学生の窓口編集部

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安岡正篤氏といえば、昭和の歴代総理や大企業トップ・リーダーの指南役をつとめていた陽明学者であり教育者として知られています。終戦時には玉音放送の草案作りにあたるなど、天皇からも深い信頼を寄せられていました。

以前、TV「やりすぎ都市伝説」で、昭和史を動かした謎の黒幕的人物として紹介されましたが、このときは、敗戦国である日本がいかにして沖縄返還を実現できたのかが語られました。

安岡氏が佐藤栄作元総理に授けた、「戦勝以喪礼処之(戦いに勝ちては喪礼を以って之に処る)」という言葉が、ジョン・F・ケネディの心を捉え、交渉が着実に前進したというエピソードです。

ちなみにこの言葉は、『老子』第三十一章にある、「戦争に勝ったものは敗戦国を侮ることなく、喪に服すように礼節をもって接しなさい」という意味の教えです。

こうした先見の明、胆力といった人間力あふれる安岡氏を築き上げ支えていた大きな要素は学問であり、安岡氏曰く、「幼少の頃から四書五經を教へられ、日本外史や十八史畧を読まされた」ことにあるようです。

そのため、安岡氏は日ごろから学問の大切さを訴えていました。しかし、知識ばかりを重要視する現代の教育とは違います。

現代の教育とはそもそも、西洋に負けない近代文明を作りあげるための明治政府の施策で、西洋近代文明の模倣と再現に役立つ知識と技術を早く修得させるための学問だと安岡氏は説いています。

また、それらを身につけた有用な人材をいっぺんにつくるために必要だった施設が大学だというわけです。

しかしそこには、人の徳性を磨く学問が欠けていました。そのため、理論や理屈は達者でも、見識や器量ができていないという致命的短所が生じ、それが後の満州事変や第二次世界大戦といった誤った判断につながったと安岡氏は指摘しています。

こうしたことは通常の生活にもあてはまります。たとえば・・・会社に入って部下として働いている時分には成績優秀で頭角をあらわしていた人が、逆に部下を持つ立場になると潰れてしまうといったケースが少なくありません。それも、人としての器、見識の浅さにあるというわけです。

こうした現状と日本の将来を危ぶみ、安岡氏は幾度となく若い人達にむけて人間学の重要性を説き、具体的な読むべき書の紹介をしています。次に、読み方と合せて紹介しましょう。

●和書

・歴代の詔勅(天皇の発する公式文書)

・『古事記』『日本書紀』『古語拾遺』――味わいながら丁寧に読もう

●漢籍

・『小学』『孝経』――まずはこの2冊を読み、その次に四書↓

・『大学』『中庸』『論語』『孟子』

・『孟子』に対して『筍子』、『論語』に合わせて『孔子家語』を読むのもよい

・『礼記』――五経の中のひとつ

・『左伝』『書経』『詩経』『易経』――意味不明でも根気強く読むこと。すると自然にわかってくる。その後に次の2冊↓

・『老子』『荘子』

●近代もの

・『近思禄』『伝習禄』。『唐宋八家文』『菜根譚』『古文真宝』

●仏書

・『四十二章経』

・『法華経』『勝鬘(しょうまん)経)』『維摩(ゆいま)経』

●歴史書

・『史記』『十八史略』『太平記』『平家物語』など

また、海外ものでは『ブルーターク英雄伝』とセネカの書は必読とのこと。

学生時代は時間的にも余裕があるはずです。スマホを持つ手を書のそれにかえて、これらのうち1冊でも読んでみてはいかがでしょうか。

ところで、大人物ではあっても決して有名人とはいえない安岡氏。その理由もまた古代中国の教えにありました。それは、有名になると多くのしがらみが生じてきて本来やりたかったことがやりづらくなってしまうものですが、裏方でいることで力を及ぼし続けることができるという真理です。

生前よく安岡氏は、とくに若い人達に対し「有名無力、無力有名」という言葉でその重要性を説いていたそうです。

(文・鈴木ゆかり)

※参考

『運命を創る――人間学講話』(安岡正篤・著/プレジデント社)『運命を開く――人間学講話』(安岡正篤・著/プレジデント社)