妖怪の旅・栃木県那須町。「殺生石」「九尾の狐」伝説の地を巡る

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江戸文化ライターの櫻庭由紀子です。普段は、落語や歌舞伎などの近世芸能や文化の研究と執筆、噺家(はなしか)・三遊亭楽松のおかみさんをしております。

今回の旅先は、「殺生石」にまつわる妖怪「九尾の狐」と「玉藻前」の伝説を追う、冬の栃木県那須町です。

高原リゾートの印象もある那須ですが、有名な史跡や神社がたくさんあり、実は怪異ロマンあふれる魅力的なパワースポットなのです。開運エネルギーをチャージに行ってまいります!

東京駅

観光・温泉郷の玄関口「黒磯」へ

本日の目的地は、九尾の狐の怨念が閉じ込められたという「殺生石」がある栃木県那須町高原。

JR東京駅から東北新幹線「なすの」に乗ってJR那須塩原駅まで約1時間、那須塩原駅でJR宇都宮線に乗り換えて1駅、JR黒磯駅へ向かいます。

黒磯駅には、那須御用邸へ避暑に向かう皇族が使用する「貴賓室」があります。

黒磯駅の貴賓室。通常は見学できません

2005年(平成17年)を最後に皇室による利用はされていませんが、イベントの際などに特別公開されることもあるようです。通常は、駅出入り口の横に重厚な扉を見ることができます。

黒磯駅から殺生石のある那須湯本温泉へはバスで向かいます。終点の那須湯本温泉までに、周辺の観光スポットにも停車するので散策に便利です。

黒磯駅

冬も美味しい! 那須の農産物・特産物に大満足

せっかく那須に来たんだったら、土地の美味しいものを堪能したい! てなわけで、バスに揺られて約35分、「一軒茶屋」バス停で下車して徒歩2分程の古民家レストラン、「水車の里 瑞穂蔵」に寄って腹ごしらえとまいります。

瑞穂蔵の敷地内には、お土産処とお食事処があります。お土産処では、那須産のお米や漬物、豆など地元の農産物が販売されています。

お食事処は敷地の奥にある古民家。雪景色の中、雰囲気満点です。

店内は、太い梁や柱が時代を感じさせます。木の温もりが冷えた体を温めてくれるようです。

定食や季節限定メニューをいただくことができます。ここは一番人気の「田舎膳」(税込1,300円)をいただきましょう。

メインは「茄子の揚げ浸し」。那須だけに茄子!

お店こだわりの那須産コシヒカリの「炊立て『かまど炊きごはん』」。お焦げがうれしいじゃありませんか。

卵は那須産の御養卵。プリプリで濃い黄身が炊き立てご飯によく合います。最強TKGを堪能できますよ。

自家製の豚汁には、那須産の豚が使われています。小鉢は日替わりだそうです。山の幸がたっぷりでヘルシー。

再びバスに乗り込み約12分、「那須湯本温泉」バス停に到着です。この辺りは名前のとおり温泉郷。雪景色の中、あちこちから温泉の湯気があがっています。硫黄の香りも旅の気分を盛り上げます。

那須湯本温泉周辺

那須温泉神社と九尾稲荷神社にお詣り

バス停の目の前に那須高原観光案内センターがあるので、見どころを教えてもらいましょう。周辺地図をいただくこともできます。「殺生石」への道順はバス停からは分かりにくいので、ここで聞いておくと安心です。

バス停から徒歩約1分、足湯「こんばいろの湯」は無料で入ることができます。神社の参詣や殺生石周辺の散策から戻ってきたみなさんも、ここでひと休みしながら冷えた足を湯の中で温めていました。

「那須温泉(ゆぜん)神社」の鳥居は、こんばいろの湯のすぐ横。「本殿」と「九尾稲荷神社」は、参道をまっすぐ進んだ奥にあります。

降る雪が荘厳とした雰囲気を醸し出します。

参道の途中にある社務所にはお守りやおみくじが。御朱印は温泉神社と九尾稲荷神社の2種類がいただけます。

九尾稲荷神社の「九尾のおまもり」もこちらで頒布しています。九尾の狐が描かれていてご利益ありそう!

