普段は“品のいい奥様集団”だが…「作業着姿の老人」とすれ違った瞬間に漏れ出た“本来の姿”に衝撃
犬を飼っている人同士のつながりを「犬友さん」と呼ぶらしい。狭くて深いご近所の犬友さんの世界。無邪気な犬とは裏腹に人間同士には静かなる格付けが見え隠れするようだ。
並木吉子さん(仮名・56歳)は高級住宅街の端っこに住んでいる専業主婦。「去年、トイプードルのクルミちゃんを飼い始めたんですけど、最近ちょっとびっくりしたことがあって……」と、おっとりとした口調で彼女は語り出す。
◆お散歩中に出会った「品の良い奥様」
「ある日、クルミちゃんと家の近くをお散歩していたら、同じくお散歩中のトイプードルと遭遇したんです。すごく可愛いお洋服を着ていて、トリミングも完璧なワンちゃんでした。人懐っこい性格のクルミちゃんはしっぽを振って駆け寄り、気づくと犬同士でじゃれあっていました。『あら、可愛いわねと』と声をかけてくれたのは品がいい奥様です。同じ犬種を飼っているということもあり、会話が弾みました」
初めてできた犬友さんに並木さんはトキメキを感じたという。
「『今から公園まで行くけど一緒にいかが?』と奥様が誘ってくれ、私は喜んでクルミちゃんとついて行きました。公園にいたのは大勢の犬と飼い主さんたちです。どの犬も高そうな洋服を纏い、毛並みが揃っていて溺愛されたセレブ犬といったところでした。何回聞いても覚えられないような洒落た名前の外国犬種がいたり(笑)。そこでは、お互いに手作りのお菓子を持ち寄って交換する会が開催されていたのです」
犬を飼い始めたばかりの並木さんに、犬友さんたちは親切にしてくれたようだ。その華やかな集まりに胸を躍らせ、決まった時間に決まったメンバーが集まるルーティーンに自然と参加するように。
◆親切な犬友さんたちとの交流が始まる
「犬友さんたちはおすすめのペットフードや近所の動物病院の評判など、犬にまつわるいろんな事を教えてくれました。オーガニックの手作りお菓子を振る舞ってもらったり、自宅に招いてもらい広いお庭で走らせてもらったり、おさがりの洋服をいただいたりと、とっても親切にしてくださるんです。初めての“犬育て”なので大変心強くて。でもどこかで違和感があったんです」
並木さんは犬友さんたちから発せられる言葉の節々に、ほのかではあるもののマウンティングの気配を感じていたようだ。
◆「作業着姿の老人」とすれ違った瞬間、雰囲気が一変
「ある日の夕方、犬友さんたちとお散歩をしていた時の出来事です。いつもよりも少し遠出をして、私たちが住む住宅街から外れたエリアを歩いていました」
5〜6匹の犬を引き連れ、歩く5人のマダムたち。その姿はまるでアベンジャーズのようだったと並木さんは語る。
「向かいから作業着姿の老人と中型犬がやってきたんです。その犬は少し薄汚れていましたが、好奇心旺盛なクルミちゃんはその犬の元に駆け寄ってじゃれあい始めました。私は軽く会釈し老人と会話しました。すると、一緒に散歩をしていた他のセレブ妻たちはなぜか急いで一斉に自分の犬を抱き上げ、接触を拒否したんです。
これには老人も困惑し『なんで? 犬同士仲良くしたいんだから可哀想でしょ』と不機嫌そうな表情に。語り出そうとする老人に対し、犬友さんたちは『いえ、結構です。帰ります』と途端に冷ややかに。そして犬を抱き抱えたまま、来た道を戻り始めたんです。抱き抱えられた犬もなんだかおすまし顔でした。
わけもわからずその場をぐるぐると周り出すクルミちゃん。老人にちらりと一瞥され微妙な空気感の中、私は犬友さんたちの後を追うしかありませんでした」
◆マウンティングの数々にげんなり…
「突如の出来事にびっくりし、様子を窺ってみると『噛まれたら大変だものねぇ〜』と奥様たちは急によそよそしくなりました」
いつもの優しい談笑と冷ややかな表情のギャップに並木さんは軽く衝撃を受けたそうだ。
「初めてできた犬友さんたちとの交流が嬉しくて、今まで気づかないふりをしていたのかもしれません。犬友さんたちは今でも『あそこの犬はよく吠えるわね』、『庭のお手入れがいまいちだわね』と囁きあいながら日々お散歩を続けています。これは秘密なんですけど……。皆さんとラインを交換する勇気はまだ出ないので、お散歩するときはわざと携帯を置いていくんです」と並木さんはぺろりと舌をだす。
人間も犬のように無邪気な世界で生きたいものだ。
<TEXT/おせりさん>
【おせりさん】
