一週間分の脳の疲れとストレスを一発でデトックスできる…医師が週末に勧める動画と音楽のタイプ
※本稿は、有田秀穂『スマホ中毒からの心のモヤモヤをなくす小さな習慣』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■友情、スポーツ、結婚式…泣けるシーンで癒される理由
涙を流すとスッキリする、という人は少なくないのではないでしょうか。
確かに、泣いた後にはモヤモヤした気持ちが晴れます。なぜ、このような変化が起こるのでしょうか? 脳内で何が起こっているのか、わかりやすく解説しましょう。
そもそも、涙は眼球に付随する涙腺で作られます。
涙はドライアイを防ぎ、目に入ったゴミを洗い流す作用もあります。
でも涙は、そういう直接的な作用を果たすだけではありません。
人間は心が激しく揺り動かされたときにも涙を流します。
これが「感動の涙」で、人間だけが流すものです。犬や猫などのペットは、ある程度人と心の交流ができますが、ドラマやドキュメントで涙を流すことがありません。人間性の脳である共感脳が十分に発達していないからです。
では、どんなシーンで、共感脳が刺激されるのでしょうか?
その1:熱い友情のシーン
仲間を思いやる友情があふれるシーンには、否が応でも涙が出てきてしまう……そのような人も少なくないでしょう。
ピンチのとき、いつも助けてくれた心強い味方。
学生時代のあの頃、あの景色、あの言葉。
ふと脳裏をかすめては胸がぐっと詰まり、青春時代の切なさがよみがえって、思わず熱いものが込み上げてくる。友達の存在は懐かしく、そして尊いものです。
その2:スポーツで感動の共体験
スポーツの世界は“涙の宝庫”です。
オリンピックやパラリンピック競技大会をはじめ、甲子園、フィギュアスケート、サッカーなど、誰かと一緒に観戦することで一体感が生まれ、感動を共有しやすくなります。
普段は「泣きのツボ」が違う人同士でも、スポーツだけは同じものを見て、一緒に盛り上がれるはず。
その3:結婚式のスピーチや手紙
参列のたびに「今回は泣かないぞ」と思ってもやっぱり泣いてしまうのが結婚式。式から披露宴まで全編にわたって琴線に触れるシーンがあり、涙腺は常に崩壊しがち。
特に新婦が読む家族への手紙は涙の鉄板ネタ。「お父さん、お母さん……」と冒頭からすでに号泣です。幸福感であふれ出る涙に、気持ちもほんのり温かくなります。
■「感動の涙」を流すのは「共感脳」が刺激されるから
私たちは、脳科学研究をしているときに偶然、被験者が泣き出す現場に遭遇したことがありました。
ここで特に驚いたのは、被験者が泣き出す前に、脳のある部位の血流が激しく増加していたこと。それがおでこのあたりにある「前頭前野の共感脳」で、この部分の血流が急に増え、その後に人は泣き始めることがわかっています。
そこで、この偶然の発見を直ちに検証する計画が立てられ、そして約1年後に確証を得ることができました。
被験者を何人も集めて「泣ける」動画を見てもらい、その間、前頭前野の血流を連続で記録したのです。すると間違いなく、涙を流す前だけ、「第三の目」の部位(共感脳)に特別に血流増加が確認されたのです。その増加量は半端ではなく、急激で驚くほど激しい増加でした。
そこで、計測に当たった私たち研究者は、これから被験者が泣き出すのを、事前に予告することができたというわけです。「これから泣くよ」と告げると、必ず、被験者は泣き出すのです。脳科学研究に携わって、これほど痛快な場面に出会ったことはありません。
■「癒しの副交感神経」により昼間でも寝ている状態に
共感脳から涙を流すまでの神経回路も明らかになりました。
涙腺を直接刺激するのは、顔面神経の中を走る「副交感神経」であることが、すでに生理学ではよく知られていたのですが、ここで脳の専門家として、おやっと気づくことがあったのです。
というのは、自律神経である副交感神経は、夜寝ている間に活動が高まり、昼間起きているときには通常「交感神経」が活発に働いているはずです。
動画を見ているのは起きて活動している時間帯なので、当然、交感神経が活発に働いています。
ところが、人は泣き始めると、一時的に交感神経から「癒しの副交感神経」に切り替わってしまうのです。本来、交感神経が主に働いているべき状態であっても、副交感神経の働きが強くなることがわかっています。昼間活動している時間なのに、夜眠って体を休めているときと同じような神経回路にモードが切り替わっているのです。「泣くとすっきりする」と言われるのはこのためです。緊張が和らぎ、不安やネガティブな感情が解消されるのです。
これは通常ではあり得ない現象なのです。一体、脳内のどこで、このような切り替えが起こるのか……自律神経の上位中枢である視床下部であることが、その後の研究で判明しました。

