歯を磨いているのに口臭が… 原因は「口呼吸」の可能性 放置するとさまざまな疾患に
程度の差こそあれ、9割の人が口呼吸の習慣を持つとされる。しかし、口呼吸は万病のもと。そこで、「みらいクリニック」の今井一彰院長が提唱するのは、「あいうべ体操」による、口呼吸から鼻呼吸への改善法である。
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病気や風邪の原因をたどっていくと、その多くが口呼吸によるものということが分かっています。複数の調査や研究で、口呼吸を自覚している方は20〜30%にとどまる一方、歯科医や耳鼻科医が気道の状態などを専門的に診ると50〜75%の人が口呼吸に分類されます。後述しますが、舌の位置が下がり、定位置にない状態を口呼吸と捉えるなら、その割合は9割にも及びます。口呼吸は万病のもとと言っても過言ではありません。口呼吸をどうにかして鼻呼吸に改善したい、そう思って考案したのが「あいうべ体操」です。この体操で、症状が劇的に改善した患者さんは何人もいます。

〈そう話すのは一般社団法人「慢性炎症コントロール・予防学会」代表理事で、福岡市の「みらいクリニック」院長を務める今井一彰医師だ。クリニックでは内科医として主に関節リウマチやアレルギー疾患、上咽頭炎などの病巣疾患治療に加えて、生活習慣指導を行っている。口呼吸の弊害や「あいうべ体操」の効果を訴えるべく、全国の学校や医師会などで講演。全国放送のテレビにも多数取り上げられている。
今井医師が病気の原因が口呼吸にあるのではないかと思い始めたのは、1998年ごろ。アトピー性皮膚炎や関節リウマチの患者の診察をしている時だったという。〉
口呼吸のチェックリスト
私がまだ勤務医として患者さんを診ていた時のことです。特にアトピー性皮膚炎の方とリウマチの方の口臭が強いことに気付いたんです。しかし、歯はちゃんと磨いているという。そこで、症状と口臭には何か因果関係があるんじゃないかと思ったのです。
ただ、当時、口臭と病気の関係を結び付けた論説はなく、体系的に解き明かした学問もありませんでした。
そんな時、口の中の炎症が体に回る、と書かれた免疫学者の本を読んだのです。今となれば歯周病が認知症や心臓病の主要なリスクになることが知られていますが、当時は歯周病菌がさまざまな病気を引き起こすなど思いもしませんでした。
では、自分が口呼吸かどうか、よく分からない方もいると思いますので、次のチェックリストで確認してみてください。
(1)いつも口を開けている。
(2)口を閉じると、あごに梅干し状のふくらみとシワができる。
(3)食べる時にクチャクチャ音をたてる。
(4)歯のかみ合わせが悪い。
(5)唇がよく乾く。
(6)口臭が強い。
(7)朝、起きた時に喉がヒリヒリしている。
(8)いびきや歯ぎしりがある。
(9)タバコを吸っている。
(10)激しいスポーツをしている。
一つでも該当していれば口呼吸をしている可能性があります。
口呼吸によって口内が乾燥すると歯周病菌が繁殖しやすくなるだけではありません。喉の奥は「ワルダイエル咽頭輪」というリンパ組織でぐるりと囲まれています。この組織は鼻や口から侵入するウイルスや細菌を防御する免疫の要ともいえる組織です。口呼吸をすると、その組織に冷気が直接当たるうえ乾燥します。冷えると白血球の力が損なわれ、乾燥すると細菌が繁殖します。その結果、慢性扁桃炎や感染症にかかりやすくなるのです。そして、炎症などで活性化した免疫細胞が全身を巡り、思わぬ臓器で免疫異常を引き起こしてしまいます。
全身の免疫を刺激
乾燥すると歯周病菌が繁殖しやすくなると言及しましたが、口の中には300〜700種類の細菌がいるとされています。歯周病菌はその中で唯一、歯肉のタンパク質を変化させる酵素を持っています。この酵素によってタンパク質が変質することを「シトルリン化」と言います。シトルリン化は関節でも起きます。変質したタンパク質を免疫は異物と誤認し、自己抗体を生み出して、自分の体を攻撃してしまう。これが関節リウマチの原因の一つなのです。
自己抗体が悪さをするという意味ではアトピー性皮膚炎も同様です。口呼吸によって細菌が繁殖し、慢性的な軽い炎症が持続すると、全身の免疫を刺激し続け、自己免疫疾患やアレルギーを誘発するのです。
その他、口呼吸は鼻呼吸に比べて呼吸が速くて浅くなるため、酸素や血液の供給量不足からくる代謝の悪化、運動能力や集中力の低下を招きます。また、口呼吸によって舌の位置が下がると気道を確保しようと頭が前に出るため、猫背になりやすいとされています。
口呼吸は歯並びにも影響します。最近は歯並びの悪いお子さんが多く、軟食傾向が一因だとされています。あごが発達せず小さくなるためですが、実は、舌の位置も関係するのです。舌の正しい位置は上あごに密着している状態です。舌が歯列を内側から押し広げるため、歯並びは正常なU字型になります。しかし、軟食は舌の筋力を低下させます。舌はスマホ1台分に相当する約150グラムもある大きな組織です。ここの筋肉が弱ると舌が落ち込み、自然と口が開いて口呼吸になります。つまり、軟食が口呼吸、そして歯並びの悪化を招く一因となっているのです。
なぜ現代人は口呼吸?
