地元から遠く離れてーー『アメリカン・グラフィティ』と『シャコタン☆ブギ』をめぐるノスタルジア
ライター・編集者の速水健朗が時事ネタ、本、映画、音楽について語る人気ポッドキャスト番組『速水健朗のこれはニュースではない』との連動企画として最新回の話題をコラムとしてお届け。
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第27回は、『アメリカン・グラフィティ』と『シャコタン☆ブギ』について。
■地元を捨てて生きるか、地元に留まって暮らすか
『アメリカン・グラフィティ』(1973年公開)は、最初に観たときは車と音楽に目を奪われてしまい、複数の物語が同時進行するオムニバス風の映画としてしか捉えられなかった。でもこの映画には、はっきりと筋の通ったストーリーがある。
主人公のカートは、地元に残るか、それとも東部の大学へ進学するかで揺れ動いている。物語は、彼が町を離れる前夜、たった一晩の出来事として描かれる。
カートは車の中から見かけた女性に一目惚れし、その姿を求めて町をさまよう。誰かの車に乗って一晩中ドライブしたり、不良グループに交じったりするうちに、地元の魅力にも気づいてしまう。友人のスティーブも大学進学が決まっているが、車を持ち、恋人もいる彼は、1年だけ地元に残ると決める。地元にはやっぱり引き留める力がある。それでもカートは、予定通り町を離れる決断をし、ラストでは飛行場で仲間たちに見送られながら旅立つ。
わが速水家の地元は秋田の農村地域。父は5人兄弟の中で唯一、地元を離れてサラリーマンになった。母もまた、サラリーマンと結婚するために20代前半で故郷を後にしている。だから親戚の中では、どうしても「よそに行った人」というポジションになる。僕自身も、18歳の時に、当時住んでいた親元の新潟を後にして、東京に出た。親子2代、地元を出た一族だ。
人は、地元を捨てて生きるか、地元に留まって暮らすか、その二択である。ジョージ・ルーカスが4年後に撮った『スター・ウォーズ』も、同じ構図の話。辺境の星タトゥイーンで育ったルークは、地元を出たくてたまらない若者だ。レイア姫のSOSも帝国軍との戦いも、彼にとっては、外に出るための口実にすぎない。つまり、カートもルークも同じように、地元を離れる側の若者で、ルーカスの分身でもある。
『アメグラ』『スター・ウォーズ』に通じるモチーフがいくつかある。映画冒頭のハンバーガースタンドには、さまざまな若者がいろいろな車で集まってくる。あの風景は、タトゥイーンの宇宙港になぞらえることができる。宇宙のさまざまな種族といろんな乗り物が集う場所。また、メガネをかけた小柄な男・トードは、スティーブの車を預かり、すらっとした女性をナンパして2人で町を歩き回る。その凸凹コンビのシルエットは、R2-D2とC-3POとそっくりだ。
『アメグラ』のラストで、カートは、地元の仲間たちから見送りを受ける。一方、『スター・ウォーズ』(エピソード4)のラストは、反乱軍のパイロットとして活躍したルークが、新しい居場所を見つけ、そこで喝采を浴びながら迎え入れられる。この喝采は、ルークへのものだが、カートやジョージ(ルーカス)へのものでもある。
■『アメグラ』と『シャコタン☆ブギ』に共通する空気
さて、『アメグラ』に呼応する日本の作品として、『シャコタン☆ブギ』がある。楠みちはるが1984年に「ヤングマガジン」で短編を発表し、その後連載化。1995年まで続いた。舞台は高知。高校生のハジメとコージが、ソアラに乗って地元でナンパを繰り広げる青春漫画だ。
ハジメがソアラに乗れるのは、農家の長男として家を継ぐ約束をしたから。1980年代の日本では、地価の高騰もあって農家が金持ちになっていた。だから、「車を与えてでも地元に残ってほしい」という親の思いは、リアルな背景として説得力がある。そしてソアラというチョイスも、トヨタというメーカーの垢抜けなさと、背伸び感を描いていて絶妙。
この物語に、『アメグラ』を感じて読んでいた読者はほとんどいなかったはず。ただ登場人物の中でも、整備工場を営むジュンちゃんというキャラクターは、明らかに『アメグラ』のジョン・ミルナーを下敷きにしている。白いTシャツにブルージーンズ。レースは無敗、喧嘩も強い――まさに“地元のキング”。、『アメグラ』のミルナーは、メキシコから来た男とのレースに勝つが、それは相手のミスによるもの。彼は自分の時代の終わりを悟っている。
ジュンちゃんにも同じ切なさがある。彼は地元に留まった小さな街のボスだ。ハジメもコージも、この地元を離れることを夢見て生きている。つまり、カートでありルークだ。
ルーカスが1973年に1962年を懐かしんで映画を撮ったのは、その年が“アメリカの最後の幸福な年”だったから。ケネディ暗殺の前年であり、ベトナム戦争や社会の混乱が始まる前夜の、ひとときのユートピア。日本でそれにあたるのは、バブル経済の直前ではないだろうか。『シャコタン☆ブギ』を今読むと、豊かな時代の空気が感じられる。地方にも活気があり、東京は憧れの対象だった。そしてその終わりの予感が、作中のあちこちに静かに漂っている。
(速水健朗)
