少子化を加速?不公平の解消?会社員らの健康保険「被扶養者制度」見直し提起に賛否の声… 専門家「専業主婦世帯と共働き世帯、独身の人との不公平感の問題も当然ある」

4月28日の財政制度等審議会において、財務省は健康保険の被扶養者制度の見直しを提案した。核家族化や共働き世代の増加を背景に、社会保険制度の「個人単位化」が求められる中、公的年金制度と同様に見直しの時期を迎えているという主張だ。少子高齢化が進み、共働き世帯が一般化した現代において、昭和のモデルに基づいた社会保障制度はどうあるべきなのか。専門家の解説を交えながら、私たちの生活に直結するこの問題を深掘りした。
【映像】「何もかも女性が背負う社会は避けたい」被扶養者Aさん
被扶養者とは、保険料を支払っている被保険者の3親等以内の親族で、原則年収130万円以下など一定の要件を満たした場合に認定され、保険料の支払いの必要はない。また、この制度は中小企業を中心とした協会けんぽや大企業を中心とした健康保険組合、公務員などの共済組合には存在するが、国民健康保険にはない。
この制度が見直されると、場合によっては世帯により保険料の増額や新たな負担も懸念される中、SNSでは賛否の声が上がっている。
「保険料を払わずに医療費の7割分を税金や他人に負担させるのはやめてほしい」という見直しに賛成意見がある一方で、「物価高の今、子育て世帯の余裕が削られれば少子化がますます加速するだけだ」といった反対の声もある。
専業主婦を経て子育てが一段落し、現在は被扶養者の立場にあるAさん。今は子育てや介護の負担もないため、被扶養者に保険料の支払いが発生したとしても納得はできるというが、振り返ってみると育児期間中など配慮が必要な期間もあると考えている。
「働いて保険料を支払っている方と、扶養内で働く私のような人というように、保険料を払う人と払わなくていい人が出てきている現状は、改善した方がいいとは思う。ただ、自分が20代に子どもを産んで育ててきた中で、今の若い世代が全員払わなければならない制度になるのは反対だ。息子たちが結婚して家庭を持ったときに、奥さんになる人が(負担が大きく)大変すぎるのは困るなと思う。授乳は女性にしかできないだろうし、無償だがものすごい労働になる。何もかも女性が背負わなきゃいけなくなるような社会になることだけは避けたい」(被扶養者Aさん)
戦時中、家族の生活の安定を目的に導入された任意の家族給付をルーツに、1948年に法律でその範囲が規定された被扶養者制度。高度経済成長期の家族や世帯の在り方に合わせて、家族療養費を拡充してきたという経緯がある。財政審の臨時委員も務める東海大学の堀真奈美教授は、このタイミングでの財務省の問題提起をこう分析する。
「家族や世帯のあり方、あるいは働き方など、現実の社会情勢の変化がある。共働き世帯は片働きの世帯より多く、単身世帯が世帯の中でも1番多い。働き方では、非正規の方たちが非常に増えている。そういった世帯と働き方の多様化に対応するような、そして中立的な制度が求められるようになっているのが1つの背景にあると思う」(堀氏、以下同)
少子化対策が急務となっている時代とは逆行する提案ではないか、などのSNSの声については…。
「被扶養者制度がなくなったら、被保険者本人と同じだけの保険料を負担する、と、一部には誤解されている方もいるかもしれないが、制度設計的にはおそらくそれはないだろう」
健康保険組合連合会が先月発表した今年度の収支の見通しでは、加盟する組合のうち、およそ7割が赤字となり、その総額は2890億円となっている。今回の見直し案はまだあくまで問題提起の段階だが、不公平感の解消だけでなく、財政的に持続的な仕組みにするためにも、国民的な議論が必要だと堀教授は話す。
「被扶養者制度は歴史的には役割も果たしているし、決してこの先も家族のあり方が軽視されるわけではなくて、家族そのものは非常に重要だと思う。ただ、今のあり方に合わせて保険料の設定を考えていくことは、未来にとっての安心につながると思う」
被扶養者制度の背景と実際の加入者数は…

高度経済成長期の名残ともいえる被扶養者制度。制度と時代のズレについて、教育経済学者で慶応義塾大学教授の中室牧子氏に聞いた。
「この制度の趣旨は戦前の『銃後の守り』だったと言われている。つまり、前線で戦っている兵士を支えなければいけない、その家族が国内で生活や子育てを安全にできるようにということだが、明らかに現代に合わなくなってきている。働き方や家族の形態が非常に多様化する中、会社員の夫がいて専業主婦の妻がいるという特定の家族の形態だけを優遇する制度を続けるのは、公平性と制度維持の観点からは望ましくなくなってきたので、今ここで新たな制度について検討を始めようということだ」(中室牧子氏、以下同)
では、なぜこのタイミングでの問題提起なのか。中室氏は次のように分析する。
「経済団体は、年金も含めて、早期に見直しをした方がいいとずっと言ってきた。ただ、年金を見直すと健保の見直しも必要になり、そして税も…と波及していく。社会保障一体として制度改革をしなければならないとなると、なかなか重たい課題であるし、国民から反対の声があがるかもしれないので、政権の基盤が弱い中ではなかなか本腰を入れて取り組むことができなかった。ただ、今、与党は過半数を得て、ようやく安定した政権基盤ができたので、難しい問題にも正面から取り組もうかなという機運が出てきたと私は見ている」
では、「被扶養者」はどのくらいいるのか。協会けんぽ、健康保険組合、共済組合の加入者は約7700万人となっており、うち被扶養者は約2970万人、約4割にも上っている。中室氏は保険料を支払っている被保険者が不公平を感じる点について指摘する。
「仮に同じ所得であったとしても、会社員の配偶者かどうかということで保険料負担が変わる仕組みになっているところがやはり不公平と言われる最大のポイントだと思う。専業主婦世帯と共働き世帯の間の不公平というのもあると思うし、専業主婦世帯と、あとは単身の独身の働いている人との間での不公平感の問題も当然ある」
「医療だけでなく経済全体の問題」社会保険料の負担を感じる理由

また、健康保険組合の財政を見てみると、7割の組合が赤字に苦しんでいる。しかし、社会保険料の負担が問題となる中で、簡単に保険料率を上げられるわけでもないのが現状だ。
「俯瞰的な見方について述べておくと、本来は医療費というのは増加していく傾向があるものだ。高齢化とは別にして、医療の技術は進展していくし、新しい機械や治療法、薬剤が出てくる。そうすることによって医療費というのは徐々に高くなっていく傾向がある。それを上回るような所得の増加が達成できていれば、実は社会保険料の負担というのはそんなに重いと感じずに済むはずだが、我が国の場合は、社会保険料の増加を上回る所得の増加が達成できていないので、特に若い世代がこの負担を非常に重く感じる。医療の問題ではあるが、一方で、経済全体の問題であるということも知っておくべき」(中室牧子氏、以下同)
そのうえで、今後の制度改革におけるポイントを次のように述べた。
「公平性もだが、簡素であることも非常に大切。国民から見たときに分かりやすい制度になっていることが大事だ。年金と健康保険はセットで改革してもらいたいが、移行期間の間に負担が極端に増えるような世帯や個人がいないか、丁寧にチェックしていく必要がある」
(『わたしとニュース』より)
