もしかしたら今回が最後?auの新HTC Jをとりまく老舗スマホメーカーHTCの苦悩

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HTCファンでもある筆者は、毎年Computex TAIPEIの取材のためこの時期に台湾を訪れているのだが、今年は例年とは様子が違うと感じた。台北市内のケータイショップを例にあげれば、新製品のHTC One(M8)一色になっていてもおかしくないはずだが、今年はASUSばかりを見かけるのだ。

どうやらHTCは、母国台湾でも勢いに陰りが見えるほど、かつてない危機と転換に迫られているようだ。


台湾のHTCショップ


●黎明期のスマホを牽引してきたHTC
HTCといえば、世界シェア10%を達成したこともあり、スマートフォン黎明期から市場を牽引してきたメーカーだ。過去にはGoogleのフラッグシップ端末Nexus Oneを開発するなど、その存在感はAndroid陣営の中で大きなものだった。
HTC端末の特徴は、高性能なハードやオリジナルのデザイン、独自のHTC senseでの使い勝手など、ハイエンドなスペックと高品質なデザインなど他のスマートフォンにはない長所が多い。そうした点がガジェット好きなユーザーたちから指示されてきた。

今でこそ日本では、XperiaやGALAXYシリーズなどに人気が集まっているが、ソフトバンクモバイルから販売されたDesireやDesire HDでHTCファンになったという人も多く、KDDI au のHTC Jシリーズでは、女性ユーザーや一般のユーザーにも人気が広がったことは記憶に新しい。
2014年auの夏モデル発表会でもKDDの田中社長が、新HTC Jの発表を先行予告したことからも、日本においてHTCのスマートフォンが根強い人気を持つブランドだということがわかる。

●低迷が続く中、大きな業績悪化とシェア低下を招いた昨年(2013年)
2013年の7〜9月期の決算で、HTCは市場初の29億7000万台湾ドル(日本円にして約101億6800万円)という赤字を計上した。赤字幅は市場予想を上回り、同社にとっては初の損失計上となった。

2010年の時点では4〜6月の決算で売上高が605億台湾ドル、純利益は860億台湾ドルと好調であったが、2013年の最終でグローバル市場のシェアは3%まで低下している。2011年から始まった市場シェアの下落と売れ行きの低迷は、部品調達の面でASUSやXiamiなどの後発メーカーに後れをとる結果を招いた。このことがHTCの新製品の市場投入の遅れや、アジア市場での低価格スマホ商戦での出遅れにつながり、大きなシェア低下を招いたと見られている。

HTCは、これまで幾度もあった危機説を乗り切ってきたが、今回は以前にまして厳しい状況をむかえているようだ。

●HTC王国台湾市場でも変化はおきていた
HTCは台湾を代表するスマートフォンメーカーだ。台湾での人気は絶大で当然シェアも高い。実際に台湾の街を歩いてみると街中でHTC製のスマートフォンを使う人を多くみることができる。特にハイエンド機であるHTC One(M8)やHTC Butterfly Sを手にする人が多い。一方で、低価格機種やミッドレンジのDesireシリーズなどを利用する人は少ないようで、台湾も日本と似たハイエンド指向の市場と言えそうだ。


ハイエンド機が主流の台湾市場


こうしたハイエンドなHTCスマートフォンが強い台湾でも、AppleのiPhone 5sやSamsungのGALAXY Note3などの人気機種の増加が顕著に現れている。特にiPhoneは昨年の同時期に比べて明らかに増えているし、Samsungにしても直営のショップが増えていた。HTCにとっては、お膝元である台湾市場でさえ、AppleやSamsunにシェアを切り崩されているといった印象だ。

●HTCが選択した復活策はミドルレンジ重視への方向転換?
現状のHTCの状況を見ると、アジアやアフリカなどの低価格市場では先行する後発メーカーに遅れをとり、ハイエンド市場はいうまでもなくAppleやSamsungにシェアをとられている。このままでは、MotorolaやBlackberryのような道をたどる可能性も否定できないという意見さえある。

こうしたグローバル市場での低迷の中、HTCが見いだした打開策が中価格帯の市場だ。2013年は、HTC Oneなどハイエンドの主力製品にこだわりすぎたことで、中価格帯の市場シェアを取りこぼしたと、HTCは分析している。そこで2014年の第2四半期以降では中価格帯の新製品の投入し、中価格帯から低価格帯の商品比率をあげて赤字から黒字に転換を目指すとしている。
HTCは看板とも言えるハイエンド戦略を控えて、中価格帯の市場で巻き返しを図ることを決意したようだ。

そうなると、気になるのは、我々の日本市場への対応だ。

●ガラパゴスなスマホ新HTC Jは今回限りか?
日本では先に述べたように、auから新HTC Jが投入されることが発表されている。
HTC J シリーズはKDDIとHTCが共同で開発またはカスタマイズした日本専用のオリジナルのモデルだ。

ハイエンド指向の強い日本市場むけの新HTC Jが、中価格帯のミッドクラスのスペックで登場するとは考えにくい。また、KDDIやHTC日本法人からも、ニーズにあわせた防水機能や画面サイズ、デザインなど、日本市場で勝負できるハイエンド仕様が要望されるだろう。

グローバル市場向け戦略とは別に、一部の国向けにラインナップを変更するといった対策は、SamsunのGALAXYやソニーモバイルコミュニケーションズのXperia などが既に実施しているが、専用モデルというのは少ない。

KDDIとの提携によるバックアップも大きいが、HTCも日本市場だけは「特殊=ガラパゴス」という認識があるのかもしれない。しかしながら、業績が低迷しているHTCにとってグローバル戦略との反するローカル対応は決して容易な取り組みではないだろう。

今後、HTCの新戦略でも低迷に歯止めができなければ、日本専用のHTC Jが登場し続けるかは微妙だ。もしかすると、状況しだいでは、今回が最後のHTC Jとなる可能性もあるだろう。

それだけに、世界で日本だけのスマホ「新HTC J」がどのような端末として登場するのか、非常に興味深い。


甲斐寿憲