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売れに売れている

本田技研工業(以下ホンダ)の小型EV『スーパーワン』(Super-ONE)が売れに売れている。昨年のジャパンモビリティショー2025で初公開し、今年4月10日に先行予約開始。5月21日に発売を開始したところ、6月初旬の取材時点で、実に約1万1000台を受注したという。

【画像】開発者が作りたいように作ったファンなスポーツカー!ホンダの小型EV『スーパーワン』 全83枚

その後も受注は伸びていて、実際に注文した知人によれば、今からだと納車は年明けの可能性が高いという。これは、ホンダにとって嬉しい悲鳴だろう。


6月初旬の取材時点で、実に約1万1000台を受注したという『ホンダ・スーパーワン』。    平井大介

購入しているのは筆者と同じ50歳代の男性が圧倒的に多いという。確かにシティターボIIを思わせるホットハッチへのノスタルジーだけでなく、何だか楽しそうな雰囲気は大いに共感できるもの。

『電動化の踊り場』という言葉を我々メディアはよく使うが、商品に魅力があればEVかどうかは関係ないことを、今回のヒットは物語っている気がする。もちろん燃料代高騰や補助金という、EVにとって追い風があることは見逃せない。

もうすぐ軽乗用車EV市場がホットに

ちなみに英国では既に新車登録の4分の1以上がEVとなっているが、未だ数パーセントに過ぎない日本も、数年後にはだいぶ増えると思っている。もうすぐ軽乗用車EV市場がホットになるからだ。

まず7月28日に『BYDラッコ』がデビューし、来年には新ブランドであるエムタから新型軽乗用車EVが投入される。スズキはジャパンモビリティショー2025で市販化を予感させるコンセプト『ヴィジョンeスカイ』を公開し、ホンダは先日のビジネスアップデートで、大本命『N-BOX』のEVを2028年に投入すると予告。


『ホンダが考えるファンなEV』がテーマとなっている。    平井大介

乗用車でも『スバル・トレイルシーカー』の販売好調など、EVに関するいいニュースが聞かれるようになってきた。

スーパーワンで一番いいと思うのは、ホンダの開発者が作りたいものを好きなように作ったところだ。『ホンダが考えるファンなEV』がテーマとなり、関係者の話を聞いていると、もちろん制約ゼロではないが、企画の段階でイチから考えることができたという。

今回参加した箱根の試乗会でお話を伺ったエンジニア氏によれば、大きかったのはベースとなるN-ONEのプラットフォームのデキがよかったこと。ボディやコンポーネンツをN-ONE e:と共用するところは前提としてありつつ、その上で、楽しいクルマを追求できたのだ。

おお〜スポーツカーだ

乗り始めると、まず試乗会場出口付近の整地が悪い路面でいきなりガツンと突き上げがあり、「おお〜スポーツカーだ」と締め上げた足まわりを実感。

しかし、剛性が高いのかボディが捩れる感じはなく、N-ONE e:の全幅1475mm/トレッド1305mmに対し、1575mm/1345mmと大幅ワイドになったことで安定、安心感もある。足の硬さを感じたのも最初だけで、動き自体はしなやかだ。


足の硬さを感じたのも最初だけで、動き自体はしなやかさもあるものだった。    平井大介

資料を見ると、接地点横剛性がN-ONE RSと比べてフロントが約37%、リアが57%向上しており、専用セッティングサスペンション、専用アルミ鍛造ロアアーム、強化リアアクスルビーム、左右等剛性ドライブシャフトと、走りがいかにもよくなりそうなワードが並ぶ。

そして一番大きいのは、車両重量が1090kgに過ぎないこと。EVとしては圧倒的な軽さだ。

箱根の細い道を走っていると、これくらいのサイズが日本ではちょうどいいことに改めて気づいた。ドライブモードは、エコン(ECON)、シティ、ノーマル、スポーツ、ブーストとあり、街中はノーマルで走るのがちょうどいいが、シティではワンペダル走行となり、しかも回生ブレーキがそれほど強くないのが、個人的には気に入った。

いい意味でおもちゃ感

最高出力は通常はN-ONE e:と同じ47kW(64ps)だが、ブーストモードにすることで、70kW(90ps)まで向上。また、スポーツとブーストでは、仮想有段シフト制御が入り、ブーストではアクティブサウンドコントロールが作動する。

こういったギミックを活用しながら走るワインディングは、率直に楽しいと思わせるものだ。いい意味でおもちゃ感があり、峠の麓に住んで休日に走りにいくという使い方は最高かもしれない。筆者は静岡県東部の箱根の頂上まで小一時間という場所に住んでおり、「これは欲しいかも……」という思いがじわじわと湧いてきた。


最高出力はN-ONE e:と同じ47kWだが、ブーストモードにすることで、70kWまで向上する。    平井大介

ちなみに航続距離はWLTCモードのカタログスペックで274kmとなり、ブーストモードを多用すれば距離は短くなるだろうから、『遊び場』まで近いことが前提だろう。自宅に充電環境も欲しいところだ。

サウンドコントロールは正直、音量と音圧が物足りなく感じた。エンジニア氏に聞くと社内でもかなり議論があったが、既存のシステムを使うことが前提となり、それ以上はコストアップに繋がるため断念。

4気筒らしい音色を参考にしながらゼロから作ったサウンドは、もっと軽快にすると速さに対し音だけ先に行く感じになり、比較的低音の現状に落ち着いたという。ちなみにゲームのスーパーマリオのような音も候補にはあったが、「結局ガチな方向になりました」とエンジニア氏。

また、峠を走るならもっと回生ブレーキが強くてもいい気がしたが、これもブレーキランプと連動が必要な法規の問題があり見送られた。

タイプRを作りましょう!

今回の開発は、まずテストカーを暫定で作りそれに役員を乗せ、クルマ自体の面白さをアピール。その役員からは『ホンダはこういうものを作るべき』という反応があり、スーパーワン誕生へ繋がった。

つまり、現場主導の本当に作りたかったモデルが、このスーパーワンというスポーツカーなのだ。まさかこんなに売れるとは思っていなかったらしく、他の軽自動車と混流している鈴鹿工場は増産に追われているという。


現場主導の本当に作りたかったモデルが、このスーパーワンというスポーツカーだ。    平井大介

言葉を選ばずに書けば、こういう商売っ気が足りない部分は、いかにもホンダっぽいと思う。これは大なり小なり他のホンダ車からも感じることで、それはファンとしては好ましいかもしれないが、ビジネス視点ではちょっと心配になることもある。

なお前出のエンジニア氏は、他にもハイパワー化、LSDを入れるなど、状況が許すならばやりたいことはあるそうで、筆者は「ならばタイプRを作りましょう!」と提案してきた。

『ホンダ・スーパーワン・タイプR』。白いボディに赤いインテリア、パドルはアルミ削り出しで……。現実的ではないがそんな期待もしたくなるほど、スーパーワンは魅力的な1台なのであった。