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輸入商用車 日本ならではの楽しみ方

text:Kenji Momota(桃田健史)

周知の通り、日本ではルノー・カングーが根強い人気を誇る。

フランスでは商用車であり、日本でもベーカリー、フラワーショップ、アパレルショップなどで商用として使われることがあるが、ミニバンっぽく乗用している一般家庭も多い。

ルノー・カングー    ルノー

そんな、日本でカングー人気が高い背景について、AUTOCAR JAPANで実車でのキャンプ体験をもとに探っている。

同記事にもあるが、AUTOCARの本国である英国でも、カングーを乗用化する流れが見えてこない。

日本でのフランス商用車人気の流れは、シトロエン・ベルランゴにも及んでる。2019年10月の日本市場デビューエディション限定100台が、ネット販売開始から5時間半で完売したニュースは記憶に新しい。

2020年2月上旬に神奈川県大磯町で開催された、毎年恒例のJAIA(日本自動車輸入組合)の輸入車試乗会でも、試乗予約時点でベルランゴ人気は明白になった。

ドイツ車に比べて、日本ではマイナーな欧州輸入車であるフランス車で、カングーやベルランゴが際立って注目されるという、この現実。

ユーザーからは「オシャレだから」「日本車にはないデザインだから」「ディーゼルのミニバンを探していたから」といった声がよく聞くのだが、もっと奥深い理由があるように思える……。

80年代 ミニバン常用化のはじまり

そもそも、ミニバンは「VAN(バン)」であり、「バン」とは商用車を指す言葉だ。

商用車では、荷台が屋外にあるトラックと、荷台部分がボディとして覆われているバンという2つの形式が主流だ。

2019年2月18日に、フィリピンにおいてハイエースの海外向け新シリーズを世界初披露している。    トヨタ

または、セダンを基調として、車体後部をトランク形状ではない大きな荷室形状にしたものも、バンである。

これはステーションワゴンといった、ワゴンとして乗用化されていったが、近年ではSUVにその座を奪われるようになった。

日本で「バン」の乗用化が社会現象となったのは、80年代に入ってからだ。

きっかけは、82年登場の3代目トヨタ「ハイエース」だ。ミニバンではなく、あくまでもワンボックスカーと呼ばれた。

当時、筆者は日本国内でレース活動をしていたが、様々なレースチームでハイエースの車内をカスタイマイズするのがトレンドになっていた。

その他、釣り、キャンプ、ハイキング、スキーなどのレジャー向けの「動く部屋」といったイメージが強かった。

こうした流れが、ハイエースと同時期にこちらは2代目へとフルモデルチェンジした「タウンエース」へと波及する。

いま振り返ってみると、80年代のワンボックスカーブームとは、車内空間が広いモデルが他になかったので商用車を使うが、商用車っぽさを極力消すようなカスタイマイズをするというトレンドだった。

90年代に入り、状況が一気に変わった。

みんなと同じじゃ、オシャレじゃない

90年代に入り、状況が一気に変わった。

トヨタ「エスティマ」の登場である。

それまでのバンやワンボックスカーなどの商用車イメージを完全に消した、まったく新しい発想のクルマだった。

このデザイン、トヨタの米国デザインスタジオのCalty(キャルティ)作だ。

ロサンゼルスの南部、オレンジカウンティ・ニューポートビーチのキャルティを何度か取材したことがあるが、正面玄関近くの展示スペースには、初代エスティマ・コンセプトの模型が誇らしげに飾られている。

トヨタとしては、エスティマを単なるワンボックカー後継とするのではなく、最近の流行で言うならモビリティというイメージの、万国共通の「未来の移動空間」を狙った。

エスティマは、瞬く間に日本中に広まる。

そうなると、逆に「みんなと同じじゃ……」と、エスティマに対する「逆張り」のトレンドが生まれることも、世の常として理解できる。

その代表格が、シボレー「アストロ」だった。

芸能人らが日常の移動で重宝する様子を、自動車専門誌やバラエティーテレビ番組で紹介することで、短期間のうちに日本でのアストロブームが到来。

1ドル90円を切る超円高時代だったこともあり、アメリカやカナダから大量のアストロが日本に流れ、アストロ御殿を建てる業界関係者が続出した。

欧州商用車 あえて選ぶ真の理由は

そのアストロ、90年代当時、筆者は全米各地を巡る生活をしていたが、アメリカでアストロを乗用化する人は極めて少なかった。

あくまでも、日本の一部メディアなどが仕掛けた、日本特有のブームに過ぎない。

シトロエン・ベルランゴ    シトロエン

一方、最近のルノー・カングーやシトロエン・ベルランゴのユーザーの愛車に対する考え方は、90年代のアストロとは大きく違う印象がある。

ユーザーは、ネットやSNSで本国フランスでのカングーやベルランゴの社会における位置付け、使われ方、そして現地価格も承知している。

そのうえで、「このデザインや、こうした使い勝手が好きだから」と自分自身の判断で購入を決めている、のだと思う。

彼らが日本にある数あるミニバンではなく、カングーやベルランゴをあえて選ぶ真の理由とは「欧州で多くの人に認められた、しっかりとした商用車だから」ではないだろうか。

日本ではミニバンが、軽からプレマミアムまで乗用化にこだわり過ぎているのかもしれない。

商用車としての軸足があり、フランスや欧州各国の人々の生活に根差している存在であること自体が、カングーやベルランゴの魅力なのだと思う。

どうやら日本のミニバン文化は、90年のエスティマ登場以来、約30年で再び大きな節目を迎えているようだ。