1滴の水でより多くの作物を育てるために。それぞれの木に必要な分だけ水を与えるシステムを開発
これからどんどん水が貴重になっていきますものね。
カリフォルニア大学リバーサイド校(UCR)の研究チームが開発した小さなロボットが、意外な事実を浮かび上がらせました。隣り合う2本の柑橘類の木でも、必要としている水の量がまったく違うケースがあるそうです。
スプリンクラーで均等に水をまいても、隣同士の木の根が必要とする水の量がまったく違ったりするといいます。同大学の研究チームの論文は、学術誌Computers and Electronics in Agricultureに掲載されています。
なぜ隣同士で違いが
隣り合っているのに、どうして必要な水分量が違うのかというと、その理由は足元の土に潜んでいます。同じ列に並んでいても、一方の土は粒子が細かく、もう一方は粒が粗いという状況も珍しくないとのこと。
細かい粒子は水分を強く保持する一方、粒が粗い土壌は排水が早く、根が吸収できる水分が少なくなります。マイクロスプリンクラー(小型の局所的な散水装置)は、地面の一部しか濡らさないため、地中に湿った場所と乾いた場所ができてしまうとのこと。
干ばつが続くカリフォルニア、農家の苦境
こういうパッと見ではわからない違いを把握できないままだと、農業の現場は厳しい局面に追い込まれます。生産者は、地下水利用の規制強化と、上昇し続ける水のコストという二重のプレッシャーにさらされているそうです。
研究を率いたElia Scudiero准教授は、選択肢の厳しさについて、リリースで次のように述べています。
水不足になると、農家には2つの選択肢しかありません。果樹園を閉鎖するか、あるいはより少ない水で同じ作物を生産する方法を見つけるかです。
数本のセンサーから、ロボットによる全域マップへ
マイクロ灌漑(かんがい)は、これまで主に地中に埋めた土壌水分センサーを使用していましたが、高価なため数千本の木が並ぶ畑の数カ所にしか設置できなかったといいます。
Scudiero氏は、センサーが提供する情報は非常に限定的だと指摘します。そこでチームは、果樹園を移動しながら土壌の電気伝導率(土の中をどれだけ電気が流れやすいかを示す値)を測るロボットを開発しました。
既存のセンサーのデータと組み合わせて、統計モデルで畑全体の水分量を推定し、木1本ごとの水分マップを描き出すそうです。サンプルは、4〜6地点でも実用的な精度を保てたとのこと。
与えすぎも、与えなさすぎも、木と環境を傷つける
正確な水分量の把握は、木の健康にも環境にも直結します。水が足りないと樹木はストレスを抱え、害虫や病気に弱くなる一方、与えすぎれば土の隙間が水で満たされてしまい、根が酸素を取り込めなくなります。さらに過剰な水分は、施肥した養分を根が届く深さよりも下へ押し流し、地下水の窒素汚染につながる懸念もあるといいます。
「植物が実際に必要とする量の水だけを与えれば、作物の根から養分が洗い流されて環境に流出するリスクを減らせます」とScudiero氏は説明します。
過ぎたるはなお及ばざるがごとし、ですね。
日本の農業にも近づく水ストレス
水不足は、太平洋の向こう側だけの話ではありません。日本の農業にも影響は及んでいます。2025年8月には、兵庫県加古川市で16年ぶりに取水制限が実施され、時間帯を限定して農業用水が25%カットされました。流域における1月〜6月の降水量が過去10年の平均を大きく下回ったのが原因でした。その他にも、昨年は渇水による農業への影響が多く伝えられています。
生産者を対象にした2025年の世論調査では、気候変動や猛暑の影響で「収穫量が減少した」と回答した人の割合が58%に上っています。同年に日本農業新聞が実施した別のアンケート調査では、高温と渇水が現段階や将来の生産量に「影響がある」との回答が86%に達するなど、現場の生産者は温暖化や高温、渇水の影響を肌で感じているようです。
干ばつによる水不足とは対極にある雨も、農業に打撃を与えます。気象庁の『日本の気候変動2025 』によると、1時間に80mmを超える大雨の頻度は、1980年頃と比べ約2倍に増えています。豪雨と干ばつが同居する「降水の二極化」が、日本における農業用水の確保を一段と難しくしているようです。
水ストレスへの挑戦
水ストレスへの答えとして、各国は精密農業の技術を磨いてきました。イスラエルは、1960年代に点滴かんがい(穴のあいたプラスチック管から水と液肥を植物や作物の根元に届ける手法)を導入しました。
現在、イスラエルの農作物の75%に点滴かんがいが導入され、高い食料自給率(果物、野菜、乳製品、家禽・鶏卵の食料自給率は95% )を支えています。同技術を確立させたNetafim(ネタフィム)は、この方式を110か国へ展開中とのこと。
カリフォルニア州は、2010年代から深刻な干ばつに見舞われるようになりました。同州で生産されるアーモンドは、世界全体のシェアの80%を占めます。
大量の水が必要なアーモンドですが、近年はカリフォルニアのアーモンド農家の80%以上が、水の使用量を節約できるマイクロかんがい、あるいは点滴かんがいを取り入れており、1990年代から2020年代にかけてアーモンド1粒あたりの水使用量が33%減少したといいます。現在はさらに20%削減することを目標にしているそう。
日本の農業ではまだ大規模な点滴かんがいの導入は進んでいませんが、Netafimがトルコやインド、ギリシャ、イタリアで行なっている実証実験によると、稲作にも点滴かんがいは効果的で、「蒸発散量、地表流出、地下浸透の減少により、水を70%、肥料を30%節約」できたといいます。強力な温室効果ガスであるメタンの削減にもつながるそう。
日本でも、東北地方で小規模の点滴かんがいで稲作を行なっている事例があります。2021年には無事に収穫までこぎ着けています。稲作で点滴かんがいのような水を節約できるシステムを大規模に導入しできれば、高温や渇水に適応しやすくなりそうです。
他の作物でも、マイクロかんがいや点滴かんがいに加えて、電気伝導率を測定するロボットも同時に導入すれば、農業の渇水に対するレジリエンスをさらに強化できると思われます。
一滴でより多くの実りを
Scudiero氏のプロジェクトは、2019年にUCRのCenter for Agriculture, Food, and the Environment(CAFE)で農業科学者と工学者が手を組んで始まりました。今後は、商業生産者の現場でのテストを広げる予定だそう。
気候変動や資源不足の圧力が強まるなか、ロボットとセンサー、データ科学を融合する精密農業システムは、持続可能な食料生産への希望をつないでいるようです。
Scudiero氏のひと言が、研究の核心を突いています。
一滴の水で、より多くの作物を!
Source: EurekAlert!, Morbidini et al. 2026 / Computers and Electronics in Agriculture
Reference: 朝日新聞, Yahoo!ニュース, PR TIMES(1, 2), 日本農業新聞, 気象庁, Unpacked, 農林水産省, Almond Board of California(1, 2), Netafim(1, 2, 3)

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