典型的な結婚できない女、杏子、32歳。

慶應大学卒業後、丸の内の某外資系金融でセールス職に就き、年収は2,000万円を優に超える。

美人だがプライドが高くワガママな彼女は、男運が悪く全くモテない。さらにハイスペックゆえ、男が近寄りたくない女ナンバーワンとまで噂されている。

恋愛市場で負け続け、さすがに危機感を持ち始めた杏子。そんな彼女は婚活に本腰を入れることを決意し、結婚相談所に登録をした。そして初のマッチングデートを済ませたものの上手く行かず、婚活アドバイザーの直人から痛烈なダメ出しを受けてしまったが...?




―あの女と私は、一体何が違うの...?



「食事会にイイ男はいないとか、そういった固定観念や高飛車な思想は捨てて、とにかく出会いの機会は逃さないようにしてください。少なくとも、杏子さんはもう少し異性に慣れてください。」

婚活アドバイザーの直人に口を酸っぱくして何度も言われたため、杏子は久しぶりに食事会に参加してみることにした。

もちろん、婚活のメインは結婚相談所だ。杏子はその後、自分からも3人の男性に「会いたい」のオファーを出した。(自分からオファーなんて出したくはなかったが、直人に強制された)

さらに直人は、次のマッチングデートまでに、できるだけ杏子自身でも男性と触れ合う機会を作り、モテる女の観察をするよう指示した。要は宿題を出されたようなものだ。

もはや婚活とは、受験や就活と同じものなのかもしれないと、杏子は思う。

つい最近まで、婚活目当てで食事会を渡り歩いているような、雰囲気だけ可愛い系のOLを、杏子は馬鹿にしていた。エリートサラリーマンに群がるみっともない女たちだと、完全に見下していた。

しかし、それは間違っていたのかも知れない。

彼女たちは、少なくとも杏子よりはずっと早く結婚のハードルの高さを認識し、戦略を練ってアクションを起こしていたということだ。今となっては尊敬にすら値する。(態度には出さないが)

そして実際、彼女たちのほとんどは、30歳までにそれなりの相手とゴールインを果たしていた。

自分にも、同じ業が成せるのだろうか。


杏子、社内のマドンナ的存在のモテ女観察を決意する...!


社内のマドンナ的存在のモテ女は、ただのGold Digger?


食事会に誘ってくれたのは、同じ会社のバックオフィスに務める由香という同期だった。杏子とは同じ大学出身で、付き合いは長い。ふわりと柔らかいオーラを持つ彼女は、いわゆる癒し系として社内でも評判が高く、マドンナ的存在の女だ。

しかし、この女に夢中になり泣かされた男は数知れない。昔からハイスペックな男たちを掃いて捨てるほど渡り歩いていた。さらに、実は彼女は既婚を通り越してすでにバツイチ、現在は社内不倫中と噂の、とんでもない女である。

由香が結婚を決めたとき、周囲の男たちはこぞって落胆していたし、離婚をするとソワソワと喜んでいた。杏子はそんな彼らに、冷たい視線を送ったものだ。

この業界の男たちは、西麻布あたりに生息する財力でしか男を評価しない、甘やかされた女たちが大嫌いだと、常日頃から宣言している。それなのに、結局引っかかるのは由香のような、「ザ・ゴールド ディガー」(Gold Digger)、つまり金目当ての女ばかりなのだ。

杏子は由香のことが嫌いというわけではない。しかし、会社でも女を全面に出し、男たちをあしらいながら要領よく仕事をこなす彼女は、自分とは全く別の人種なのだと一線引いた付き合いをしていた。

しかし、背に腹は代えられぬ。杏子は由香の絶好のタイミングでの誘いに乗ることにした。




退社後にオフィスビルのエントランスで落ち合った由香は、ベビーピンクのノースリーブのサマーニットに、真っ白なフレアスカートを合わせていた。肩にはセットアップのカーディガンをちょこんと乗せ、耳元には静かに揺れる華奢なパールのピアス。よくよく由香を観察すると、直人の勧めるコーディネートそのものだ。

「ダメもとで誘ったのに、杏子が来てくれるなんて思わなった。美人がいると男性喜ぶから、嬉しい♪」

そう微笑む由香のメイクは、かなり薄い。アイラインなど、ほとんど引いていないように見える。唇だけが桃色に潤っており、それが彼女の童顔と肌の白さを引き立たせ、まるで風呂上りの赤ん坊のように見えた。

「今日は、たまたまヒマだったのよ。」

杏子は尖った声が出てしまったのを少し後悔しながら、二人で『ミクニ マルノウチ』へ向かった。


杏子が目の当たりにした、圧倒的なモテ女の底力とは...!


