上野樹里「生活の中で得たことがお芝居の味になる」
撮影/川野結李歌 取材・文/新田理恵 制作/iD inc.
スタイリング/岡本純子 ヘアメイク/HAMA

34歳、本屋で働く。彼氏は謎多き20歳年上の男!?
――上野さん演じる彩は34歳で、仕事は書店勤め。同居中の54歳の彼もアルバイトの給食のおじさん。そこに、兄夫婦に追い出されたお父さんまで転がり込んできて、3人の嵐のような共同生活が始まります。普通に考えたら「どうしよう!」と将来が不安になる設定ですが、彩に焦っている様子はないですよね。
もう、達観しているんじゃないですかね(笑)。妥協もしているし、ある程度、自分の限界も知っている。働き者だし、マジメなのに、上手く自分をプロデュースできてない感じというか、器用に生きていないけれど「それでもいい」っていう感じが、私はいいなと思いました。
――彼氏の伊藤さんも、一見ダメ男のようだけれど、実はものごとがよく見えていたり、「本当はデキる人?」と思わせられる不思議なキャラです。彩とはなんとなく似てる気がします。
ふたりともそんなに贅沢をしたいとは思っていないし、生きていけるだけの自立はしている。ある意味、美しいなと思います。欲にまみれていないというか。はたからは「バイトでしょ? ヤバくない?」って見られても、彩たちは別に、「食べていけるし、子どもを産むつもりもないし」って思ってる。女性としては、ちょっと乾いてはいますよね。

――彩のファッションは、女子力が高いとは思えないですよね。そこが魅力でもありますが。
服装もデニムにTシャツという感じですからね。私も普段そういうファッションなので、彩と近い気はします。
――メンズっぽいジャケットに花柄スカートとか、劇中のファッションが素敵でした。演じ手として、上野さんからも意見を出したりしたのですか?
監督とスタイリストさんの間で決まっているものが多かったですが、監督は「樹里ちゃんの手足の長さがよくわかる服がいい」っておっしゃっていた記憶があります。私は首がつまった服が苦手だから、普段着のTシャツは首まわりが開いているものや素材感の良いものがいいとか、女子力の高い服は彩には合わないと思っていたので、あまり女性らしいデザインでなくていいという意見は伝えました。


――伊藤さんは20歳も年上ですが、年上の彼氏の魅力についてどう思いますか?
イコール、リリー(・フランキー)さんの魅力とも言えるんですけど(笑)。最初、20歳も年上の彼氏で、同居してるのに結婚はしないとか、「ヒモ?」って思ったんですよ。「そんな男性のどこがいいんだ!」って(笑)。
――(笑)。
設定だけ聞いたら、ジトッとした暗い映画にならないかな? って心配したんですけど、実際撮影してみたら、伊藤さんが家庭菜園で野菜を育ててくれたりして、なんだかちょっとホッコリしました。朝起きたら、ちゃんと朝ごはんができていて、ラップをかけて置かれているとか、彩にしてみたら、伊藤さんとは「一緒にいてもいいかな…」っていう感じの気持ちでいるんだと思います。
――一緒にいて“悪くない”というか…。
―緒にいても自分ひとりでいるときよりマイナスにはならないんですよね。伊藤さんって、豆知識が豊富で、何者かもわからない。「あなた、何者!?」って言うシーンがあるんですけど(笑)、噛めば噛むほど、味わいが増すんじゃないでしょうか。

リリー・フランキーと藤 竜也 大先輩の意外な素顔
――そんな伊藤さんを演じるリリーさんと、お父さん役の藤 竜也さんは人生の大先輩でもありますが、共演して勉強になったと感じることはありますか?
いろんな本を読まれているし、いろいろとストーリーを考えたり、撮影の合間にも「次、こんなことがやりたいんだよね」っていうお話をされたり、リリーさんは知識豊富な方なんですけど…。でも、雨のシーンでずぶ濡れのなか「もう1回!」とか言われると、変顔をしてみせたり、とてもユーモアのある方でした(笑)。
――そうなんですか(笑)。
撮影が夏だったので虫除けスプレーを使っていたんですけど、耳の中をかきながら「かゆい! 耳に塗るの忘れた!」って言うので、「なんで耳を刺されるときに気がつかないんですか? プ〜ンって音がするんじゃないですか」って聞いたら、「(蚊が)止まって、歩いて耳の穴に入ったんだよ!」って。全然ふざけて言ってるわけじゃないんですよ。そういうことがリアルに起こっている現場で、リリーさんはイスに座って次のセリフを覚えてる…。

――藤さんはいかがでした?
藤さんは、超余裕を持って行動される方で、現場には集合の1時間前とか、誰よりも早く到着されている。しかも、ご自分の運転で来るんですよ。待ち時間も、タバコを吸いながら、ずっと待つことを苦としていないような、そんな方でした。
――そんな3人の様子、観察していると面白そうですね。
3人でイスを並べて、同じ方向を見ながら全然違うことをずっとしている感じでした。普通、現場でしゃべらないと苦痛で、気を遣ってまわりに話しかけたりする役者さんも結構多いんですけど、そんな労力を使う人が誰もいなくて(笑)。

――居心地がいい現場だったわけですね。
そうですね。あんな近距離でリリーさん、藤さんと共演できたのはすごく貴重な経験でした。この後に撮った『青空エール』では初めて、共演者のほとんどが自分より年下ばかりの現場も経験したんですけど、『お父さんと伊藤さん』のときは、年上の方にはさまれて、自然と彩の可愛らしさとか、わがままっぷりが自分では意識していないうちに出ていた気がします。