歯並びが悪くなるとうまくかめず、あごの筋力が低下します。すると、あごは横へ広がらず、面長になりがちです。面長は二つの問題につながりやすいとされます。一つは、眼軸長(角膜から網膜までの眼球の奥行き)が伸びることによる近視。もう一つは、狭くなった鼻腔による副鼻腔炎や鼻づまりです。鼻づまりは脳への酸素供給を妨げるため、注意欠陥・多動の一因にもなります。さらに歯の左右のバランスが悪いと、片側かみになりやすく、顔に左右差が出る人もいます。
では、なぜこれほど多くの現代人が口呼吸になってしまうのか。前述した軟食傾向とそれに起因する舌の筋力の低下や、あごの未発達もあると思いますが、私は習慣要因だと思っています。口呼吸は主呼吸筋である横隔膜は大きく動かず、込み入った鼻道も経由しないため楽なんです。子供が風邪を引き、鼻づまりから、そのまま口呼吸になる場合もありますし、乳幼児の時の吸啜(きゅうてつ)運動やハイハイが少なく全身の筋肉を使わないために口呼吸になる場合もあります。しかし、結局のところ「楽だから」ということに尽きると思います。
クリーンな空気
だからといってこれほどの弊害を生む口呼吸を続けるわけにはいきません。本来の呼吸である鼻呼吸へと戻す必要があります。
鼻呼吸では舌が上あごにぴったりと付きます。舌は血流が豊富で熱を持っていますから、鼻腔が温められて加温になる。鼻腔は湿っているので加湿にもなる。つまり、喉の奥のリンパ組織を冷やしたり乾燥させたりすることがありません。そして鼻腔にある鼻毛や、線毛という粘膜の微細な毛で空気を濾過(ろか)するのでクリーンな空気を肺に送り込むことができます。
そして特に重要なのが、副鼻腔で作られている豊富な一酸化窒素の供給です。一酸化窒素は血管を拡張する作用があるので、気管支の血管も拡張され、肺の酸素取り込み効率を高めます。さらに、雑菌やウイルスを殺す作用もあるので、新型コロナウイルスをはじめとする、風邪ウイルス対策にも有用です。
また、鼻腔の表面積は新聞紙1枚程度といわれています。粘膜が折り畳まれたような構造のため、空気が通りにくくなっています。これを気道抵抗と言いますが、鼻呼吸では気道抵抗があるため横隔膜が動くのです。横隔膜が動くことで肺がしっかり膨らみ、鼻呼吸時の酸素の取り込み量は口呼吸の1.5倍以上になることが分かっています。また横隔膜が動くことで内臓が動き、血流も良くなるのです。
「あいうべ体操」のやり方
では、どうやって口呼吸を鼻呼吸へ変えるか。最初は「パ・タ・カ・ラ」と発音する「パタカラ体操」や、タコ糸を通したボタンを唇と歯の間に挟んで引っ張る「ボタンプルトレーニング」を患者さんに指導していました。どちらも口周辺や舌の筋肉を鍛えるものです。しかし、パタカラ体操は発音しなければならないし、ボタンプルトレーニングは道具が必要で、継続率が低かったのです。そこで、もっと簡単にできないかと試行錯誤の結果、2004年頃ごろに考案したのが「あいうべ体操」です。やり方は簡単です。
(1)「あー」と口を大きく開く。
(2)「いー」と口を大きく横に広げる。
(3)「うー」と口を前に突き出す。
(4)「ベー」と舌を突き出して下に伸ばす。
ポイントは、大げさなぐらい口を大きく動かすこと、(1)〜(4)を4秒前後かけてゆっくり行うことです。この「あいうべ体操」を1日30回を目安に行うよう指導しています。10回ずつ3回に分けてもいいし、30回を一気に行っても構いません。
「あ」「い」「う」「べ」と口と舌を動かすことで顔や口の周りの筋肉が鍛えられます。鍛えられる筋肉と効果は以下の通りです。
