今年はバージョン21が登場

恒例のアップデート始まる

毎年4月には、米国ラスベガスにて開催されるNAB Show(National Association of Broadcasters Show)で、大量の映像関連新製品が発表されるのが常である。

特にBlackmagic Designは製品数が多く、ハードウェアはもちろんのこと、ソフトウェアも大幅なアップデートが行なわれる。中でも同社の映像制作総合ツールである「DaVinci Resolve」は、NABで新バージョンを発表し、そこから2~3カ月かけてβ版をリリースし、夏頃には正規版が出るというスケジュールで動いている。

今年はDaVinci Resolveのバージョン21が発表された。現在はすでにベータ2がリリースされており、発表された新機能の大半は実装された状態になっている。今回はこのバージョン21 ベータ2を実際に使って、改良点やAIのインテグレーション具合を確認してみたい。

AIによる解析で編集支援するEDITページ

映像編集のメインとなるのがEDITページなわけだが、以前からAIによる文字起こしなど、編集を補助する機能はいくつかあった。今回はクリップに対する解析機能が一箇所にまとめられ、1度の解析で様々な機能に活用できるようになった。

上段メニューアイコンにある「AIクリップ解析」をクリックすると、IntelliSearch、Analyze for Slate、文字起こし、オーディオ分類の4項目の解析ダイアログが表示される。最初は必要なモジュールをネットからダウンロードするためのダイアログが出るので、とりあえず全部ダウンロードしておけばいいだろう。その後、必要な解析をONに、または全部をONにして解析を行なう。

「AIクリップ解析」ボタンが新設

追加パッケージのダウンロードが求められる

4項目の解析が同時にできる

IntelliSearchは、クリップに映っているものを認識し、検索に利用できる機能だ。解析後に検索ボタンからテキストで探したいものを入力すると、それが含まれるクリップが選び出されるとともに、その範囲も表示される。例えば「Car」と入力すると、街歩きの長いクリップの中から車が映っているところだけがハイライトされる。

「car」で検索すると、車が映っているクリップの該当部分がハイライトされる

今のところ検索ワードは、英語にしか反応しない。日本語で入力しても何も見つからない。

クリップを選択して「X」キーを押すと、そのハイライトされた範囲にIN点とOUT点が自動的に打たれるので、あとはタイムラインにドラッグ&ドロップすれば範囲指定も必要ない。

クリップ数が多いときには、クリップを分類するのにも役に立つだろう。また長回し系の収録であった場合は、欲しいシーンを見つけるのに苦労するわけだが、こうしたAIによるインデックス化は、自分でメモなどしておかなくても探せば見つかるという点で、編集効率を上げてくれる。

細かいところだが、メディアプールの「ビン」の機能も拡張された。これまではツリーの中にビンがぶら下がっていくだけだったが、バージョン21からはタブ状に並べられるようになった。ブラウザのタブのように切り替えできるので、検索によるシーン分類結果をビンにまとめておいて、作業プロセスに応じて切り替えるという使い方ができる。

「ビン」がタブ状に開けるようになった

そのほかAI関連の新機能として導入されたのが、「音声ジェネレーター」だ。これは入力したテキストをAIが音声で読み上げてくれる機能で、AIによる音声処理は、文字起こしと並んでポピュラーになりつつある。

タイムラインメニューの「AIツール」から呼び出せる機能となっており、プリセットとしては男性2タイプ、女性2タイプのモデルが用意されている。また10数秒の音声ファイルがあれば、オリジナルの音声モデルを生成することも可能だ。

テキストを入力すればAIキャラクターが読み上げてくれる 「音声ジェネレーター」

ただし日本語のしゃべりに関してはまだまだ道半ばで、プリセットモデルでは外国人の日本語みたいなしゃべりになってしまう。試しに筆者の声でモデルを作ってみたが、ちゃんと自分の声に聞こえる。 ただ自分のモデルでは日本語の文章を完全に生成できず、何を言っているのかさっぱりわからない。

プリセットモデルの音声読み上げ

筆者の声のオリジナルモデルでの音声読み上げ

まだベータ版なので日本語対応はもう少し待たれるところだが、機能が実装されればナレーションはテキストベースで制作できることになる。これまでしゃべりを細かく編集してうまくしゃべっているように見せていた編集スタイルも、こうした機能が一般化すると変わってくるかもしれない。

写真グレーディングに対応したPhotoページ

バージョン21の目玉として各所から注目されているのが、写真のグレーディング機能である。実際のPhotoページのオペレーションは、すでにデジカメWatchで詳しい記事が掲載されているのでそちらを参照していただくとして、ここでは概要のみを述べる。

新設されたPhotoページ

実はDaVinci Resolveを写真の調整に使っているという人がいるという話を聞いたのは、昨年の9月頃だった。写真と動画の両方をやる映画監督の取材中に、仲間でそういう人がいるという話を小耳に挟んだのである。

確かにStudio版なら8K解像度まで対応しているので、写真で使うのも可能ではある。ただその当時のバージョンでは、一部のカメラのRAWが読めないので、変換する必要があるという話も聞いた。

例年11月のInter BEEでは、Blackmagic Designブースにて開発者を交えたユーザーミーティングが行なわれるが、昨年のミーティングではDaVinciを写真のグレーディングに使っている人がどれぐらいいるのかアンケート調査が行なわれた。会にはおよそ100人ほどが参加していたが、2割ぐらいの人が手を上げており、そんなに特殊な使い方でもないのかなという印象を持ったところであった。今回のPhotoページの実装は、こうした調査の裏付けもあってのことだろう。

