経済安全保障が重視される3つの理由、戦略的な武器として機能
近年、国際社会において経済安全保障という概念が急速に重要性を増している。かつての冷戦期においては、軍事的な衝突を回避することに主眼が置かれていたが、現代では経済活動そのものが国家の存立を左右する安全保障の直接的な手段へと変貌を遂げている。
この背景には、グローバル化の進展に伴う相互依存の深化、地政学と地経学の融合、そして先端技術が軍民両面で決定的な役割を果たすようになった現状がある。
特定国に依存しすぎた供給網が有事の“武器”に
第一の要因として、サプライチェーンのぜい弱性が顕在化したことが挙げられる。長らく、世界経済は効率性とコスト削減を最優先に追求し、グローバルな分業体制を構築してきた。
しかし、新型コロナウイルスのパンデミックや地政学的な紛争は、特定の国や地域に依存しすぎた供給網が、有事の際には容易に断絶し、国家の国民生活や産業基盤を麻痺(まひ)させる武器になり得ることを露呈させた。
半導体や重要鉱物、医薬品といった戦略物資の供給が滞ることは、もはや単なる商業上の問題ではなく、国家の存続を脅かすリスクとして認識されるに至ったのである。
米中覇権争いの激化
第二に、米中対立を筆頭とする覇権争いの激化が経済安全保障の重要性を決定づけている。かつてのグローバル経済は、自由貿易が拡大すれば互恵関係が強まり、ひいては政治的な安定にも寄与するという「経済的相互依存による平和」という楽観論に支えられていた。
しかし、実際には特定の国が自らの政治的目的を達成するために、貿易上の優位性を利用して相手国に経済を武器として圧力をかけることが頻発するようになった。
これにより、経済を政治から切り離して考えることは不可能となり、重要インフラの保護や技術流出の防止が、国防上の最優先事項へと格上げされた。
先端技術の軍民両用化
第三に、先端技術の「軍民両用(デュアルユース)」化の加速である。人工知能、量子コンピュータ、通信規格、バイオテクノロジーといった次世代技術は、経済成長のエンジンであると同時に、次世代の軍事力の根幹を成すものである。
これらの技術覇権を握ることは、経済的な優位性だけでなく、安全保障上の優位性を直結させる。そのため、機微な技術の輸出管理や投資審査の厳格化、さらには同盟国・同志国間での技術ブロック化が進展している。
このように、経済安全保障が重視される背景には、経済的な手段が国家の安全保障に直接的な影響を及ぼし、かつ戦略的な武器として機能するようになった現実がある。各国は現在、従来の自由貿易の恩恵を享受しつつも、過度な依存から脱却する「デリスキング(リスク低減)」の道を模索している。
しかし、過度な経済安全保障の追求は、貿易のブロック化やコスト増を招き、世界経済全体の成長を抑制する恐れもある。
今後は、経済の自律性と不可欠性を確保しつつ、いかに国際的な協力体制を維持し、安全と繁栄のバランスを図るかが、各国政府に課せられた極めて困難かつ重要な課題となるであろう。
文/和田大樹 内外タイムス
