ジャンプ男子スーパー団体、競技打ち切り後のインタビューに応じる小林陵侑【写真:ロイター】

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連載「OGGIのオリンピックの沼にハマって」第11回

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」ではミラノ・コルティナ五輪期間中、連載「OGGIのオリンピックの沼にハマって」を展開。スポーツ新聞社の記者として昭和・平成・令和と、五輪を含めスポーツを40年追い続けた「OGGI」こと荻島弘一氏が“沼”のように深いオリンピックの魅力を独自の視点で連日発信する。第11回は、スキージャンプで起きた「事件」の背景。

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 冬季五輪らしい「事件」だった。スキージャンプで初採用された男子スーパー団体は悪天候の影響で最終ラウンド途中で打ち切り。2回目までの成績で順位を決定した。2回目終了時6位ながら新エース二階堂蓮のスーパージャンプで2位に浮上していた日本にとって残念な結末だったが、自然を相手にする競技の難しさも感じた。

 競技成立まで日本の小林陵侑を含んで残り3人。大雪の中で再開を待ったが、競技は早々と中止になった。最終ラウンド1本目で二階堂が138.5メートルの大ジャンプ。メダルが見えていた。ところが、最終ジャンパー8人中5人が飛んだところで打ち切りが決まった。

 小林は「5分も待っていればできた状況だった」と、雪の降りやんだジャンプ台を背に悔しそうに話した。2回目終了時点で2位ポーランドから6位日本までは僅差だっただけに、メダルを確定させた選手たちは喜び、逃した選手は落胆した。もっとも、共通するのは「仕方ない」という言葉。小林も言った「これがスキージャンプ」。

 珍しいことではない。1924年の第1回冬季大会から行われている五輪でこそ「打ち切り」はないが、W杯などでは日常的。先月札幌で行われた女子W杯ラージヒルでも2回目が悪天候でキャンセルされて1回目の順位が最終順位になった。

 1998年長野五輪を思い出す人も多かったはず。ジャンプ団体の1回目4位だった日本が逆転で金メダルに輝いた名勝負だ。25人のテストジャンパーが悪天候の中、競技続行のために命がけで試技をしたエピソードは有名。もっとも、この時も競技委員の大勢は「打ち切り」だった。当時とはルールも変わっているし、運営の考え方も違う。「長野でできたのだから」とはならないのだろう。

 国際スキー・スノーボード連盟(FIS)レースディレクターのサンドロ・ペルティーレ氏はFISの公式サイトで説明している。「重く湿った雪で助走スピードが失われた」ことと「風の状況が違っていて、公平さに欠ける」ことが早期に中止を決定した理由。「ラウンドをキャンセルすることはルールにある。時々起こるが、それが今夜だった」とルールに沿った決定であることを強調している。

自然相手の難しさ…早々の打ち切り決定にFIS側の思い

「公平性」と「安全性」は、FISがもっとも気にしていたことかもしれない。この種目は、前回まで4人1組で行われていた団体を2人1組にした新たな試み。参加国を1回目で12チームに絞り、2回目で8チームにして3回目を行う。「スピーディーでエキサイティングな試合になる」とFISは新種目をアピールしていた。

 ジャンプ界にとっても大きな挑戦だった。4人の団体戦は1988年のカルガリー大会から行われているが、近年は競技人口減少によって出場できるチーム数が限られてきた。より多くの国に出場の機会を与えるために人数を2人に変更しての実施。種目に「スーパー」を入れたあたりに、競技存続を願うFISの強い思い入れがうかがえる。

 注目を集める初代王者を決める試合だけに「万が一」を恐れたのかもしれない。けが人が出たり公平性を欠く結果になったり…。予定通りに競技を終了させることは重要だし、そのための努力はしたはず。それでも早々と打ち切りを決めた裏には「何事もなく無事に試合を終えたい」というFIS側の思いも感じる。

 さらに大きいのは運営上の問題。昼間の競技と違い、ナイターの場合は時間の余裕もない。観客のことも考えなければならない。さらに、五輪のスケジュールは分刻み。単独の競技会と違って進行の遅れや日程の変更は他の競技にも影響する。

 自然相手の競技だから、予定通りにいかないことは想定内。進行に余裕をもたせたり予備日を設けたりはするが、それでも大きく逸脱するわけにはいかない。背景にあるのはテレビ放送。時間通りに終了しないと、プログラムとしての価値が下がる。

 雪と氷を舞台に行われる冬季大会は、夏に比べて自然を相手にする競技が多い。氷は屋内施設で天候の影響を受けにくいが、雪の競技は厳しい。悪天候の中、スケジュール優先で予選回数を減らしたり決勝だけにするなどフォーマットを変更する競技は珍しくない。

 温暖化とともに不安定な気象条件も大会運営を脅かす。自然がコントロールできない以上は仕方ないが、冬季大会の価値を高めるためには足かせになる。スキー競技もすべて屋内にするなど(現実的ではないけれど)考えなければならないのかもしれない。

 多くの競技が五輪のために変わる。テレビ放送に合うように時間を短くし、ルールを公平に分かりやすくする。それは、冬季大会も同じだ。ただ、自然だけは五輪に合わせてくれない。「自然相手」は冬季競技の大きな特徴であり魅力。だからこそ、五輪が自然に合わせていく必要もあると思うが。(荻島弘一)

(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)

荻島 弘一
1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。