椎名林檎(c)太田好治

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 会場一帯が大きなジャズクラブと化したような幻想を覚え、ロックスターとしての椎名林檎だけではない、様々な一面が見えた。

 「党大会 令和八年列島巡回」と銘打たれた全国ホールツアー。東京の会場は主にクラシックが演奏されるホールで、彼女にしては小規模の舞台と言えるが、音響に定評のある会場だからこその、上質な音楽が堪能できた。(宍戸将樹)

 「ポルターガイスト」のイントロとともに、黒い衣装で舞台袖からステージに登場し、色気あふれる歌声で高揚する恋心を歌い上げる。上着を脱いで白の衣装になった「カプチーノ」ではチューブラーベルをたたきながら、甘口でポップな要素も軽快に聴かせていく。

 その後も、セットリストには大人の恋愛を想起させる曲が並んだ。その合間には椎名自身による影ナレーションで、メンバー紹介とともに「苦味」「ラブソング」を今回のテーマに設定したことが示され、夜の深まりとともに、歌われる曲の雰囲気も少しずつ変化を遂げていく。

 彼女を支えるのは、石若駿(ドラムス)、林正樹(ピアノ)ら精鋭のバンドマンたち。どんな曲にも対応して歌声の良さを引き出し、最新アルバム「禁じ手」に収録された「秘め初め」では、迫力あるセッションも繰り広げて、会場の雰囲気を一変させた。

 続く「SI・GE・KI」で、緑のドレスに身を包んだ椎名が再登場。「おこのみで」やカバーの「take five」とジャズ色がより強まり、そのアウトロから切れ目なく「TOKYO」へとつなげた流れが美しい。時には身をよじり、時には座り込んでと、全身を使って身を切るような切なさを表現する。

 後半の「至宝」からは、赤が基調の衣装も相まって、より異国情緒を感じさせる流れに。傘や扇子などの小道具も効果的に使い、クライマックスに向かって夜が明けるような空気が広がっていく。「パパイヤマンゴー」などでは観客が一斉に赤い手旗を振り、実に壮観だった。本編最後の「旬」で<生きて、生きて、活(い)きて居よう>と歌い上げ、アンコールは「茎(STEM)」「ジユーダム」の2曲を披露。多幸感と解放感に満ちた幕引きとなった。

 モニターがなくても、この近距離ならば椎名の姿は客席全体から十分見えただろう。観客の視線が彼女により集中した公演になった。凝った演出のライブももちろん楽しいが、音楽にじっと耳を傾ける今回のようなステージもいい。

 「影」をたたえた世界観で全27曲のライブを極上のエンターテインメントとして構成できる音楽家・椎名林檎の深みをまざまざと見せつけられた。

 ――4月30日、東京・錦糸町のすみだトリフォニーホール。