こちらは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で観測した銀河団「MACS J1149.5+2223」の一部。


しし座の方向、約55億光年先にあります。画像の幅は満月の視直径の約12分の1に相当します(2.40×2.42分角)。


【▲ ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が観測した銀河団「MACS J1149.5+2223」の一部(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, G. Rihtaršič (University of Ljubljana, FMF), R. Tripodi (University of Ljubljana, FMF))】

人間の目からすればごく狭い視野ですが、鮮やかな渦巻銀河や、ぼんやりとした楕円銀河など、無数の銀河が輝きを放っている様子が捉えられています。


この中の1つが今回の“主役”なのですが、どこにあるのかわかりますか?


初期宇宙に数多く存在した“リトル・レッド・ドット”

リュブリャナ大学(スロベニア)/ローマ天文台(イタリア)のRoberta Tripodiさんを筆頭とする研究チームは、今から132億年以上前、ビッグバンから5億7000万年後の銀河で活発に成長する超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)の存在を確認したとする研究成果を発表しました。


次の画像は、今回の研究対象となった「CANUCS-LRD-z8.6」が、冒頭の画像のどこにあるのかを示したもの。


この狭い視野の中でさえ小さな点にすぎない天体ですが、謎が多い初期宇宙の様子を伝える貴重な存在なのです。


【▲ ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が観測した銀河団「MACS J1149.5+2223」の一部(左)と、その上部に位置する「CANUCS-LRD-z8.6」の拡大画像(右)(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, G. Rihtaršič (University of Ljubljana, FMF), R. Tripodi (University of Ljubljana, FMF))】

打ち上げから4年近く、科学観測開始から3年半近くが経ったジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、遥か彼方の初期宇宙に存在していた点状に見える天体をいくつも捉えるようになりました。


これらの天体はNIRCamが捉える赤外線の波長域でも波長が長い(可視光線を捉える私たちの目になぞらえて表現すれば“赤い”)ことから、「LRD(Little Red Dot、リトル・レッド・ドット)」と呼ばれています。


LRDの正体はまだはっきりしていないものの、ビッグバンから約6億年後に数多く出現し始め、ビッグバンから約15億年後には急速に減っていくことがわかっています。その一部はAGN=活動銀河核(※)の兆候を示していることから、急速に成長するブラックホールを宿した銀河ではないかと考えられています。冒頭の画像上部に写るCANUCS-LRD-z8.6も、そんなLRDのひとつです。


※…強い電磁波を放射する銀河中心部の狭い領域。原動力は超大質量ブラックホールだと考えられています。


LRDには急成長する超大質量ブラックホールがある?

今回、TripodiさんたちがCANUCS-LRD-z8.6のスペクトル(電磁波の波長ごとの強さの分布)を分析したところ、何らかの天体を高速で周回する電離ガスの存在が示されました。


この特徴は超大質量ブラックホールを周回しながら落下していく物質と同じであることから、研究チームはCANUCS-LRD-z8.6に超大質量ブラックホールが存在すると結論付けています。


注目すべきはその質量です。研究チームが算出したCANUCS-LRD-z8.6の超大質量ブラックホールの推定質量は、太陽の約1億倍(6000万〜1億6000万倍)でした。


また、CANUCS-LRD-z8.6の特徴を調べたところ、質量は太陽の約45億倍ありつつも、そのサイズはまだコンパクトであり、金属(天文学では水素やヘリウムよりも重い元素の総称)も少ないことがわかりました。


金属は恒星内部の核融合反応や超新星爆発のような激しい現象を通じてその量が増えていったと考えられています。つまり、金属が少なくて小さいCANUCS-LRD-z8.6は、まだ進化の初期段階にある銀河だということになります。


天文学者はこれまでの観測を通じて、銀河の質量とその中心にある超大質量ブラックホールの質量には相関関係があることを見出してきました。銀河が成長するにつれて超大質量ブラックホールも成長していくという、双方が足並みをそろえて進化していくような関係です。


ところが、銀河としてのCANUCS-LRD-z8.6の質量(太陽の約45億倍)と、算出された超大質量ブラックホールの質量(太陽の約1億倍)を比較したところ、ブラックホールのほうが非常に重いことがわかりました。


このことから、CANUCS-LRD-z8.6が存在していた初期宇宙では、銀河よりもその中にある超大質量ブラックホールのほうが急速に成長していた可能性が示唆されます。初期宇宙では、たとえそれが比較的小さな銀河であってもブラックホールが誕生し、加速度的に成長し始めた可能性があるというのです。


【▲ 参考画像:初期宇宙の矮小銀河(左下)と、その中心にあったと考えられている超大質量ブラックホール(右上)の想像図(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/M. Zamani)】

今回の研究でリュブリャナ大学のグループを率いたMaruša Bradač教授は、この発見について「宇宙最初の超大質量ブラックホール形成を理解する上で、とてもエキサイティングな一歩です」とコメントしています。


超大質量ブラックホールはクエーサーと呼ばれる非常に明るい活動銀河核の原動力でもあります。初期宇宙で急速に成長を遂げた超大質量ブラックホールの詳細を調べることで、後の時代で強烈な輝きを放つクエーサーとの関連性が明らかになっていくかもしれません。


研究チームはジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡(ALMA)による追加観測を計画しており、銀河内の低温のガスと塵(ダスト)のさらなる調査や、ブラックホールの特性をより深く理解することを目指しているということです。


 


編注:記事中の距離は、天体から発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています。


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


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