『8番出口』が『国宝』よりアメリカ人にウケた“意外な理由” 公開劇場は少なく、派手な宣伝ナシでなぜ?「ゲームの映画化として過去最高」という声も…
「8番出口」が、北米で好調だ。
【画像】イタリア・第78回カンヌ国際映画祭に参加する二宮和也さん
公開初週末の売り上げは143万ドル。ランキングの8位だが、トップ10に入ったほかの映画がすべて1,200スクリーン以上を持つのに対し、「8番出口」は495スクリーンと極端に少ない。また、唯一の外国語映画でもある。派手な宣伝をしたわけでもない。
次の週末は49.8%ダウンし、12位に転落した。ただし、ホラー、あるいはゲームの映画化作品では、公開直後にターゲット層が集まり、翌週は大きく落ちることが多く、5割弱というのは決して悪くない。

「8番出口」日本公開時のポスター 映画『8番出口』公式Xより
米アカデミー賞受賞作「パラサイト」「アノーラ」と同じ配給会社が北米配給を手掛けた
北米配給を手がけるのは、NEON。2017年に創設された若い会社ながら、2020年には韓国映画「パラサイト 半地下の家族」をオスカー作品賞受賞に導いて歴史を塗り替え、昨年は「ANORA アノーラ」でまたもや作品賞を獲得してみせた。今年の国際長編映画部門の候補作5本のうち4本の北米配給権を持つなど、外国語映画に強い。ホラーも得意分野で、ニコラス・ケイジ主演、オズグッド・パーキンス監督の「ロングレッグス」は、同社の歴史で最高のヒット作だ。ほかにも、やはりパーキンスが監督した「THE MONKEY/ザ・モンキー」、今年日本公開された「TOGETHER トゥギャザー」などを成功させた。
昨年のカンヌ映画祭で買い付けた際に同社がいくら払ったのかは不明。しかし、このマッチングは最も理想的だったと言える。NEONのテイストの良さはアメリカの映画ファンの間で認識されているし、アワード戦線での健闘が証明したように、マーケティングもうまい。
ただし、実際に見た人から高い評価を得たのは、作品の力。公開初週末に一般観客の感想を聞くシネマスコア社がこの映画の調査をしていないのは残念ながら、レビューサイト「RottenTomatoes」では、批評家の92%、一般観客の87%が好意的だ。ただし、それはつまり褒めている人が9割前後いるということで、残りの1割前後の中には5つ星満点中の星1つなど、酷評もある。そこもまたこのジャンルでは普通のことだ。
この成功の背後には、北米の観客の意識の変化がある。
以前のアメリカでは「アジア系キャストの映画など誰も見に来ない」と信じられていたが…
ほんの少し前まで、アメリカでは、「アジア系キャストの映画など誰も見に来ない」「観客は字幕が嫌いだから外国語の作品は見ない」と信じられていた。しかし、2018年、3,000万ドルで製作された全アジア系キャストの「クレイジー・リッチ!」(原題は「Crazy Rich Asians」)が、北米だけで1億7,500万ドルを売り上げる大ヒットとなる。この時は原作小説がベストセラーだったからかとも思われたものの、数年後、オリジナルのアイデアで、宣伝にまったくお金をかけなかったNetflixの「イカゲーム」が社会現象となるほど大成功した。アメリカに住むアジア系が主人公の「クレイジー・リッチ!」と違い、「イカゲーム」はすべて韓国語だ。
ほかにも、Netflixからは、韓国系アメリカ人のクリエイターによる「BEEF/ビーフ〜逆上〜」が、今月第2シーズン配信開始に。第2シーズンでは、第1シーズンよりもっと韓国語のシーンが多い。また、昨年の「KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ」は、Netflixのオリジナル映画として、創業以来最高の視聴時間を稼ぐ記録的ヒットとなった。
つまり、今日の観客、視聴者は、面白ければスクリーンに出ているのが白人であれ、黒人であれ、ラティーノであれ、アジア系であれ、気にしないということ。有名人が出ているかどうかも決め手にならず、キャストが無名であっても関係ない。
四半世紀前までは、大スターが出ればある程度の興行成績は確保されると見られていた。だから、トム・クルーズ、ブルース・ウィリス、ジム・キャリーなどひとにぎりの男性スターは、映画1本で最低でも2,000万ドルを要求できた。それが次第に、誰が出ているかではなく、コンセプトで作品が選ばれるようになってきたのだ。
そんな現代において、「8番出口」は、ふたつの意味で強かった。ゲームの映画化なので、ゲーム愛好家にはすでに知名度がある。一方で、地下鉄から抜け出せないというのは、いかにも怖そうで、面白そうなコンセプトであり、ゲームを知らない人にもアピールする。「RottenTomatoes」に批評を投稿した観客にも、ゲームを知っていたという人、まるで知らなかったという人、両方が見られる。
そして、映画は、それらの人たちを満足させてみせたのだ。ゲームのファンからは「ゲームの映画化作品として過去最高」という声が聞こえてくるし、それ以外の人からは「シンプルさが良い」という意見が目立つ。もちろん、結末が物足りないとか、同じことの繰り返しで飽きるなどネガティブな感想もあるが、前述したように、87%の観客は楽しんだ。楽しいから、言語が日本語だとか、出演者に馴染みがないとかは、気にならなかったのである。
国内でメガヒットした「国宝」より「8番出口」がウケた理由
ここで興味深いのは、「国宝」が北米では今日までにわずか110万ドルしか売り上げていないという事実。これは、「8番出口」の初週末の成績にも満たない。
もちろん、この2本は、作品のタイプも、観客層も、まるで違う。だから、戦略も違う。歌舞伎の世界を描く時代ものだけに、シリアスで質の高い大人の映画を好む人たちをターゲットにするべきで、オスカーだけでなく、前哨戦のアワードで名前が挙がることが、最高の宣伝となったはずだ。
「国宝」は、メイクアップ&ヘアスタイリング部門でオスカーに候補入りした。しかし、それより前、アワードシーズンの初期からあちこちに候補入りしてずっとタイトルが聞こえてきていたなら、ボックスオフィスの助けになったかもしれない。そういったアワードキャンペーンはまさにNEONが得意とするところだ(前述したように、彼らは今年のオスカー国際長編部門候補作5本のうち4本を占めるという快挙を成し遂げた)。今後、オスカーで闘えるような日本の自信作を海外に出していく場合、彼らをはじめ、他社のプッシュを見習うべきだろう。
いずれにせよ、日本映画にとっても、海外の観客にリーチするための門戸は、今、昔よりずっと開いた。フィルムメーカーにとっては、またとないチャンスだ。次にアメリカで話題になるのは、果たしてどの作品になるのか。
(猿渡 由紀)
