(※画像はイメージです/PIXTA)

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住宅ローンの返済中なのに、いつの間にか団信が切れていた。銀行のローンでは団信は必須であり、思わず目を疑う話ですが、2017年10月以前のフラット35の「機構団信」なら、そんな事態があり得るのです。本記事では、年収1,300万円の30代夫が急逝し、残された妻が団信失効により7,265万円もの残債を背負ってしまった事例を紹介します。なぜ団信が切れていたのか、そして正しい備え方について、FPの大泉稔氏が解説します。

8,000万円の庭付きの戸建てを購入した夫婦の悲劇

Aさんは、中堅のIT企業に勤めており、30歳代半ばにして年収は1,300万円。この収入を背景に、2017年4月、東京23区に、駅から離れた庭付きの戸建てを購入しました。

「フラット35」で住宅ローンを組み、借入れ条件は8,000万円、利率は1.35%、返済期間は35年、毎月の返済額は24万円、ボーナス払いはありません。もし、一時的に家計が苦しくなっても「ボーナスでリカバリーすればいい」と、Aさんは考えました。

幼い子どもたち2人は庭でのびのびと過ごし、子どもたちを見つめる専業主婦で同い年のB子さんもニコニコと上機嫌です。まさに幸せを絵に描いたようなひとときでした。

しかし、Aさんには人知れず悩みがありました。Aさんは、お金のやりくりが下手だったのです。たとえばプロジェクトが終わるたび、慰労のため部下たちを連れ、豪遊することもあります。「1年に何度か、お金のやりくりが難しいときがある」と、同僚にこぼすことがありました。

そして、この家族の幸せな時間も長くは続きませんでした。

住宅購入から4年が経った2021年のある日の深夜、Aさんは路上で亡くなっていたのです。交通事故ではありませんでした。

B子さんは気丈に振る舞い、通夜と葬儀、そして相続に伴う手続きを淡々とこなしていました。しかし、血の気が引く出来事が続きました。

生命保険を解約していた事実が発覚

会社から弔慰金として100万円は支払われたものの、退職金がないことを知らされたのです。

Aさんの高年収は「退職金前払い制度」の利用によるものでした。また、生命保険には一切、加入していませんでした。住宅ローンを組むにあたり、「団信があるから」とFPに勧められるまま、すべて解約していたのです。

そして、あろうことか肝心のフラット35の機構団信が切れていたのです。

機構団信の特約料(保険料)は毎年1回の口座引き落としですが、昨年、残高不足で引き落とせず、払込取扱票による支払いにも応じていなかったのです。

「お金のやりくりが苦手」というAさんの性格が具現化してしまった結果です。引き落とせなかった額は26万7,300円でした。

「夫は収入がよく、高額な住宅ローンも組めて、こんな家に住めるから、きちんとお金をコントロールできている人だと思っていました」と、B子さんは自嘲気味に語りました。

B子さんは、残債およそ7,265万円を相続することになりました。子どもたちはいまだ小さく、また駅まで距離があり、働ける時間が限られます。

「物価上昇」のおかげで残債は完済

偶数月の15日に受け取る遺族年金を、毎月6日の返済に充てるのも、やりくりに工夫が必要です。加えて「今度は私に何かあったら」と、生命保険や医療保険の加入も検討しなければなりません。

泣いている暇もなく、悩ましい日々が続きます。

転機となったのは物価上昇です。中古ではあるものの、23区内の庭付きの戸建て住宅ということで、1億円で売却することができました。忙しくても建物の細かな修繕や庭の手入れを怠らず、「中古とは思えない」ほどのきれいな物件だったのです。残債を相殺できたのはいうまでもありません。

その後、B子さんは駅近のマンションを借りました。死別したシングルマザーということで、仲介業者や大家が親身になってくれたのです。

「お庭がないのは寂しいですが、天国から夫も見守ってくれています」と穏やかな表情で語りました。

「フラット35」は強制加入ではない

フラット35は団信(機構団信)への加入は任意です。そのため「健康の問題で銀行の住宅ローンを組めない人がフラット35を選ぶ(団信加入はなし)」「機構団信に加入せず、FPに勧められるまま生命保険を契約した」という類の話を聞くことがあります。

仮に機構団信に加入しても、2017年9月までは毎月の住宅ローンの返済とは別途に、毎年1回、特約料(保険料)を払わなければなりませんでした。

そのため、Aさんのように「返済は続くが、団信が切れていた」という方の、遺族からの相談を受けたことがあります。

機構団信の支払い方のポイント

Aさんのように金銭管理が苦手な方のために、機構団信の毎年1回の特約料(保険料)の払い方を変えることはできないのでしょうか。

2通りの選択肢があります。ひとつは特約料を月払いに変更することです。ただし、口座振替はできず、クレジットカードのみであり、特約料に手数料(2025年10月から「(年間特約料÷12ヵ月)×1.05%+10円」)がプラスされます。

もうひとつの選択肢は借換えです。2017年10月以後のフラット35には、新機構団信が組み込まれ、特約料も住宅ローン金利に含まれているため、以前のように毎月の返済とは別途に特約料を払うことはありません。とはいえ、昨今の金利の情勢を踏まえると、この選択は慎重に判断する必要があります。

ちなみに、たとえば2017年4月に35年返済を組んだ場合、完済は2052年になります。残債の減少にあわせて特約料も低減していきますが、この問題は長期にわたって続きます。

なお、2017年10月以後も、健康の理由などで新機構団信に加入できなくても、フラット35の住宅ローンを組むことは可能であり、その場合、金利が0.2%低くなります。

そのため、「あえて、新機構団信に加入しない」という方もいるといえます。団信の代わりに生命保険を用意しておいたほうがいいのはいうまでもありません。

団信代わりの「生命保険」はリスク

団信に代わる生命保険の代表例に「収入保障保険」があります。

収入保障保険は国の遺族年金の上乗せ的なイメージであり、保険金の額も「毎月〇万円」と設定します。保険期間を定めて契約するので、住宅ローンの完済期間を保険期間としてもよいでしょう。ところで、毎月の返済額を保険金額としてもよいのでしょうか。

そうだとすると、被保険者(ローンの返済者)亡きあと、ローンをそのまま相続し、保険金を返済に充てることになるという発想です。

しかし、この発想はおすすめできません。収入保障保険の保険金は「毎月」ではなく、一括で受け取ることも可能です。なお一括の保険金額は保険期間に向かって徐々に低減していきます。

そのため、収入保障保険は保険料が安い保険ともいわれています。遺族が一括で受け取った保険金でローンの繰り上げ完済ができれば、まさに団信代わりの生命保険です。

とはいえ、健康が理由で団信に加入できなかったのであれば、生命保険の加入が難しい、もしくは緩和型など、保険料が高めの生命保険を検討することになります。なお、銀行によっては「引受基準緩和型団信(ワイド団信)」を用意している場合もあります。こちらもあわせて検討するべきです。

団信に加入せず、代わりに生命保険という考え方はおすすめできません。フラット35の返済表と収入保障保険の一括受取額の推移を見比べれば一目瞭然です。つまり、残債額の推移と一括保険金額の推移が一致しないのです。加えて、万が一のことを踏まえると、税制上の点からも団信のほうが手続きはスムーズです。

住宅が「一生に一度の大きな買い物」なら、「住宅ローンは一生に一度の大きな借金」です。大切な家族のためにも、あってはならない万が一を想定して臨みたいものです。

大泉 稔

ファイナンシャルプランナー