中国に異変が起きている。ここ1年で2.5倍にも高騰していた上海株式市場の株価が6月中旬以降のわずか3週間で30%も下落し、経済パニックに見舞われているのだ。

暴落の原因は、投資資金を借りて株式を売買する信用取引が4兆2千億元(約83兆円!)にも達し、バブル崩壊を恐れた中国政府が株の売買制限を強化したことにあるとされている。

「そのため、信用取引で多額の株を買っていた個人投資家が損失を出すまいと一斉に売りに走ったんです。その結果、市場が売り一色になり、今回の暴落につながったというわけです」(経済ジャーナリスト)

中国事情に詳しいジャーナリストの福島香織氏によると、現地ではそれ以前から株価暴落の気配が漂っていたという。

「今年5月に上海に行ったんですけど、その第一印象は『元気がないな』というものでした。外国人観光客が少なく観光スポットはどこもガラガラ。外資系企業の撤退も増えて、外国人駐在員の姿もあまり見かけませんでした。

上海万博(2010年)の頃には市内にあるシャネルやヴィトンといった高級ブランド店の前にフェラーリやポルシェが並んでいたのにそんな光景も消えていた。この有り様で株価が史上最高値を更新しているなんて、どう考えてもおかしいと感じたものでした」

中国の個人投資家は9千万人(!)を超える。そのうち今回の株暴落で本当にボロボロになっているのは、分不相応な信用取引に手を出した人々だ。福島氏が続ける。

「通常の信用取引は証券当局が監視しており、レバレッジ(証券会社に預けた証拠金の何倍もの株取引ができること)比率は最高でも4倍ほど。でもそれとは別に『場外配資』と呼ばれるもうひとつの信用取引市場があって、こちらはレバレッジ10倍も可能なんです。例えば100万元を証拠金として預けると、1千万元まで株式投資ができ、利益も10倍に膨らむ。

ただその分、株が下落した場合の損失も10倍大きくなり、株価が10%下がっただけで、元金の100万元が吹っ飛ぶ計算になる。しかも、6ヵ月以内に追証と呼ばれる担保金を追加するか、借入額を返済しないといけないんです」

この「場外配資」市場で大やけどを負い、悲惨な結末を迎えたケースはいくつもある。多額の負債を苦にした自殺から、自暴自棄になった男性の通り魔殺人など、まさにレバレッジ地獄。阿鼻叫喚(あびきょうかん)の光景だ。

ただ、上海の株式市場はその後、やや落ち着きを取り戻し、株価も7月10日には10ポイントほど反発している。また7月15日に公表された2015年度上半期の経済統計によれば、GDPも前年度比7%増とまずまずの数字を出している。

ということは、このパニックもいずれは収束に向かうのだろうか?

「中国政府ならいくらでGDPを水増しできます。だからこそ李克強首相も『GDPではなく電力消費量、銀行融資額、鉄道貨物輸送量のデータを基準に実体経済を見ろ』と政府機関に指示しているんです。それに少々株価が持ち直したところで、儲けるのは『権貴族』と呼ばれる、中国共産党と結びついたひと握りの政商グループだけ。個人投資家の大部分を占める庶民は結局、損をする羽目になるはずです。

中国の株式市場は企業業績や景気動向では決まらない。政治と権力闘争によって決まるんです。だから、最後に株取引で利益を上げられるのは党中央幹部や解放軍幹部に政治的コネを持つ『権貴族』たちです。

彼らは株価に影響する政策変更や開発計画などを事前にキャッチできるので、株売買をしてもかなりの確率で儲けることができます。温家宝元首相の息子で投資ファンドを率いる温雲松氏などはその代表例でしょう。

一方、なんのインサイダー情報も入手できない庶民投資家の株式売買は基本的にギャンブルをやっているようなもの。しかも借金をしてまで株式投資にのめり込んでいるのですから儲けられるはずがありません」(福島氏)

ちなみに、福島氏によると「権貴族」は100人程度。つまり、9千万人の投資家のほとんどがハイリスクなギャンブルに金をぶっこんだ結果がこの中国の異常バブルの真相なのだ。

(取材協力/大橋史彦)