東京都が総合人材サービス企業「パソナ」に委託した事業で、複数の労働者が3月31日で雇止めとなった。

【映像】30秒でわかる「パソナ雇止め」

 雇止めのきっかけとなったのは、別の部署で起きた詐欺サイトへの接続だった。なぜ無関係の労働者まで雇止めになったのか。都の事業を巡って一体何が起きていたのだろうか。

 ニュース番組『わたしとニュース』では、この雇止めの問題について、マネジメントトレーニングを普及するEVeM VP of Impactの滝川麻衣子氏とともに考えた。

■とばっちりで…パソナから突然の契約打ち切り宣告

 なぜ雇止めが起きたのか。都の事業で雇止めにあったAさんに話を聞いた。

「突然『4月からあなたたちはもう働く場所がないんです』という形の宣告を受けた」(Aさん、以下同)

 国家資格であるキャリアコンサルタントの資格を持つAさんは、東京都の就職支援事業に、この事業を受託したパソナの契約社員として携わっていた。

「就職活動している方の支援をするということで、面接練習をしたり、応募書類を添削していたり、大きく言えば人生の転機も含めて相談に乗る」

 しかし、去年秋、突然の契約打切りを宣告される。

「私の場合はまだ(契約期間が)1年以上残っていました。本当に言葉が出ないというか。なぜ自分にそういうことが起きたのか理解ができなかった」

 きっかけとなったのは、特定技能の習得支援などを行う東京都の事業で発生した、不正アクセス事案だ。この事業を受託していたパソナの従業員が、業務用PCで銀行のATMを検索していたところ、誤って詐欺サイトに接続。従業員は画面に表示された指示に従い、リモートアクセスツールをインストールしてしまったため、利用者800人分の個人情報が一時、外部から閲覧可能になった。

 Aさんが従事していたのは、不正アクセスがあった事業とは別の事業だ。しかし、パソナ自体がこの件で東京都から9カ月の指名停止処分を受けたため、Aさんの関わっていた事業についても4月以降の受託ができなくなり、その影響で契約の打ち切りに至ったとみられる。

「(影響を受けたのは)かなり多いですね。100人以上にはなりますかね。衝撃だったと思います。『また良ければ働いて』と言われていたものですから。私もすごく尊い仕事させてもらっていると思っていましたから、『ぜひお願いします』とそういう返事をして、その後ですからね」

 Aさんによると、パソナ側は4月以降も業務を受託する前提で、多くの従業員に継続の意思確認をしていたという。

 そこから一転して、突然の雇止め。この状況に声を上げる人はいなかったのだろうか。

「話し合いの上で個人的に言っている方はいたと思います。ただ、私たちも背に腹は変えられないというか。また(パソナの別の事業で)一緒に仕事をする機会もあると思うと、やはり声は上げづらかった」

 Aさんの従事していた事業自体は、東京都が別の事業者に委託する形で継続している。その後、パソナからは次の受託事業者の求人情報や類似の仕事の情報が案内されたものの、あくまでも情報提供だったという。

「『受けたい方は受けてください』と。(パソナの中で)異動するということはないですね。なぜならやはり契約社員ということですね。正規雇用ではないのでそこまで面倒はみない。」

「自分たちは、普段は就職する人たちの支援をしているわけだが、まさか自分たちがその立場にいきなりなるんだと。一瞬にして変わってしまった」

 この件に関し、パソナは「受託事業の終了に伴う有期契約の従事者への影響については、グループ各社を含めたさまざまな事業における業務を紹介するなど、会社としてできる限り皆様に配慮した方策を実施しているところです」とコメントしている。

 影響を受けた有期雇用者数は「お答えしていない」ということだった。

■「雇用の調整弁として使われてしまう」非正規の現実

 こうした状況について、滝川氏は次のよう指摘する。

「この話はパソナの事業の元で働いている人たちが非正規雇用ということが1番大きなポイント。これが正社員であったとすると、日本の企業は解雇規制が厳しいため、『予定していた受注がなくなったから他の会社に行ってください』『退社してください』ということはできない」

「Aさんも契約社員だが、これがひとたび非正規雇用になると、その契約が『満了です』『更新はありません』と言えば良いだけになってしまう。これは、日本の法律では基本的には解雇に当たらないとなる。企業に勤めている正社員だったり、東京都の人は何も困っていないけれども、そこで雇われていた非正規の人たちが雇用の調整弁として使われてしまう構造になっている」

 今回は、不正アクセス事案とは関係のない事業で働いている人にまで影響が及んだ。不満を抱える人も多いだろう。

「納得いかないと思う。『おかしい』と言いたいと思うが、また今後パソナから仕事をもらう可能性を考えたり、東京都の受託事業で引き続き働きたいと思っていたりしたら、非正規の弱い立場の人は『次の仕事が難しくなるのではないか』と当然思うだろう」(滝川氏)

■「そこで何が引き起こされているかを考える必要がある」

 パソナは、今回の指名停止による損害額を70億円と試算している。東京都が指名停止処分にしたことを受けて、連動して指名停止とした自治体もある。

 パソナ側は事業数や影響を受けた人数については回答していないが、受託の額、そして損失の予想額を考えると、影響が出た人数も相当な数になると思われる。

「企業側としては、こうした事態のために非正規雇用にしておく面もある。日本の場合は雇用が不安定で賃金も安い。企業にしてみると、公共事業を安く受注し、利益を出そうと思うと、人件費を削る発想になる」(滝川氏)

「その人件費を削る手法は何かというと非正規雇用だ。これが日本社会では2000年代の官製ワーキングプアからずっと続いてきている。よく考えてほしいのは、そこで本当に何が引き起こされてるかということだと思う」

(『わたしとニュース』より)