文春砲の陸将補、陸将に昇格内定 …ハラスメント被害申し出1325件中6割「改善が期待できない」などと窓口利用せず

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 2020年の文章砲をくらった陸将補がこの度、陸将に昇格することが内定したことが、元プレジデントで作家の小倉健一氏による取材で分かった。本件に関しては、当時防衛大臣であった河野太郎氏が「事実誤認」「ずさんな報道」などと批判していたが、文春が続報で反論していた。一体何が起きたのだろうか。小倉健一氏が解説するーー。

防衛省・自衛隊でのハラスメントに関する「特別防衛監察」…被害の申し出は1325件

 自衛隊はどこへ行くのだろう。

 国民、いや自分自身の生き死にを迫られる戦場において、究極的な精神の強さが求められるのは疑いのないことであろう。しかし、根性論だけでは絶対に勝てないのも現実だ。自衛隊の現場では、通常の会社組織と違ったコンプライアンスが求められるのは当然のことだが、だからといって、コンプライアンスが不要であることは全く違う。むしろ規律という意味では、より高い潔癖性が求められる組織である。

 偉そうに物事を語りたいのではなく、要するに、現場ではパワハラと指導の区別が判然としないような行為が起きてしまう可能性の高い集団ではあると思うが、パワハラと判断されたらきちんと処分し、パワハラ、セクハラを減らす組織的なアプローチをきちんとしておけよということである。ハラスメントを、現実的にゼロにはできないし、判然としないケースも多いだろうが、だからといって、それが絶対にいいことではないことを組織として行動で示せということだ。

 2023年8月18日に、防衛省は、防衛省・自衛隊でのハラスメントに関する「特別防衛監察」の結果を公表した。被害の申し出は1325件にのぼったが、「改善が期待できない」などとして6割超のケースで相談窓口を利用していなかったという。この結果を受けて、朝日新聞は「組織内でハラスメントが相次いでいるにもかかわらず、適切な対応がとられていない実態が浮き彫りとなった」という評価をしている。

定員割れが続く自衛隊

 この「監察」は、元陸上自衛官の五ノ井里奈さんが同僚からの性暴力を告発したことを受け、浜田靖一防衛相が2022年9月に指示したもので、内訳はパワハラが1115件、セクハラが179件、妊娠や出産、育児を理由にしたマタハラなどが56件など。複数の種類にまたがるケースもあったという。

 ウクライナ戦争を受けて、日本は防衛費を倍増させるという政策転換をすることになったが、日本の防衛力は本当に強くなっているのだろうか。

 防衛省は2023年2月、「人的基盤の強化に関する有識者検討会」を設置し、7月に発表された報告書では「どれだけ高度な装備品等を揃えようと、運用する人材の確保がままならなければ、防衛力を発揮することはできない」として、人材確保は装備品の整備と並ぶ「車の両輪」と位置づけている。

 自衛官の2022年度の定数は24万7000人程度であるが、実数は約22万8000人で、1万9000人ほど足りない。過去10年、充足率は91~94%程度で推移しているようだ。

自衛隊に組織変革が求められているが…

 ウクライナ戦争で、ロシア軍が苦戦しているのは、ウクライナ軍の精神性の強さにもよるのだろうが、やはりドローンを中心とする現代的な奇襲戦術にロシア軍が手こずっているためだ。戦争が長期化するにつれて、ロシア軍もドローン配備を増やすなど対策をとりつつあるが、屈強な兵士が銃を片手に突撃をするというよりも、ゲームのようにドローンを操って爆弾を相手に当てに行くということが戦場での雌雄を決することも多くなった。

 今後の戦場では、これまでの人間が突撃する形の、白兵戦、肉弾戦に加えて、AIやメカを駆使したものに変わっている。そうした戦場の激変に必要なのは、やはり多様で、高度な人材ということになる。

