流行語から読み解く中国社会(第2回)バブル崩壊の予兆だった「内巻」…自動車産業、飲食業で顕著なパイの奪い合い
日本からは分かりにくい中国社会の実態は、流行語から読み解くことができる。今回は2020年の流行語「内巻」から分析してみたい。
「内巻」 とは意味のない苛烈な競争のことを指す。日本で言うところの「パイの奪い合い」が近く、規模の限られた市場で競合相手とシェアを奪い合う状態であることを示す言葉である。
元々は第1回の記事で紹介した、朝9時から夜9時まで週6日間労働を示す「996」とセットで使われることが多い言葉であり、会社で激しい出世競争もしくはリストラ回避を強いられるなか、多くの人がやむを得ず「996」の業務体制を取らざるをえないという状況を表現していた。
その後の「内巻」は個人だけではなく、社会現象をも表す言葉として使われるようになった。2020年当時はすでに不動産業界の信用不安が発生し、貿易摩擦とコロナ禍によって欧米諸国の中国依存が減少していた。そして「内巻」という言葉が予測するように中国は以降、長いトンネルを迎えることになる。
新車販売172万台増加も“泥沼の消耗戦”
内巻が最も苛烈に、かつ可視化された形で現れているのが中国の自動車産業である。
2025年のデータでは、中国国内の新車販売台数は前年比で約172万台増加したにもかかわらず、小売総額は約800億元(約1.6兆円)も減少した。これは、1台あたりの平均販売単価が低下し、市場全体が「売れば売るほど損をする」という泥沼の消耗戦に陥っていることを示している。
自動車価格の平均単価は2024年の18.4万元から、2025年には17.0万元へと7.5%下落。これは2021~2022年の水準への逆戻りを意味している。また、業界全体の利益率は4.1%にまで低下。過去5年で最低を記録した。
この状況は、もはや健全な市場競争の域を超えている。技術革新によるコストダウンが消費者へ還元される良性の競争ではなく、シェアを維持するためだけに利益を削り、サプライヤーに過度なコストダウンを強いる悪性の内巻である。
新規飲食店302万軒も296万軒が閉店
同様の光景は飲食業界にも広がっている。中国の飲食店は2025年の上半期に302万軒が新規開店した一方で、296万軒が閉店。純増はわずか6万軒であり、市場は「誰かが倒れなければ、誰かが入れない」ゼロサムゲームと化している。
日本でも有名な火鍋チェーン海底撈の客単価は102.9元から97元へ下落、回転率も4.2から3.8へ低下。多くのブランドで「客単価・回転率・既存店売上」の主要3指標が軒並みマイナスを記録している。
このような市場環境で大手ブランドは規模の拡大という幻想を捨て、不採算店を切り捨てる「断捨離」によってようやくキャッシュフローを維持している。
このように、いまの中国は国内を中心に苛烈な競争が行われている。この「内巻」は、かつての日本のバブル崩壊後の「ガラパゴス化」と同じように見える。
もしかすると2020年に、この言葉が生まれたこと自体が景気のピークアウト、バブル崩壊を予見していたのかもしれない。今では「ガラパゴス化」はすっかり死語と化したが、今でも「内巻」は広く使われている。この言葉が使われる限り中国経済の苦境は続くのだろう。
文/下川英馬 内外タイムス
