眼球内部が出血し、突然目が見えなくなった…40代患者を"失明の危機"に陥れた意外な「生活習慣病」の名前
※本稿は、下内昭人『目の健康寿命』(日刊現代)の一部を再編集したものです。

■「8割の情報」を視覚から得ている
ものが見えづらい、ぼやけて見える、目が乾いてゴロゴロする……些細な目の違和感をみなさんは放置していないでしょうか?
「視覚」から得る情報は外界から得る情報の8割にも及ぶといわれています。
目から入る情報が遮断されてしまうと、私たちの生活はどうなるでしょうか。まず自分の身の回りのことを行うことすら難しくなり、歩くことや体を動かす機会が減って、身体的な衰えが加速してしまう恐れがあります。とくに運動不足はさまざまな目の病気に関連することが報告されており、生活習慣病にもなりやすくなるでしょう。
また、視覚からの情報が制限されることで、脳への刺激が少なくなり、認知機能の低下やうつ病の発症につながることもわかっています。そして、その影響は個人のみならず、家族や周囲の人々の生活にも及んでしまうことは想像に難くありません。
■人類史上かつてないほどの「超近視時代」に突入
目の健康は、私たちの生活全体に大きな影響を与えているのです。
そして、現代社会の特徴が目の問題をさらに複雑化させています。
現代人の生活様式は、かつてないほど視覚に依存しています。あらゆるデジタル機器を駆使し、絶え間なく情報や映像に触れ、文字を入力するなどの作業を日常的に行っています。
しかし利便性が高まる一方で、目を酷使する時間はどんどん増え続けています。人類史上、かつてないほど近くを見る「超近視時代」に入っているといっても過言ではありません。こうした背景から、目の病気の発症リスクは年々高まっているのです。
とくに近年は、目の不調を加速させる要因が多く見られます。たとえば、リモートワークの普及、生活習慣の変化、全身疾患の影響などです。目の不調や病気は、さまざまな要因が複雑に絡み合って起こるのです。
ここで、失明リスクの高い4大疾病を紹介しましょう。
■「失明リスク」が高い4大疾病とは
2019年に岡山大学を中心とする研究グループが行った調査では、視覚障害の原因疾患の第1位が緑内障で、その割合は40.7%にものぼりました(図表1)。

ちなみに、第2位の「網膜色素変性症」は、日本では厚生労働省によって難病指定されています。第3位の「糖尿病網膜症」は糖尿病の合併症で、40〜50代の働き盛りの世代では失明原因の第1位となっています。第4位の「加齢黄斑変性」は、欧米では最も失明の危険性が高い病気です。
これらの病気は多くの場合、数年あるいは数十年かけてゆっくりと進行します。とくに緑内障は、失明寸前まで進行しても自覚症状が現れにくい病気です。そのため、進行した状態で発見されることが多々あります。また、糖尿病網膜症も初期から中期にかけて自覚症状を感じにくく、重症化すると突然視力が低下したり、出血したりして初めて病気に気づくケースもあります。
まずは、無症状でも進行する目の病気が存在するということ、そして失明率の高い病気こそ早期発見・早期治療が極めて重要であることを理解してください。
■全身疾患が引き起こす目の病気
実は、全身疾患が目の病気を引き起こすこともあります。その代表的な疾患の1つが「糖尿病」です。
2016年の厚生労働省による「国民健康・栄養調査」では、日本の推定糖尿病患者数は約2000万人でした。また2019年の調査では、男性の19.7%、女性の10.8%が糖尿病に罹患していると報告されています。
糖尿病にかかると、高血糖によって活性酸素が作られ、血管が詰まったり損傷したりします。とくに網膜の細い血管が障害されると、失明の原因疾患第3位の糖尿病網膜症を引き起こします。
糖尿病網膜症の特徴は次のとおりです。
・糖尿病患者の5人に1人が発症する
・糖尿病発症から5〜10年で網膜症のリスクが高まる
・糖尿病網膜症患者の10人に1人が視力低下を経験している
■「40代で失明」というケースは珍しくない
ここで、私が以前診察した40代の患者さんの話をしましょう。
ある日突然、患者さんの眼球の内部に出血が起こり、視力が0.1以下まで急速に低下し、当院を受診されました。そして精密検査の結果、糖尿病網膜症を発症しており、同時に糖尿病を患っていたこともわかりました。本人もその事実を知らず、内科で治療を受けていなかったので、入院と目の緊急手術を行い、幸いにも視力を1.0まで回復させることができました。40代で失明の危機に直面したという経験は、その患者さんにとって大きな衝撃だったと思います。
しかし、こうしたケースは決して珍しいことではありません。この患者さんは失明せずに済みましたが、どんなに医師が手を施しても、残念ながら視力が回復しないことも多くあります。失明率の高い病気が治療の手遅れになりやすいことは、眼科医療において極めて重要な問題です。

一方、医療技術の進歩によって、目の病気の治療成績は着実に向上しています。
たとえば2015〜2019年の4年間で、緑内障による失明の割合が28.6%から40.7%に増加したのは、糖尿病網膜症や加齢黄斑変性の治療法の進歩により、これらの病気による失明が減少したためと考えられます。
さらに、AIを活用した画像診断など最新技術の導入も進んでいます。シンガポールなどではすでに実用化されており、日本でも研究が進められています。これにより、早期発見・早期治療の精度が飛躍的に向上することが期待されています。
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下内 昭人(しもうち・あきと)
眼科専門医
旭川医科大学医学部卒業。卒業後は道内の基幹病院で勤務。2016年に博士(医学)と日本眼科学会認定専門医資格を取得する。同年、日本眼科学会総合学術展示優秀賞を受賞。2017年から旭川医科大学眼科学講座の診療助教として、糖尿病網膜症と網膜静脈閉塞症の専門外来を担当し、難症例の白内障手術や網膜剥離などに対する硝子体手術を執刀。その傍ら、出張医として士別市立病院や名寄市立総合病院などの病院で地域医療に携わる。2019年国際眼炎症ワークショップ(GOIW)で眼科医向け教育セミナーにて指名講演を行う。2020年、旭川医科大学眼科同門会長賞受賞。2022年6月にしべつ眼科を開院し、現在に至る。
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(眼科専門医 下内 昭人)