「あ」顎二腹筋、舌骨下筋群、口輪筋(縦伸展)/顎関節の可動域を確保し、口腔・咽頭周囲の筋肉をストレッチ。
「い」口輪筋(横伸展)、笑筋、大頬骨(だいきょうこつ)筋、広頸筋/口唇閉鎖力を高めるとともに、顔面のたるみを解消し、口元を引き締める。
「う」口輪筋(収縮・突出)/唇を閉じる力を集中的に強化し、安静時の口唇閉鎖不全(お口ぽかん)を改善する。
「べ」オトガイ舌筋、茎突舌筋、舌内筋/舌を強力に突き出すことで舌根を鍛え、舌が咽頭へ沈下するのを防ぎ、正しい舌位へ導く。
口にテープがお勧め
声は出しても出さなくても結構です。声を出すと口内が乾燥しやすくはなりますが、より筋肉が鍛えられます。そのため誤嚥を起こしやすい人などには効果的です。顎関節症の方など、口を大きく開けられない方は、あごの関節に負担の少ない「い」「う」だけでも結構です。ただ、「い」「う」だけでは舌が鍛えられませんので、その場合は口を閉じた状態で、上の歯と唇の間に舌を入れて左右に10回ゆっくり滑らせてください。下の歯も同様です。そして、左右の頬に舌を押し付けてください。左右を1回として20回行ってください。
普段鼻呼吸をしているが寝ているときに口呼吸になる方は、口が開かないように医療用のテープ(サージカルテープや絆創膏など)を口に貼って寝るのをお勧めしています。口を閉じると舌はおおむね正しい位置に収まります。
この「あいうべ体操」と口テープを実践したアトピー性皮膚炎の患者さんは、始めて3カ月〜半年で肌の赤みやカサカサが消え、劇的に改善しました。関節リウマチや掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)の方も同様です。歯並びやかみ合わせ、顔のゆがみが改善した患者さんも非常に多いです。あいうべ体操と口テープのみで、6〜7割の患者さんの症状が改善しています。意外だったのは、「痔が良くなった」という患者さんが多くいたことです。鼻呼吸は副交感神経を優位にする効果があり、腸の動きをスムーズにしますし、前述したように血流が良くなることで痔が改善したのかもしれません。
児童のインフルエンザがゼロに
あいうべ体操の講演を行ったり、マスコミなどに取り上げられたりしたことで、多くの学校や施設であいうべ体操を実践してくださっているようです。福岡市立福浜小学校では、全校を挙げた取り組みにより、2年間にわたって児童のインフルエンザ罹患数がゼロになったそうです。また、北海道にある100名以上の入居者がいる高齢者施設、芦別慈恵園でも同様の効果があったようです。それ以外にも多くの学校や施設であいうべ体操を取り入れてくださっていると聞いています。
これらの例だけでも鼻呼吸によってウイルスの侵入を防御していることがお分かりいただけると思います。鼻呼吸にすれば風邪を引きにくくなります。特に高齢者は風邪から重篤な合併症を引き起こしかねません。あいうべ体操で口周りの筋肉を鍛えれば、高齢者によくある誤嚥や嚥下障害も改善されるわけですから、一石二鳥といえます。
あいうべ体操は無料で、誰でも簡単に始められます。副作用もありません。症状が改善すれば儲けものという感じで始めてもらえればいいと思います。
今井一彰(いまいかずあき)
内科医・東洋医学会漢方専門医。1995年山口大学医学部卒業。みらいクリニック院長で、慢性炎症コントロール・予防学会の代表理事も務める。息育、口呼吸問題の第一人者として全国で講演。『口の体操 あいうべ 新装版』(ブティック社)など多数の著作がある。
「週刊新潮」2026年6月18日号 掲載