境内にある「愛宕社」の入り口には、愛宕福神水が流れていました。凛とした水の音に気が引き締まります。

那須温泉神社の本殿。那須温泉神社は、商売繁昌、家内安全、病気平癒、身体健全、縁結びのご利益があるといわれ、平安時代末期の武将・那須与一(なすのよいち)が祈願したところから必勝祈願のご利益もあるとされています。

創建は、第34代舒明天皇の御代。つまり飛鳥時代。狩ノ三郎行広という人物が狩で矢傷を負わせた白鹿を追って山中に入ると、白鹿が湧き出る温泉に浸かり傷を癒やしているのを発見しました。すると岩上に白髪の老翁が現れ、

「吾は温泉の神なり、汝の求める鹿はかの谷間の温泉に浴しておれり、その温泉は万病をなおして甚だ効あり。鹿の浴するも手負いを癒さんがためなり、汝よろしく之を聞きて万民の病苦を救うべし」

これを聞いた狩ノ三郎行広はこの地に神社を建立し、崇敬の誠をつくしたといわれています。

本殿の横にある鳥居の奥には「九尾稲荷神社」があります。こじんまりとしたお社です。

ご利益は商売繁昌と金運上昇。そして、九尾の狐の伝説は能や歌舞伎、小説の題材となっているからでしょうか、芸能・芸事のご利益があるとされています。

九尾の狐とは、古代中国から伝わる尾が九つに分かれた狐の妖怪です。明の時代に書かれた中国の伝奇小説『封神演義(ほうしんえんぎ)』では、殷の紂王(いんのちゅうおう)の寵姫・妲己(ちょうき・だっき)に化け、王を惑わせる妖怪として登場しています。

日本では、能の「殺生石」に登場します。平安時代後期、美しい悪女・玉藻前となり、時の帝(みかど)である鳥羽上皇を翻弄する妖狐の物語に、江戸の人々は夢中になりました。小説や歌舞伎などさまざまな芸能で語り継がれています。

殺生石

伝説の殺生石と千体地蔵

その「殺生石」は、九尾稲荷神社の奥に存在しています。

神社の横にある遊歩道を下っていくと、岩が転がる荒涼とした景色が。ちなみに、松尾芭蕉もこの地を訪れているそうです。

殺生石の周りは、火山性ガスが噴出しているため「鳥獣がこれに近づけばその命を奪う」といわれ、ガスが多い時には通行が規制されます。

ありました! これが伝説の「殺生石」です。そこだけ空気が違うような怪しさを感じます。

殺生石は、鳥羽上皇を惑わせる九尾の狐が化けた玉藻前の悪心が変化したものだといわれています。この玉藻前を成仏させるために、玄翁(げんのう)和尚が法事を行うと殺生石は三つに割れ、玉藻前は成仏したと伝えられています。

殺生石の近辺には遊歩道が巡らされており散策できます。岩が転がる「賽の河原」です。

見渡す限りに転がる岩と、積み重なった石と石。独特の静けさと相まって、どこか物悲しく感じます。

「教傅(きょうでん)地蔵」は、後醍醐天皇の時代、親不孝の報いを受け賽の河原で火に飲み込まれた少年僧侶を祀ったものです。江戸時代に村人たちによって、供養と親不孝の戒めとして建立されたそうです。

少年を弔うおびただしい数の地蔵たちは「千体地蔵」。那須町芦野の石工・櫛田豊氏が800余体の地蔵をたったひとりでつくり上げたそうです。

雪をよける赤い帽子は地元の方が被せたものでしょうか。しんしんと降る雪の中、祈りが静寂の中に染み入ります。

本日の旅はここまで。那須湯本温泉の宿にお世話になります。

那須塩原駅

玉藻前の姿を映した鏡が池

2日目は、宿をチェックアウトして那須塩原駅へ。ここから市営バスに乗って約25分、「篠原公民館前」バス停で下車して「玉藻稲荷神社」へ向かいます。

バス停の向かい側にある石塔。ここからまっすぐ進むと玉藻稲荷神社です。

玉藻稲荷神社の参道です。鳥居の向こうは異界の結界を感じさせる雰囲気。

風が鳴らす木々の葉音も木漏れ日も澄み切っています。

もうひとつ、小さな鳥居がありました。

静かな本殿。自ずと垂れる首。人気がない境内に、ひっそりと神々しく佇みます。

松尾芭蕉は、玉藻稲荷神社にも訪れたそう。投句できるようです。

「鏡が池」は本殿の横にありました。

静ひつな光のなかに浮かび上がる鏡が池の幻想的な光景に、時を忘れてしまいます。

鳥羽上皇に寵愛されていた玉藻前は、帝の病気を祓う際に九尾の狐の正体を現してしまい、この地に逃げ込みました。

蝉に姿を変え桜の木の陰に隠れていましたが、鏡が池に真の姿が映り、討たれてしまったといわれています。

奥には、小さなかわいらしい祠が。小さな狐の人形が3体。こちらにもお詣りしました。

再び市営バスで那須塩原駅に戻り、東北新幹線で東京駅へ。帰りはあっという間ですね。

温泉情緒に雪景色、九尾の狐伝説の聖地巡りと、ちょっと変わった趣向でしたが、怪異好きの方には、たくさんのインスピレーションが閃く旅となるのでは? 雪が降る中で殺生石をみていると、どこからか美しい玉藻前が現れ出でてきそうです。

東京駅

掲載情報は2022年2月21日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。