日経平均6万円突破、”史上最高値”でも踊らされるな…歪んだ指数を支配する「たった数銘柄」の正体
2026年5月7日午後3時。日経平均株価は前日比+3,320円高の6万2,833円で大引け、終値で史上最高値を更新した。
一日の上昇幅3,320円は2024年8月6日の3,217円を超え、過去最大である。
ところが、この「過去最大の上昇」を裏側からめくると、半年前の記事〈「日経平均5万円突破も、あなたの『持ち株が上がらない』ワケ〉でも指摘したその構造の問題が、ますます深刻になっていることが浮き彫りとなる。
SNSでは相変わらず「自分の持ち株は塩漬け」という投稿で溢れている。
なぜそんな乖離が起きているのか。
AI・半導体関連へのマネー集中
5月7日の上昇は、表面のインパクトと中身が一致していない。連休明けの東京市場では、米ハイテク株高と米国・イラン間の戦闘終結観測が追い風となり、AI・半導体関連に資金が集中した。
背景には生成AIと半導体銘柄の急騰がある。ソフトバンクグループ傘下の英アームが2026年1〜3月期の純利益が前年同期比49%増の3億1,300万ドルで、四半期の売上高は20%増の14億9,000万ドルと過去最高を記録した。
アーム株は1か月で60%ほど暴騰し、これがそのまま大株主であるソフトバンクGの企業価値上昇、つまり株価高騰に跳ね返り、日経平均への寄与度を押し上げている。
上昇を加速させたのが、日経平均の新顔、キオクシアホールディングスである。キオクシアは2026年4月1日から日経平均株価指数に組み入れられた。
キオクシア株の2026年売買代金は、年初からわずか2か月強で前年通年を超え東証プライムで断トツ、時価総額もソニーグループを上回るまでに膨張した。
問題は、1株が高額であることだ。キオクシアの株価は5月7日終値ベースで4万円台。これは指数寄与の文脈ではアドバンテストやファーストリテイリングと並ぶ最上位カテゴリーで、指数に与える影響が大きい。
2~3銘柄で日経の上昇を丸ごと説明できる日々
ある一つの銘柄がどれくらい日経平均株価を動かしたかを測る上では、「寄与度」を確認すると良い。
連休前の5月1日における日経平均の寄与度が高かった銘柄は、トップが東京エレクトロンで、この1銘柄で約307円も日経平均株価を押し上げた。
2位がソフトバンクグループで同じく約165円押し上げている。つまりこの2銘柄だけで日経平均を約472円押し上げたのだ。しかし、日経平均の上昇幅は228円である。残り223銘柄の合計寄与は、明確にマイナスだったということになる。
2026年4月以降だけでも、寄与度のヘッドラインは判で押したように同じ顔ぶれが並ぶ。4月14日はアドバンテストとSBGの2銘柄で約896円押し上げ、4月15日も同2銘柄で約303円押し上げ、4月22日も同2銘柄で約522円押し上げ、4月27日はアドバンテストとファナックの2銘柄で約664円押し上げ、4月30日は逆にアドバンテストと東京エレクトロンの2銘柄で約436円押し下げ。ここにキオクシアも加わって、7日の史上最大の高騰が発生するのである。
上にも下にも、動かしているのは同じ4〜5銘柄。日経平均の日次変動の8割前後が、たった数銘柄で説明できる日が常態化している。
指数の上に乗っているのは、もはや日本経済の温度ではない。
株価平均型という“設計上の歪み”
なぜここまで歪むのか。仕組みに戻れば話は早い。
日経平均は「株価平均型」と呼ばれる方式で算出される。コンピュータもない時代に生まれた日経平均は、構成225銘柄の株価(株価換算係数で調整したもの)を単純合計し、除数で割っているだけというシンプルな構成からスタートした。
企業の規模を一切反映しない、1株あたりの株価が高い銘柄の発言権が圧倒的に強いのが問題となり、たびたび人の手による”調整”が入ったことで今は単純平均ではなく修正平均型の株価指数と呼ばれている。
問題は、この構造的な歪みが、もはや指数運営側でさえ持て余すレベルに達していることだ。
日経指数事業室は2022年、特定銘柄の構成比が10%を超えないようにする上限ルールを導入した。そして2026年1月末時点でアドバンテストの構成比が12.8%に達したことを受け、同年4月1日から株価換算係数を8.0から7.2に引き下げた。
これは、指数の信頼性を守るために運営側が指数のルールを捻じ曲げてまで介入せざるを得なかった、つまり指数モデルの欠陥を認めたのと同義だ。
それでもアドバンテストは現時点で日経平均の上位ウェイト銘柄であり続けている。さらに皮肉なことに、その係数引き下げと同じ4月1日にキオクシアを新規採用したことで、「アドバンテストのウェイトを抑えたのに、もう1つの値がさ半導体銘柄が指数に流れ込む」というブレーキとアクセルを同時に踏むような構図が出来上がった。
歪みは数値にも表れている。日経平均をTOPIX(東証株価指数)で割ったNT倍率は5月8日に16.37倍をつけ、過去最高を記録した。
過去5年平均14.3倍に対し、日経平均だけがTOPIXに比べて構造的に走りすぎている状態が定着している。運営側の"調整能力"は限界を迎えつつある。
「歪んだ温度計」とどう付き合うか
では、悲観論で終わらせるべきかというと、そうでもない。歪みが分かっていれば、対処の余地はある。
第一に、日経平均一本で相場を判断する習慣を捨てるべきだ。
私たちが米国株を論じるとき、株価平均型であるダウ指数で語る者はほとんどいない。その代わりに時価総額加重平均型のS&P500で米国景気を語る。
であるならば、日本も時価総額加重平均型のTOPIXをメインに据えるべきではないか。
第二に、6万2千円という数字を「日本株の地力」と読み替えないことが重要だ。1989年のバブル絶頂期、当時の日経平均株価を牽引していた値嵩株は通信や家電関連の銘柄であったとされている。いずれも当時の経済を象徴していたとされていた。
しかし、1989年の主役たちは次々に指数の足を引っ張る側に回り、日経平均がその高値を更新するまで実に34年2か月を要した。日本経済が失われた30年に沈んだ事実と、当時の値がさ株群が崩れる過程は、ほぼ同じ時間軸で進行していた。
運営側が係数を引き下げても直後に新しい値がさ銘柄が補充される現状は、いまの集中度が歴史的水準にあることを物語っている。
「6万2千円のお祭り」を横目に、自分のポートフォリオが「儲かっていない」と感じる投資家は、間違っていない。むしろ、指数より正直に市場の中身を見ているとさえ言える。
歪んでいるのはあなたの目ではなく、温度計のほうなのかもしれない。
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