必要な時系列上の事実が不明であり、今後捜査によって明らかになると思われます。

●学校側の責任は?

民事責任の面では、団体側の責任のほかに、学校側(同志社国際高校)の責任が問われる可能性があります。

私立学校と生徒の間には在学契約の関係があり、学校は生徒の安全に配慮する義務を負っています(民法415条)。

修学旅行などの学校行事についても、高知地裁は平成6年(1994年)10月17日の裁判例で、「引率教員は、生徒の活動場所について十分な事前調査を行い、危険箇所を確認したうえで適切な安全指導を行う義務を負う」と示しています。

今回のケースでは、以下の2点が問題となりそうです。

1点目は「業者の選定が適切だったか」です。「船で辺野古を見る」プログラムを組む際、学校側が運航団体の安全管理体制を確認していたかどうかが問われます。

今回の運航団体は法律上必要な登録をしていなかったそうです。登録の有無は確認しようとすれば分かる情報であり、確認を怠っていたとすれば選定上の過失を判断するための1つの要素になりえます。

2点目は「気象情報の確認と中止の判断」です。当日の波浪注意報を学校(引率者)が事前に把握していたか、把握していたとすれば見学を中止する決断をしなかった判断が義務違反にあたるか、が問われます。

中止の決定権が学校にあったのか、船長の判断に委ねていたのかによっても、責任の帰属先が変わります。

●「ボランティアだから登録不要」は通用しない

転覆の経緯はまだ不明ですが、今回船を運航した団体は、海上運送法が義務付ける船舶運航事業の登録をしていなかったそうです。

海上運送法は、人の需要に応じて繰り返し船で旅客を運ぶ場合に登録を義務付けています。ボランティアでも登録は必要です。

登録をしていなかったことは、刑事・民事の両面で影響すると考えられます。

刑事面では、登録事業者に義務付けられる安全管理規程の作成や安全統括管理者の選任といった体制を欠いたまま旅客を乗せていた事実が、「安全への備えが不十分な状態で運航していた」として、過失の根拠として使われうるでしょう。

民事面では、先にも述べましたが、学校側が業者選定にあたって登録確認を怠っていたとすれば、生徒の安全に配慮する義務に違反したという評価をする方向に働きます。

監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)