「親権を取り戻すための虚偽だ」弁護側の主張、裁判所は退ける…元妻への性暴力事件
元妻に対する不同意性交致傷などの罪に問われた元夫の裁判員裁判で、広島地裁は拘禁刑8年を言い渡した。元夫側は判決を不服として控訴している。
配偶者や元配偶者間でも性犯罪は成立するが、立件は珍しい。脅迫の声が被告人のスマートフォンに録音されていたことなど、客観的な証拠の存在が有罪認定の大きな決め手になったとみられる。
公判で、被告人は「同意があった」として無罪を主張。弁護側は、元妻Aさんが親権を取り戻すために「事実を曲げたり、誇張したりする動機があったことは否定できない」と最終弁論でうったえていた。(ライター・小川たまか)
●離婚後の養育権は元妻、親権は元夫だった
法廷で明らかになった夫婦の関係は複雑だった。
離婚後、子どもたちはAさんが育てていたが、親権は被告人、養育権はAさんが持っていた。Aさんと子どもたちは自宅を出たものの、「転校させたくない」という理由から、引っ越し先は徒歩数分の場所だった。
かつて家族で暮らし、離婚後は被告人が一人で住んでいた部屋の契約名義はAさんのままで、被告人の支払いが滞るとAさんに請求書が届いた。このため、Aさんは振り込み用紙をたびたび被告人宅まで届けに行く必要があったという。
法廷で養育費について問われた被告人は「払うと言ったが、Aさんから事業のことを先にやってと言われた」「教育費は払っていた」などと述べ、言葉を濁した。
婚姻期間中に被告人が無職だった時期もあり、その間も含めてAさんが昼夜働いて家計を支えていたという。
●「子どもの話がある」と呼び出した
離婚後も被告人は「近所からクレームが来ている」などと言ってAさんを呼び出していた。応じなければ自宅まで来たり、通勤途中で待ち伏せしたりすることもあり、Aさんは従わざるを得なかったという。
事件当日も、被告人がAさんを呼び出した口実は「子ども」だった。
午後9時ごろに送られてきたLINEには「子どもらのことで早急に記録残して話さなあかんことができたから今日夜10時30分以降に必ず来てください」「あなたの家庭が破綻しかけている」と記されていた。
Aさんは「わかりました。日付まわるまでに帰ります。子どもを寝かせてから行くんで23時頃になると思います」と返信し、被告人宅へ向かった。
被告人は「Aさんの育児について児相から連絡があった」と説明したが、実際には児童相談所から連絡はなく、被告人自身が児童相談所へ2度相談していたことが法廷で明らかになった。
●弁護側「事実を曲げたり、誇張したりする動機があった」
法廷で被告人は、Aさんが子どもを十分に養育・教育していないという趣旨の発言を繰り返した。
検察官から「児相に置き去りを問題にして通報したのに、あなたが夜にAさんを呼び出し、子どもたちと離れさせるのはいいのか」と問われると、「寝ていたら問題ない。寝たら起きないので。何かあったら連絡してくる」と答えた。
一方、弁護側は、Aさんに対して、午後11時に子どもたちを家に残して被告人宅に向かったことについて「時間をずらす提案はしなかったのか」と質問した。Aさんは「しなかった。提案しても受け入れてもらえるとは思わなかった」と答えた。
事件後、Aさんは親権者変更を申し立て、認められた。
弁護側は、離婚時に親権を望んでいたのではないかと追及したが、Aさんは「長引かせるよりも被告人の望み通りにした方がいいと思った」「(親権が欲しいと)思っていたら調停をしている」と説明した。
そして最終弁論で、弁護側は「結果としてAさんは目的を果たした」としたうえで、親権を取り戻すために「事実を曲げたり、誇張したりする動機があったことは否定できない」と主張した。
●判決は元妻の証言の信用性を認めた
判決は、Aさんの証言が録音データと整合していることや、事件が被告人による突然の呼び出しをきっかけに起きたことなどを踏まえ、弁護側が主張した虚偽や事実の誇張は認められないと判断した。
被告人は30代後半で、Aさんとは年齢が離れていた。Aさんは10代で被告人と出会い、10代のうちに出産、結婚している。
約10年の結婚生活について、Aさんは法廷で「気性の荒いところがあった」「子どもたちに些細なことで手をあげたり、店員と揉めたりすることがあった」と言葉少なに振り返った。
また、Aさんは事件当日以外も、離婚後に呼び出された末、不本意な性交に至ったことがあったと証言した。これに対して、被告人は同意のない性交は一度もなかったと主張し、弁護側は「離婚後も何度も家に足を運び、何度も性交した」とAさんを責め立てた。
しかし、Aさんの「提案しても受け入れてもらえるとは思わなかった」という証言や、被告人の呼び出しに応じ続けていた経緯からは、事件だけを切り離して評価することの難しさをうかがわせた。
判決も、一連の事情を踏まえてAさんの供述の信用性を認めており、法廷で示された証拠や証言などからは、事件が離婚後も続いていた両者の力関係の中で起きたことが浮かび上がっていた。
●判決の詳細はこちらの記事から
「元妻に「抵抗したら殺す」、不同意性交致傷で元夫に拘禁刑8年の有罪判決録音データが決め手に…広島地裁」
