令和の「金の卵」求め、高校生の獲得競争過熱…大卒と同水準の「初任給30万円」の企業も
今春の求人、過去最高の4・12倍
高校生の就職戦線が空前の「売り手市場」となっている。
今春卒業生の求人倍率は4・12倍で過去最高を更新した。令和の「金の卵」を獲得しようと、企業は「給料や待遇アップ」「AI(人工知能)に代替されない仕事」などと売り込んでいる。(岡本裕輔)
急激に倍率上昇
5日に東京都港区で開かれた高校生向けの仕事体験イベント。来場した約480人に向けて、66社がアピール合戦を繰り広げた。
「月収30万円!!」。消防設備点検会社「ヨシダ防災設備」(東京都葛飾区)は、そう書かれた紙を貼り出した。高卒者の平均初任給は20万7300円(昨年、厚生労働省調べ)で、1・5倍にあたる高給だ。
人手不足を受けて、昨年度から高卒者の採用を始めた同社。初任給を大卒者と同じ水準にした。人事担当者は「手に職をつけて稼ぎたいという、意欲ある高校生が集まってきてくれる」と手応えを語る。
高卒の就職者は、知識や技能の吸収が早いことから「スポンジ人材」とも呼ばれ、企業から重宝されている。だが、少子化の進行と大学進学率の上昇から就職希望者が減っている上、人手不足を受けて急激に求人倍率が上昇している。
ギュられない仕事
11日に横浜市中区で開かれたイベントに参加した、床のコーティング施工会社「ジェブ」(横浜市)は、ブース前面に「AIに代わらない仕事がある」とのスローガンを掲げた。人事担当者は「床の材質、気温、湿度などに合わせて液剤を調整し、状態を見ながら均一に塗っていく。人の手でなければできない繊細な仕事だ」と強調する。
若い世代を中心に「ギュられる」という言葉が広まっている。AIの能力が人間の知能を超える「シンギュラリティー」(技術的特異点)が語源とされ、「AIにより仕事を奪われる」ことを指す。
将来的に事務職などの仕事がなくなる可能性がある一方、この日のイベントに多く集まった工事、建設、運輸、製造といった現場に密着した仕事は、AIに代替されにくいとみられている。
会場を回っていた同市立戸塚高校定時制の生徒(17)は「体力的には大変そうだが、休みがしっかり取れる」と、バスの運転手に興味を持ったという。「AIにはできない仕事がたくさんあると実感できた。今後はもっと給料が上がっていくのではないか」と期待していた。
リクルートワークス研究所の古屋星斗・主任研究員(39)は「現場で働く人の年齢が上がる中、若い人材が足りなくなるという危機感が企業に広がっている。高卒者は地元で就職する割合が大卒者よりも高く、需要はさらに高まるだろう」とみている。
「1人1社制」離職要因指摘も
活況の高校生就活だが、就職後の早期離職が課題となっている。厚生労働省の調査では2024年春の高卒者の1年以内離職率は16・6%で、大卒者(10・1%)を上回った。要因の一つと考えられているのが、最初に応募する企業を1人につき1社に限定する「1人1社制」の慣行だ。
高校生の就活日程は国や学校、経済団体の話し合いで決まっている。今年も例年通り、7月1日に企業から高校への求人申し込みが始まる。生徒は求人票から1社を選び、9月5日以降に応募。企業は同16日から選考を始め、内定を出す。選考に落ちた生徒は10月以降に複数社に応募できるようになる。
効率的に生徒と企業をつなぐ仕組みとして高度経済成長期に定着し、秋田県や埼玉県などを除いて、今も多くの都道府県で続いている。だが「興味のある企業にいくつも応募したい」「複数企業を比較、検討するには期間が短すぎる」との声も生徒から出ていた。こういった不満が就職後のミスマッチを生み、離職につながっているとの指摘もある。
就職先が中小企業で、悩みを相談できる同期社員がいない場合も多い。就職支援会社「ジンジブ」(大阪市)では19年から、複数の企業から高卒入社1年目の社員を集めた研修を始め、「社外同期」作りをサポート。全国8か所で月1回の研修を行い、交流できる場を提供している。
