フランス戦でブーイングを浴びたククレジャ。(C)Getty Images

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 ドイツで開催中のEUROの準決勝で、スペイン代表がフランス代表に2−1で勝利し、12年大会以来となる国際ビックトーナメントでの決勝進出を決めた。

 準決勝にふさわしい好勝負をファインゴールが彩る。フランスはキリアン・エムバペの好クロスからランダル・コロ・ミュアニが鋭い動きでマークを外してヘディングシュートを決めると、スペインもすぐさま反撃。16歳のラミン・ヤマルが度肝を抜くゴールを決めた。左足から放たれたシュートのすばらしさ。あまりに美しい放物線に感嘆の声しか出てこない。

 さらにダニ・オルモが続く。素早い身のこなしと狭いスペースでの巧みなボールコントロールで空間と時間を支配し、鋭いシュートで逆転ゴールを奪ってみせた。

 フランスも猛攻を仕掛けるが、スペインの狡猾で激しい守備を崩すことができない。最後まで見どころ満載の試合だった。
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 そんな名勝負に水を差したのが、ボールを持つたびに起こったスペインの左SBマルク・ククレジャへのブーイングだ。ドイツとの準々決勝の延長戦で、ジャマル・ムシアラのシュートが手に当たりながらPKにならなかったことへの不満の表れだと思われる。

 ドイツが準決勝進出すると信じて、チケットを購入していた開催国のファンが多かったのかもしれない。だからとしてもこの振る舞いはいただけない。

 スペイン代表のDFダニ・ビビアンは「残念だと思う。ブーイングにふさわしい選手なんていない。サッカーの試合にブーイングするために来る人がいるなら、自分のやるべきことに取り組んでいる人へのリスペクトを持ち合わせていない」と話していたが、もっともな批判だ。

このブーイングに批判的な見解を示すドイツのファンや関係者も多い。テレビ解説を務めたドイツ代表のレジェンドでるローター・マテウス氏もこうしたファンの振る舞いに物申していた。

「サッカーは情熱のスポーツだ。試合中にはいろんなことが起こる。だが彼が何かをしたわけではない。判定への疑問があっても、それは主審の判定であり、選手がしたことではない。試合が終わればそれをいつまでも引きずるべきではない。それにククレジャは素晴らしいプレーをしているではないか」
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 多くの人が集まるスタジアムでは匿名の力が大きくなる。グループダイナミックというのは、ポジティブにもネガティブにも傾いてしまう。1人や少人数ではできないことでも、そこまで不満を抱えていたわけではなくても、集団が膨れ上がることで気持ちのたかが外れやすくなってしまう。

 そこに《自分》はもはやなく、巨大な何かに飲み込まれたものが残るだけ。だからこそ意識的にやらないことを決断することが大切なのだろう。

 僕はフランクフルトのパブリックビューイングでこの試合を観戦していた。すぐ近くにドイツ人グループがいて、そのなかで1人の父親が小学生くらいの息子に話していたことが印象深い。

「スポーツはどう戦って、どう勝ち負けと向き合うかこそが大事だ。負けた時こそ自分と向き合い、《良き敗者》でなければならない。負けたことをいつまでもイジイジ言うのはよくない。どれだけ悔しくても、納得いかないことがあっても、それを受け入れて、勝者に拍手を送るべきなんだ」
 
 今回のようなミスはどこででも、誰にでも起こりうることかもしれない。それこそ少年スポーツの現場でも、似たようなことが起きたりしてしまう。周りがやっているから自分もやっていいわけではないのだ。

 男の子はじっと父親の声を聞いて、「そうだね」とうなづいて、大型スクリーンに映し出されたスペイン代表にそっと拍手を送っていた。周りのドイツ人ファンも同じようにしていた。スペインファンが拍手を返していた。

 スポーツとはどうあるべきか。周りに流されないためにはどうしたらいいのか。そんなことを考える大事な契機となってほしいと願うばかりだ。

文●中野吉之伴