演出家が明かす、モンスターヒットドラマ『ひとつ屋根の下』主題歌に『サボテンの花』が選ばれた経緯
連載前回記事はこちら:「のりピーが出てるよ」フジテレビの伝説ドラマ『ひとつ屋根の下』、撮影時に酒井法子が演出家から受けた「注意」
『ひとつ屋根の下』を彩る、往年の名曲
福山雅治「チィ兄ちゃん」は演出家の顔をじっと見つめて、こう言い放った。
「本当に酷いことするよ……」
〈ほんの小さな出来事に
愛は傷ついて
君は部屋をとびだした
真冬の空の下へ〉
フジテレビの月曜9時ドラマ史上最高視聴率(37・8%)を記録した『ひとつ屋根の下』('93年)。江口洋介演じる柏木達也、通称「あんちゃん」を中心とした6人きょうだいの人情ドラマは、バブル崩壊後の日本人の荒んだ心にすっと沁み込んでいった。
とりわけ視聴者に強い印象を残したのが、財津和夫が歌う主題歌『サボテンの花』だ。財津が所属したバンド、チューリップが'75年にリリースした「ラブソング」は、殺伐とした'90年代を背景に繰り広げられる温かな家族の物語に不思議とマッチした。
往年の名曲がなぜ月9のオープニング曲になったのか。『ひとつ屋根の下』の演出を手がけた永山耕三氏が明かす。
「脚本家の野島伸司が気に入っていたんです。僕たちは企画段階から『男はつらいよ』みたいな畳の匂いのする、昭和っぽいホームドラマを作ろうとしていた。ギターのイントロにもメロディにも温かさがある『サボテンの花』は、イメージ通りでした。
よくよく考えると失恋の曲なんですけどね(笑)。とにかく、冒頭の歌詞がいいんですよ。このドラマは家族が「小さな出来事」で喧嘩したり、仲直りしたりする話ですから」
直情的な達也と言い争いが絶えない医学生の次男・雅也(福山雅治)。家族でただひとり血のつながりがないことに葛藤し、家を出る長女・小雪(酒井法子)。鑑別所あがりの荒くれ者で、しょっちゅう達也と取っ組み合いになる三男・和也(いしだ壱成)。思春期の悩みを抱える女子高生の次女・小梅(大路恵美)。車椅子生活で繊細な中学生の四男・文也(山本耕史)―。
柏木一家が時にぶつかりながらも絆を深めていく物語に、寄り添うような一曲だった。
財津が歌い直したCDは60万枚の大ヒット
曲を選んだのは野島だが、当時36歳の永山氏、同世代の大多亮プロデューサーにとっても、国民的バンドだったチューリップの曲は思い出深かった。『サボテンの花』を主題歌に採用することに異論はなかった。
「あの頃は、小室哲哉くんの音楽が一世を風靡しようかという時代で、ディスコサウンドが流行していました。耳に刺さるような音楽ばかりが流れる中で、財津さんの素朴な声とメロディがかえって新鮮に受け入れられたのではないでしょうか」(永山氏)
その言葉通り、財津が歌い直して再発された『サボテンの花』は60万枚を売り上げる。
「主題歌に、ドラマ全体のイメージを示す役割がいま以上に求められる時代でした。タイトルバックでこの曲が流れる中、柏木一家の生活をスケッチして、どんなドラマかが伝わるような映像を作っていましたが、オープニング映像自体が歌のプロモーションビデオにもなり、相乗効果が生まれた感じでしたね」
ドラマの開始は4月。作中の季節も春だったが、『サボテンの花』は冬の曲だ。
〈たえまなくふりそそぐ
この雪のように
君を愛せばよかった
窓にふりそそぐ
この雪のように
二人の愛は流れた〉
「〈長い冬がおわるまでに……〉と歌っているのに、桜が咲いている映像がテレビには映っている。そんなズレも良かったのかもしれません。富士山が見えて、家族でお花見をして……といういかにも日本的な映像にしたのですが、財津さんのやさしいメロディやリズムが、ドラマ全体の雰囲気に合っていた」
17歳の小梅を襲った悲劇
達也がクリーニング店を営んでいるという設定が、
〈編みかけていた手袋と
洗いかけの洗濯物
シャボンの泡がゆれていた
君の香りがゆれてた〉
という歌詞と符合する巡り合わせもあった。
「ふと街を歩いていて曲が流れていたら、「あ、あのドラマの曲だ」と思い起こしてくれたら良いな……そう思って作っていました。チューリップの楽曲自体がひとりの「出演者」になってくれたような気持ちでしたね」(永山氏)
作中では『サボテンの花』の他にも『ぼくがつくった愛のうた』など、チューリップの楽曲が効果的に用いられた。
「特に『青春の影』は、『ひとつ屋根の下』の印象が強いと、よく言われます」(永山氏)
その『青春の影』がとりわけ印象的に使われたのが、第10話―「小梅の事件」のシーンだ。
17歳の誕生日を迎えた小梅は、柏木一家の亡き両親の親友で、きょうだいを気に掛ける医師・広瀬のおじさん(山本圭)の診療所から、家族がパーティーの準備をして待つ柏木家へと帰り道を歩きだす。
その途中、暗がりを家へと急ぐ小梅に男が襲いかかり、工事現場の倉庫に連れ込む。男の暴力に激しく抵抗するも、セーラー服を引き裂かれ、男はGパンのベルトに手をかける―。
そんな衝撃的なシーンのバックに、永山氏は『青春の影』を流した。恋人と結ばれることの喜びを切ないメロディにのせて歌う愛のバラードだ。これが小梅の悲運をいっそう際立たせる効果を生んだ。
【後編を読む】社会問題を正面から描いた…月9『ひとつ屋根の下』次女・小梅の悲劇シーンが生まれた「裏側」
「週刊現代」2026年5月11日号より
永山耕三(ながやま・こうぞう)/'56年、東京都生まれ。大学卒業後フジテレビに入社。NY勤務を経て、『東京ラブストーリー』『ロングバケーション』『ラブジェネレーション』など数々のドラマを手掛ける。映画『東京フレンズ The Movie』『バックダンサーズ!』(ともに'06年)では監督を務めた
