「ハンタウイルス」感染拡大の可能性は…コロナ禍を経験した日本における「緊急事態条項」の創設論議 憲法改正の賛否両論を見る

大西洋を航行していたクルーズ船で、ウイルスによる集団感染と見られる事態が発生している。乗客ら8人に感染の疑いがあり、うち3人が死亡した。この騒動をきっかけに、感染症対策を巡って盛り上がる憲法改正のひとつ、「緊急事態条項」の創設について、「ABEMA Prime」で議論が行われた。
■ハンタウイルスの実態とパンデミックの可能性

今回確認されたのは「ハンタウイルス」と呼ばれるウイルス。東京大学新世代感染症センターの古瀬祐気教授は、「ネズミを起点とするウイルス。今回急に話題になったが、昔から知られているもの。歴史を紐解くと、紀元前の中国からあったとされている」と解説。
今回見つかった「アンデス型」は、アジアにあるタイプとは異なり、「アジアタイプだと致死率は1〜10%ほどだが、アメリカや南米にあるタイプだと40%」という極めて致死率の高いものである。
一方で、感染経路については「ネズミの糞や尿を踏んだ時に舞い上がるような、埃とか塵を吸った時にかかるが、人から人にうつることはほとんどない」とされる。また、「アンデス型とだけは、本当にまれに人から人に移ることがある」としつつも、「可能性はかなり低いと言われている。アンデス型ですらも、過去に数十例ぐらいしか報告がない」と述べた。
ネット上では、2020年の「ダイヤモンド・プリンセス号」での新型コロナウイルス感染拡大を想起し、「コロナ禍の次はハンタ禍か」といった不安の声も上がっている。しかし、「ハンタウイルスの感染力はコロナウイルスと比較してかなり低い」とし、「ネクストパンデミックの主要候補ではない」との見解を示している。
■コロナ禍の教訓と「緊急事態条項」をめぐる対立

この騒動と時を同じくして浮上しているのが、憲法に「緊急事態条項」を創設すべきかという議論だ。緊急事態条項とは、自然災害や感染症の蔓延などの緊急事態において、内閣の権限を一時的に強化し迅速に対応できるよう憲法に定めるものだ。
政治評論家の平井文夫氏は、緊急事態条項の創設に賛成の立場を取る。コロナ禍の対応を振り返り、「コロナ禍の時、ロックダウンは必要なかったという声はあったが、『できなかった』ことに間違いはない。それができないから緊急事態宣言という形を取った」と指摘した。
さらに、憲法に記載した場合の濫用に対しての懸念には、「日本は相当民主的な国家。なかなか権力の濫用はできないと思う。それを言っていると安全が守れない」と、有事における行政権限の必要性を強調した。
これに対し、前衆議院議員で弁護士の藤原規真氏は、「反対だ。そもそもパンデミックや有事に対しても、法律で対応は十分可能だ」反論する。藤原氏は、「改憲して緊急事態条項を入れると、行政に権力が集中して基本的人権が侵害される。あるいは行政が肥大化して三権分立の統治機構自体が崩れてしまう。負の側面の方が大きい」と懸念を示した。
議論の焦点は、現行の法律で対応可能か、それとも憲法改正が必要かという点に集まった。平井氏は、「法律で変えただけだと、『それは憲法違反だ』と国が訴えられる可能性がある。『基本的人権の侵害だ』と言われてしまうからだ」と主張する。
これに対し藤原氏は、「基本的人権といっても、内在的な制約がある。移動の自由を制限するとしても、現行憲法のもとでも絶対無制約ではない。例えば、悪いことして刑務所にいる人に移動の自由はないが、それを違憲という人はいない。現行憲法のもとで法律を変えたら、直ちに違憲と訴える人がたくさん出るかは別問題だ」と指摘。さらに、「既に災害救助法、災害対策基本法もある。もう十分、現在の立法で対応可能だ」と述べ、法整備の範囲内で対処すべきだとした。
感染症の専門家である古瀬氏は、緊急事態条項のうち「感染症蔓延」に関する議論に限定した上で「感染症法という法律があり、ご本人が同意されなくても一定期間入院してもらうこともある。ある意味で、強制できるようにはなっている」と述べ、未知のウイルスに対しても一定の法的手段が既に存在することを説明した。
■緊急事態条項は「改憲の入り口」になるのか

番組では、緊急事態条項が「改憲の入り口」になっていくのではないか、という見解も示された。。改憲については、国民の意見を二分する憲法9条の改正など、他にも議論されている項目がある。
EXIT・兼近大樹氏は、「憲法は僕ら(世代が)生まれた時からあったもの。それを突然、我々の代で変えましょう、投票しましょうと言われても、変えた結果が悪くなったら嫌だ、この代でいきなり根源を変えていくと思うと、ちょっと怖い」と率直な不安を口にした。
これに対し平井氏は、「人間にとって大事なものは安全と権利。もしかしたら権利の方が大事かもしれないが、自分や自分の子どもが死ぬかもしれない有事の時は、権利より安全だと思う。だから緊急事態条項はあった方がいい」と持論を展開した。
対して藤原氏は「憲法改正をすることで、衆議院の任期延長もできるようになり、選挙をする機会がどんどん先送りになる可能性もある。あるいは今まで認められていた自由や権利が制約される可能性も考えながら、ご自分の生活や日常にどのような影響があるのかをよく考えて賛否を決めていただきたい」と締めくくった。
(『ABEMA Prime』より)
