職場にいる「なぜか常に不機嫌な人」。理由もわからないまま無視され、ため息をつかれ、萎縮してしまう-。そんな経験をしたことはないでしょうか。

近年、「フキハラ(不機嫌ハラスメント)」という言葉が注目を集めています。一般社団法人カウンセラーカレッジ石川の代表理事で公認心理師の森辰美さんに、その実態と対処法について聞きました。

「フキハラは、原因がわからないことが特徴」

「フキハラ」、公認心理師の森さんに寄せられる相談としては決して珍しいものではないといいます。

では、単なる「機嫌が悪い」状態とフキハラはどう違うのでしょうか。

一般社団法人カウンセラーカレッジ石川・森辰美代表理事「不機嫌な人って自分でなぜ不機嫌なのかわかってるんですよ。原因が。一方で、不機嫌ハラスメントは原因がない、もしくはわからない。ご自分で分かっていないのです。」

「無視されるのが一番辛い」--いじめと共通する苦痛のメカニズム

無視やため息が被害者に大きな精神的ダメージを与える理由についても、森さんはこのように解説します。

一般社団法人カウンセラーカレッジ石川・森辰美代表理事「被害者の方もなんでこんなことされるかわからないっていうところで、そのわからないことに対する不安というのはすごく大きい。いじめの中で受けた方が一番苦痛を感じるものって無視なんですよ。暴言を吐かれたり、手が出るいじめよりも無視されるのが一番辛いって言われています。それと同じことですね」。

一人の人間として存在さえも認められない「無視」が、最も深い苦痛を生むのです。

なぜ「不機嫌」を武器にするようになるのか

フキハラをする側には、どのような背景があるのでしょうか。森さんはいくつかのパターンを挙げました。

一つは、言葉で感情を表現することが苦手で、不機嫌を「醸し出す」ことで察してもらおうとするケース。もう一つは、幼少期に親が同じような行動をしていたのを見て、無意識のうちに学習してしまったケースです。

不機嫌の成功体験

そして忘れてはならないのが「成功体験」の存在です。

一般社団法人カウンセラーカレッジ石川・森辰美代表理事「そうやって不機嫌でいることでなんとなく何十年生きてきた--要は成功体験。不機嫌でいたことで何か得るものがあったのかもしれない。人は成功体験のある行動パターンを繰り返しやすい傾向があります。」

このように森さんは指摘します。

それゆえに、本人が気づいたり、変わったりすることが非常に難しいものなのです。

フキハラの対処 第一歩は「自動思考」に気づくこと

では、フキハラに直面したとき、どう対処すればよいのでしょうか。森さんが強調するのは、「相手の不機嫌は相手のもの」という認識を持つことです。

「相手の不機嫌は別に自分が原因で相手が不機嫌なんじゃないというのをしっかり自分の中でいつも持っていてほしい」と言います。

知らず知らず「私のせいかもしれない」と感じてしまうのは、心理学でいう「自動思考」のためです。

一般社団法人カウンセラーカレッジ石川・森辰美代表理事「これは何か出来事が起きた瞬間に無意識にパッと浮かぶ考えやイメージで、過去の環境や経験やストレスが影響されると言われています。

この自動思考が「自分のせい」に向かいやすい人は特に、フキハラの発生源に近づかないことが大切だと森さんは話します。

仕事上どうしても関わらなければならない場合は、「理性(心理学の交流分析ではアダルトと呼ぶ)を保ち、淡々と仕事の話だけをすること、過剰にご機嫌を取る必要はない」とのことです。

公認心理師「まず誰かに話す。一人で抱えないことから始めよう」

新入社員や若い世代に向けて、森さんはこんなメッセージを送ります。

一般社団法人カウンセラーカレッジ石川・森辰美代表理事「もし自分の仕事に支障が出たり、居心地が悪いなという環境になるような上司や同僚がいるんだったら、早めに身近な人に相談してほしい。一人で抱えないということが大事です」。

相談を受ける側も、まず「それは本当にしんどいよね」と気持ちを受け止めることが大切です。「気にしすぎなんじゃない」という言葉は、相手の気持ちを否定することと同じだと森さんは言います。共感してから、一緒に相談窓口や上司のもとへ動くという流れが理想的です。

フキハラの原因は、あなたの誠実さや能力の問題ではありません。もし職場で理由のわからない不機嫌にさらされているなら、ぜひ信頼できる誰かに声をかけてみてください。一人で悩まないことが、自分を守る最初の一歩です。

【公認心理師】保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、心理状態の観察、分析、相談、助言などを行う国家資格。