今回Photoページの登場に合わせて、キヤノン、ニコン、富士フイルム、ソニーの静止画ネイティブRAWに対応した。またApple ProRAW対応も行なわれた。さらに最大32Kの解像度にも対応している。ただ現時点では、Panasonic RAW(.RW2)が読み込めないという報告も上がっている。これはパナソニック側がフォーマットの仕様やSDKを公開していないところに課題があるようだ。

Photoページでは、カラーバランスやコントラスト、ソースクロップなどの基本的な機能は搭載しているが、メインは写真管理用のページである。細かいグレーディングはColorページで行なうことになる。

編集したい画像を画面下の「アルバム」欄へ集めると、カラーページでその写真がいじれるようになる。わざわざ写真の色味をいじるためにDaVinci Resolveを使う理由の第一は、グレーディングに「カラースライス」が使えることだ。

写真のグレーディングでは「カラースライス」の存在が重要

カラースライスはバージョン19のときに搭載された機能で、端的に言えばカラーバランスを減色混合によって調整できる。ビデオ信号はRGBで形成されているので、基本的には加色混合プロセス、つまりRGBを重ねていくと白になる。

一方減色混合プロセスでは、色を混ぜていくと黒になる。これはRGBに分光しないフィルムの色調整と同じプロセスで処理できる。特にカラースライスはスキン用の調整パラメータが独立していることや、減色混合により彩度を上げていっても飽和しにくく、自然な結果になりやすいという特徴がある。

印刷用のCMYKではなく、デジタルデータのままで活用したいのだけれど減色混合でフィルムライクにプロセスしたいという人は、DaVinci Resolveはちょうどいいポジションにあるツールであろう。

色以外の処理が可能になったColorページ

さてDaVinci Resolveの最も特徴的なColorページを見ていこう。ここは名前の通り色をいじる専用ページなのだが、AI機能の搭載でそれ以外の処理もこのページで行なえるようになった。

特徴的なところでは、やはり顔をいじる系のエフェクトが強化されたところだろう。今となっては人の顔はAIでゼロから生成できる時代だが、既存の顔を動画でいじるという方向にも需要は高い。

「AI Face Age Transformer」は、対象となる人物の実年齢をセットし、そこからプラスマイナスへオフセットするとその年齢だけ顔を変化させるというものだ。今回は実年齢よりも20歳若く設定してみたが、なぜか目が腫れぼったくなる傾向がある。

オリジナルの顔

20歳若返った顔

実際の年齢をセットし、オフセットでずらしていく

「AIシミ除去」はシンプルなエフェクトだが、効果は高い。顔にあるシミやニキビなどを除去してくれる。パラメータが1つしかないので、誰でも簡単に使えるはずだ。

シミの除去前

シミの除去後。左の頬のシミだけがなくなっている

「AIフェイス形状調整」も、写真におけるビューティモードのような効果がある。顔のパーツを分解し、眉や目、鼻、口などに対して別々に形状の変化を加えることができる。本人とは微妙に似ているが別人、といった顔にも変形できるので、これまでモザイクやぼかしなどでプライバシー保護していたような効果も、こうしたものに変わっていくかもしれない。

絶妙に「似て非なる人」に作り替えられる 「AIフェイス形状調整」

後処理で被写界深度が調整できる「AI CineFocus」も、期待する声が大きかった機能だ。これは2D撮影された動画からAIが深度を計算し、マスクを生成することで奥に行くにしたがってぼかしてくれるという機能。絞りの羽根の枚数なども設定できるが、一般的な風景ではあまり違いは出ない。背景に点光源などがあると違いが出るかもしれない。

被写界深度調整が可能な 「AI CineFocus」

昨今はスマートフォンでの撮影も増えてきているが、被写界深度が稼げないという場合や、選挙期間中で背景の選挙ポスターを隠したいといった用途にも使えるだろう。

総論

DaVinci Resolveは昨年のバージョン20のときにかなり大きくAIをフィーチャーした。だが画像・動画生成という方向ではなく、音声処理や字幕処理といった方向に発展させた。

今回もやはりAIがアップデートの中心ではあるが、今年は画像処理や画像解析に大きくAIを導入し、ワークフローの効率化を図るという方向に伸ばしてきた。

その一方で画像・動画生成という方向は慎重に避けているように見える。このあたりのアプローチは、ユーザー層をブロガー・インフルエンサーに拡大しようとしているAdobeとは異なる点で、すでにビジネスとして回っているプロフェッショナルが喜びそうな細かいところに手を入れていくという方向である。

また今回新ページとして登場したPhotoページは、既存のワークフローにどうやって静止画を載せるのか気になったところだが、アルバムをタイムラインの代わりとして機能させることで、ページ間の連携を行なっており、このあたりは既存ユーザーも納得の追加だろう。

もちろん今回ご紹介した以上の多くの機能が追加されており、Fusionページにモーショングラフィックス用ツールセット「Krokodove(クロコドーブ)」が統合されたり、デリバーページのUIが整理され、バックグラウンド処理が可能になったのも大きなアップデートである。

気になるのは、追加されたAI処理の中であんまり日本語対応ができていないところだろうか。正規版になるころには一通り使えるようになるのだろうが、すぐに使いたい人にはしばらくはちょっとつらいかもしれない。

DaVinciResolveは毎年機能強化が激しいので、非常にややこしいツールという印象を持っている人も多いと思うが、UIがそれほど変わらないので、「あれはどこいった」といった迷いがないのが特徴である。全ての機能を使うというより、ツールの中で自分なりのワークフローを作って、それ以外は使わないというユーザーも多い。その点では、多くのユーザーのニーズが満たせるツールということになるだろう。