下北沢に住む32歳。趣味はポーカーとサウナ、ホラー映画鑑賞。広告代理店・制作会社を経てフリーランスのブロガー兼ライターに。婚活ブログ『アラサー女の婚活談義』と生きることをテーマにした『IKIRU.』を運営中。体験談の執筆を得意としている。X(旧Twitter):@IKIRUwithfun
並木吉子さん(仮名・56歳)は高級住宅街の端っこに住んでいる専業主婦。「去年、トイプードルのクルミちゃんを飼い始めたんですけど、最近ちょっとびっくりしたことがあって……」と、おっとりとした口調で彼女は語り出す。
「ある日、クルミちゃんと家の近くをお散歩していたら、同じくお散歩中のトイプードルと遭遇したんです。すごく可愛いお洋服を着ていて、トリミングも完璧なワンちゃんでした。人懐っこい性格のクルミちゃんはしっぽを振って駆け寄り、気づくと犬同士でじゃれあっていました。『あら、可愛いわねと』と声をかけてくれたのは品がいい奥様です。同じ犬種を飼っているということもあり、会話が弾みました」
初めてできた犬友さんに並木さんはトキメキを感じたという。
「『今から公園まで行くけど一緒にいかが?』と奥様が誘ってくれ、私は喜んでクルミちゃんとついて行きました。公園にいたのは大勢の犬と飼い主さんたちです。どの犬も高そうな洋服を纏い、毛並みが揃っていて溺愛されたセレブ犬といったところでした。何回聞いても覚えられないような洒落た名前の外国犬種がいたり(笑)。そこでは、お互いに手作りのお菓子を持ち寄って交換する会が開催されていたのです」
犬を飼い始めたばかりの並木さんに、犬友さんたちは親切にしてくれたようだ。その華やかな集まりに胸を躍らせ、決まった時間に決まったメンバーが集まるルーティーンに自然と参加するように。
◆親切な犬友さんたちとの交流が始まる
「犬友さんたちはおすすめのペットフードや近所の動物病院の評判など、犬にまつわるいろんな事を教えてくれました。オーガニックの手作りお菓子を振る舞ってもらったり、自宅に招いてもらい広いお庭で走らせてもらったり、おさがりの洋服をいただいたりと、とっても親切にしてくださるんです。初めての“犬育て”なので大変心強くて。でもどこかで違和感があったんです」
並木さんは犬友さんたちから発せられる言葉の節々に、ほのかではあるもののマウンティングの気配を感じていたようだ。
◆「作業着姿の老人」とすれ違った瞬間、雰囲気が一変
「ある日の夕方、犬友さんたちとお散歩をしていた時の出来事です。いつもよりも少し遠出をして、私たちが住む住宅街から外れたエリアを歩いていました」
5〜6匹の犬を引き連れ、歩く5人のマダムたち。その姿はまるでアベンジャーズのようだったと並木さんは語る。
「向かいから作業着姿の老人と中型犬がやってきたんです。その犬は少し薄汚れていましたが、好奇心旺盛なクルミちゃんはその犬の元に駆け寄ってじゃれあい始めました。私は軽く会釈し老人と会話しました。すると、一緒に散歩をしていた他のセレブ妻たちはなぜか急いで一斉に自分の犬を抱き上げ、接触を拒否したんです。
これには老人も困惑し『なんで? 犬同士仲良くしたいんだから可哀想でしょ』と不機嫌そうな表情に。語り出そうとする老人に対し、犬友さんたちは『いえ、結構です。帰ります』と途端に冷ややかに。そして犬を抱き抱えたまま、来た道を戻り始めたんです。抱き抱えられた犬もなんだかおすまし顔でした。
わけもわからずその場をぐるぐると周り出すクルミちゃん。老人にちらりと一瞥され微妙な空気感の中、私は犬友さんたちの後を追うしかありませんでした」
◆マウンティングの数々にげんなり…
「突如の出来事にびっくりし、様子を窺ってみると『噛まれたら大変だものねぇ〜』と奥様たちは急によそよそしくなりました」
いつもの優しい談笑と冷ややかな表情のギャップに並木さんは軽く衝撃を受けたそうだ。
「初めてできた犬友さんたちとの交流が嬉しくて、今まで気づかないふりをしていたのかもしれません。犬友さんたちは今でも『あそこの犬はよく吠えるわね』、『庭のお手入れがいまいちだわね』と囁きあいながら日々お散歩を続けています。これは秘密なんですけど……。皆さんとラインを交換する勇気はまだ出ないので、お散歩するときはわざと携帯を置いていくんです」と並木さんはぺろりと舌をだす。
人間も犬のように無邪気な世界で生きたいものだ。
<TEXT/おせりさん>
【おせりさん】
下北沢に住む32歳。趣味はポーカーとサウナ、ホラー映画鑑賞。広告代理店・制作会社を経てフリーランスのブロガー兼ライターに。婚活ブログ『アラサー女の婚活談義』と生きることをテーマにした『IKIRU.』を運営中。体験談の執筆を得意としている。X(旧Twitter):@IKIRUwithfun