 そうした人材が、体育会系とされ、日常的にパワハラやセクハラが横行しているような組織に入ろうと思うのは、なかなか勇気のいることなのではないだろうか。防衛省も、自衛隊員として、そういった”ドローン人材”をリクルートし、また組織として活かすには、相当な組織変革が求められているということだろう。

文春砲をうけた陸将補の昇進に若手幹部が士気低下

 2020年、文春オンラインは当時の第1空挺団長(陸将補)のパワハラ疑惑を報じた。第1空挺団員全員の貯金やローンなど、家計について書類提出させ、100万円未満だと恫喝、部下に朝7時出勤、深夜帰宅の長時間労働を無意味に強いるという内容だった。本件に対して当時防衛大臣だった河野太郎氏は「事実誤認」「ずさんな報道」と批判していたが、その後2021年に文春側は続報として、当該人物が氏名非公表で「減給1月1/30」の懲戒処分を受けていた可能性を配信した。

 防衛省は文春側の取材に「懲戒処分の公表については、行政の透明性の確保や再発防止の観点から行っており、原則として処分された隊員の個人の特定につながる情報については、既に処分を受けている個人に更なる不利益を及ぼすおそれがあることから、公表しておりません。このため、特定の隊員が懲戒処分を受けたか否かについては、回答を差し控えます」という回答をした。一方で文春側は”内情を知る陸自幹部”による「今回、懲戒処分を受けたのは間違いなく」当該人物であるという証言を掲載している。

 読者からすると生煮えの結末となっているが、この度新たな動きがあった。防衛省関係者によると、その人物が陸上自衛隊の幹部ポストである『第四師団長』(陸将)へと昇進することが内定しているという。

「吉田圭秀統合幕僚長はパワハラ処分をやりすぎた」の信じられない声

 防衛省関係者は、この人事の内幕をこう暴露する。

「吉田圭秀統合幕僚長は、五ノ井事件に際してかなり厳しい姿勢を取り、その他のハラスメント事案も処理すべく特別防衛観察まで発動し、次々とパワハラ幹部を左遷した。だが、これに伝統的な自衛隊の”パワハラ気質”に肯定的な一部の陸自OBが不満を持った。また省内でも『吉田さんはやり過ぎた。元の自衛隊に戻すべきた』『五ノ井案件が終わったので、パワハラ処分はもうやらない』という信じられない声を挙げるを人もいる」

 第1空挺団長のパワハラがあったのかなかったのか真実は藪の中だが、本件により一部の若手幹部らの士気の低下を引き起こしているという。

 自衛隊が、より洗練され、近代化した組織に生まれ変われないのであれば、防衛費を倍にした意味など、完全に無になってしまうだろう。吉田圭秀統合幕僚長は、日経新聞(2023年7月29日)のインタビューでこんな話をしている。

何のために防衛費を倍にしたのか

「これまではいざとなれば傍らにいる米軍の抑止力に頼れた。米国への依存が大きすぎると、米国内で費用対効果を問う声が出る。日本が自立的にできる部分を増やすことで同盟の対処力を強める」「平時の自衛隊は警戒監視や情報収集で力を発揮することが重要だ。人工知能(AI)や量子暗号など先進技術の優位性も維持しなくてはならない」「先進技術は今までの防衛産業だけではつかみ切れない。先行するスタートアップとの関係を築き上げていく。民生技術を防衛に転用する仕組みをつくり、官民を挙げて防衛装備の輸出も推進する」「産業界だけではなく、アカデミア(学術界)とも連携を深める。アカデミアは長らく軍事にあまり触れない風潮が強かった。直接的な対話を始め、今の安全保障を理解していただくよう努力する。まずは距離を詰めていきたい」

 詳細は記事を読んでもらいたいが、発言の一つ一つに深い洞察があり、自衛隊の未来を具体的に描く、興味深いものだった。吉田氏や吉田氏のような考えを持つリーダーに、引き続き、防衛政策を担ってもらいたいものである。