か弱いウサギのような女に好意を寄せる男たち。難解な「モテ」の秘密


予想はしていたが、相手の男性陣は皆、明らかに由香狙いだった。医者や経営者と言ったハイスペックの彼らは、失礼でない程度に杏子や他の女性にも気遣いは欠かさなかったが、由香へのずば抜けた興味は手に取るように感じ取れた。

「由香ちゃんは、優しいんだね」
「由香ちゃんは、きっと育ちがいいんだね」

由香を褒めるときだけ、彼らはお世辞ではなく、うっとりと目を細めて彼女を見つめる。なぜ彼らは、か弱いウサギのような仮面を被っただけの、この悪女の本性に気づかないのだろうか。

由香はと言えば、特によく喋るでもなく、ヘラヘラと始終笑顔を浮かべているだけだ。

「どんなタイプの男性が好き?」と聞かれても、「うーん......どうでしょう...」と、中途半端に微笑み、答えを与えなかったりする。しかし男たちはそれぞれ、由香の無言を自分の都合の良く解釈するようで、やはり満足気に豪快に笑うのだ。

杏子は由香の観察に精を注いだが、「モテ」のセオリーは、やはり上手く解明することは出来なかった。




「杏子、気に入った人はいた?」

帰り際、由香に小さな声で耳打ちされた。その微笑みの裏には、「でも、皆私が好きだけど、ごめんなさいね」というセリフが隠されているように思えてしまう。

「うん...。でも私、お食事会ってやっぱり苦手で。数時間じゃ、あまり分からなかったわ。」

「そうか...残念。あ、そういえば、私、知樹くんと最近よく連絡を取ってるの。杏子と別れたのは少し前だって聞いたけど、一応報告しておこうと思って。また女子会で近況アップデートしようね。」

由香は可憐な笑顔と共に最後にサラっと大きな爆弾を落とし、男性陣の一人の医者とタクシーに乗り込み去って行った。

杏子を送ると手を挙げる男はいない。杏子は軽くお辞儀をして小走りにその場から去り、少し距離を置いたところで一人タクシーを捕まえた。


ダメ出しより胸に堪える、同性から見せつけられた圧倒的な格差。


一人になった瞬間、どっと疲れが噴き出した。同時に涙が溢れそうになるのを、何とか堪える。直人から出された宿題は、予想以上に重かった。

杏子は今回も、誰からも連絡先を聞かれなかった。その上、元彼まで奪われていた。

由香を恨むわけではない。しかし、外見もキャリアも自分より劣る女が、明らかに自分よりもモテている様を目の当たりにすると、どうしても心がザワついた。

直人に酷いダメ出しをされるよりも、同性から圧倒的な差を見せつけられる方が、何倍も胸に堪える。

先日直人に言われた通り、張り切ってラベンター色のブラウスを着て食事会に挑んだ自分が馬鹿みたいだった。所詮、ピンクの似合う女には敵わないのだろうか。

沈んだ気持ちでタクシーに揺られていると、スマホが鳴った。

-今週土曜日、京王プラザホテル『アートラウンジ』に13時、正木様とのお時間を設定しました。僕と12時に待合わせ、事前に少し打合せをしましょう。

直人からのメールだった。杏子からオファーを出した男性の一人と、マッチングが成功したようだ。食事会で荒んだ心に、一筋の光が射す。

-直人に会いたい...。

杏子は、一瞬無意識にそんなことを思った自分に驚く。違う、自分は疲れているのだ。それに、この不可解な由香と自分の差を、直人に合理的に解説してもらいたいだけだ。杏子は首を振って思考を正す。

-でも...もし直人が由香を見たら、何ランクって言うんだろう...。

しかし、再びそんな疑問が浮かぶと、杏子は悔しくて頭がおかしくなりそうだった。

-次回、直人と待合せた杏子は...?

【これまでの崖っぷち結婚相談所】
vol.1:美貌とキャリアを手にした女の哀しいプライド。そして、その本音。
vol.2:結婚相談所という禁断の領域。エリート美女が、市場価値を算出される!?
vol.3:男の賞賛と畏怖の眼差しが、女の自尊心を満たす?!エリート女の暴走デート
vol.4:どんなに美人でもモテない?勘違いと高飛車のダブルパンチの痛い女