臨床実習前に朝5時起き1人で練習 “医学部最速ランナー”は外科医志望5年生、勉強と陸上に見つけた「相互作用」――筑波大・木佐亮太
陸上・日本インカレ 男子800メートル/筑波大・木佐亮太(5年)
5日から4日間、岡山のJFE晴れの国スタジアムで行われた陸上の第94回日本学生対校選手権(日本インカレ)。熱戦を取材した「THE ANSWER」は文武両道で部活に励む選手や、怪我や困難を乗り越えた選手など、さまざまなストーリーを持つ学生を取り上げる。今回は男子800メートルに出場した筑波大の木佐亮太(5年)。医学部生として多忙な日常をこなしながらも、4月の学生個人選手権では自己ベストを更新した。「選手の気持ちを最優先にしたい」と話す、外科医志望の23歳。勉強と陸上を両立させるためのマインドや思い描く医師像を聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂)
勝負の1分50秒――。視線の先はゴールラインだけ。医療現場から戦いの場を移した医学部ランナーが、陸上競技場のトラックを駆け抜けた。
予選は組1着で準決勝に駒を進めた木佐。オープンレーンになり、集団の外側に位置付けた。8人が団子状態のまま、1周を56秒で通過した。2周目のバックストレートで前に出た前田陽向(環太平洋大・4年)に続き、第3カーブでは2番手に浮上。しかし、ラスト100メートルで水野瑛人(中京大・2年)にかわされ、1分50秒38の3着でゴールした。
着順で進める2着に0秒59及ばず、タイムも全体12位で決勝にはあと一歩届かず。「最初の方で外側のレーンを走ってしまって、不利な状態でラストを迎えたことが大きな敗因。最後に粘れたら勝てたので、あそこに至るまでに余裕を持てなかったことが一番大きいかなと思う」。レース直後にもかかわらず、息を切らしながらも自身の走りを理路整然と分析した。
島根・出雲高出身の中距離ランナー。小学1年で陸上競技を始め、16年間継続してきた。大学の体育会に所属する医学部生は臨床実習や国家試験に備え、4年時で引退する人が多いというが、木佐は現役続行。「自分でやると決めたので、別に誇るものではない」と言い切る。
医師を目指し始めたのは高校1年の時。将来を見据えて「自分の存在する意味」を考えた時に「人の人生や命に直接関わって、よりよい方向に導きたい」という感情が芽生えた。理系が得意だったこともあり、医師を志した。
高校時代は塾に通いながら部活と両立。3年の7月に引退してからは1日12時間程度の猛勉強の末、筑波大に現役合格した。4年時には、臨床実習に進むにあたり、必須となる医師CBTテストへ向けて10時間以上の勉強をこなした。過酷な日常の中、3度目の出場となった関東インカレ、日本インカレでは初の準決勝に進出。実績を積み上げた。
「Student Doctor」の称号を手にし、昨年9月からは実習もスタート。早い日は午前7時45分から午後5時までの実習をこなす。手術では身動きの取れない状態で、7時間立ちっぱなしのことも。部の練習には参加できないため、午前5時に起床して1人で走る日もあった。その中でも2つを両立させることにはメリットを感じている。
文武両道の秘訣「魔法の勉強法や魔法の練習はない」時間の使い方に工夫
「僕は勉強が暇だと陸上にあまり身が入らない。“やる気モード”と考えているのですが、勉強が“やる気モード”だと陸上も“やる気モード”になる。そこは相互作用かなと思います」
4月の学生個人選手権では1分48秒28の自己ベスト更新。実習のため、拠点を置く茨城・つくばから前日の午後8時に神奈川・平塚に現地入りするハードスケジュールでも、過去の自分を超えてみせた。公認ではないが、“医学部新記録”という声も聞いた。ただ、「日本人の中で何位かを考えている」と、あくまでランナーとして高みを目指している。
1日に与えられるのは24時間。勉強と陸上の2つをやることは、必然的に1つにかけられる時間は短くなる。どんなマインドで日々の“タスク”をこなしているのか。
「答えとして適切か分かりませんが、結局気持ちだと思いますね。魔法の勉強法や魔法の練習はない。どんなに忙しくても、どちらも手を抜かないというマインドを持つこと。あとは1日の無駄な時間を減らすこと。何もしていない時間って意外とあるもので、そこを考えて、工夫して、時間を確保して。あとはもう気持ちだと思います」
目指すはスポーツドクターで外科志望。理想の姿は「患者に寄り添える医師」。その原点は自身の悔しい経験にある。高校最後だった2020年のインターハイ。新型コロナの影響で中止となった。実力を試す機会すら与えられずに終了。虚しさを知っているからこそ思いは強い。
「選手の気持ちを最優先にしたい。医者としては危ない(リスクがある)患者に『走るな、出るな』というのが楽ですが、例えばそれが高3のインターハイだったら……。納得できるかと言われたらおそらくできない。選手が納得できる結果で終わらせてあげたいので、そのために手術してアドバイスをしたい」
16年間、本気で走ってきたから分かる気持ちがある。勉強も陸上も決して諦めなかったその手で、未来のアスリートを守っていく。
(THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂 / Kaho Yamanobe)