■オキシトシン神経に信号を送るもの
視床下部・室傍核には「ストレス中枢」があります。
その隣に「オキシトシン神経」があって、それが「ストレス中枢」を抑制し、「癒しの神経回路」を活性化させます。
実は、泣くときに自律神経の切り替えスイッチを入れるのは、その場所だったのです。つまり、起きている状態で交感神経が活発に働いている時間帯であるのに、泣くと一時的に交感神経から「癒しの副交感神経」に切り替わるのは、オキシトシン神経の活性化によるものだったというわけです。実際、オキシトシン神経を動物実験で刺激すると、涙が分泌されます。
そして、そのオキシトシン神経に信号を送るのが、共感脳の激しい興奮なのだということがわかったのです。
脳内のオキシトシンを活性化する因子として、心地よいタッチやおしゃべりが重要であり、それらグルーミング行動がストレス解消になるのですが、オキシトシン神経活性化因子の第三番目が、前頭前野・共感脳の興奮であることが明確になったということです。その証拠に、泣いている最中に副交感神経が活発になるエビデンスもあります。
・泣いているときに、心拍数がどんどん減少するのも、その証拠の一つ
・また、涙腺を激しく刺激する信号自身も、副交感神経の興奮によるもの
・さらに、泣いた後にはお腹が空いたり、眠くなったりする人が多いのですが、それも副交感神経が優位になった結果
メンタルへの影響も検証されています。涙の実験をする前と後で2回、心理テストを実施すると、緊張・不安や心の混乱など、ネガティブな気分が改善しています。「泣いた後にスッキリする」という効果が、心理テストで実証できたのです。結論を述べましょう。
「泣ける動画を見て共感脳が激しく興奮すると、視床下部のオキシトシン神経が活性化されて、交感神経から副交感神経への切り替えが起こり、それが癒しの脳内回路を駆動して、涙を流す状況が生まれる」
すなわち、モヤモヤしたストレス状況が改善されるのです。

■泣くことでストレスを解消する「涙活」イベントが人気
「泣くことで脳のストレスは瞬時に解消される」――その仕組みを利用したイベントが「涙活(るいかつ)」です。
意識的に泣くことで心のデトックスをはかる文化活動のことです。
いまはみんなで一緒に泣く「涙活」イベントが各地で開催されていて、私の運営するセロトニン道場でも開催しています。
また、社員同士で「涙活」をする企業もあります。一緒に涙を流すことでコミュニケーションが生まれ、共感することで、仲間意識も育まれるのです。
ただし、琴線が触れる場面は一人ひとり違います。泣けるかどうかは、過去に似たような経験や体験をしてきたかどうかがポイントなので、「あの人はこの場面で泣いているのに自分は泣けない」……と思う必要はまったくありません。つまり、体験の違いによるものなので、年齢や性別によって泣けるポイントが変わるのは当然と理解しておくこと。
また、以前に見てクライマックスシーンがわかっていたとしても、涙が出やすい場面では何度でも泣くことができます。
自分だけの「泣きのツボ」を押さえておけば、「涙活」は繰り返し活用できるのです。
■「週末号泣」で脳の疲労を解消する
泣いた後は、頭の中を鎮めていくことが大切です。
例えば、映画館でたくさん涙を流してすっきりできても、帰りの電車が混雑でギュウギュウだと、またストレスフルの状態に戻ってしまいます。
しっかり脳を切り替えた後、その効果を持続させたいなら、「泣く・食べる・寝る」が、自然な流れでできるような環境を整えておくことが大切。
そこでオススメなのが、自宅での「週末号泣」です。
好きなだけ泣いた後、お腹が減ったらご飯を食べて、そのまま眠る。

次の日に仕事がなければゆっくりと朝寝坊ができ、泣きすぎて目が腫れてしまっても、休日なので気になりません。
自分の「泣きのツボ」に合わせた映画や本、音楽などを自由に選べば、泣けるシーンばかりリピートして号泣することも可能……。
こんな形で「週末号泣」すれば、一週間分の疲れが解消できます。涙の効果は一週間ぐらい続くので、また次の週末に涙を流せば、ストレス脳をデトックスするよいサイクルになります。
脳を休めると決めて泣いた後は、存分に休むこと。頭と心がクリアになれば、週明けはベストコンディションでスタートすることができるでしょう。
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有田 秀穂(ありた・ひでほ)
医師・脳生理学者、東邦大学医学部名誉教授
セロトニンDojo代表。1948年東京生まれ。東京大学医学部卒業後、東海大学病院で臨床に、筑波大学基礎医学系で脳神経系の基礎研究に従事、その間、米国ニューヨーク州立大学に留学。東邦大学医学部統合生理学で坐禅とセロトニン神経・前頭前野について研究、2013年に退職、名誉教授となる。各界から注目を集める「セロトニン研究」の第一人者。メンタルヘルスケアをマネジメントするセロトニンDojoの代表も務める。著書として『医者が教える疲れない人の脳:「慢性疲労」を消す技術』(三笠書房)、『脳からストレスを消す技術』(サンマーク出版)、『脳科学者が教える やっかいな脳のクセをリセットする 朝5分の呼吸法』(総合法令出版)など多数ある。
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(医師・脳生理学者、東邦大学医学部名誉教授 有田 秀穂)
