あれだけ金を援助してやったのに…81歳男性の落胆。貯蓄が1,000万円を切り「あわや孫破綻」と病院のベッドで弱音を吐露も、息子が放った“まさかのひと言”【CFPの助言】
「かわいい孫のためだから」と続けてきた教育費援助。その結果、老後資金はいつの間にか半減していました。医療や介護の不安が現実味を帯びるなか、資金の先行きに追い詰められ、病院のベッドで先々への不安に駆られることに――。今回は、子どもに頼まれて孫の教育費を援助し続けた80代夫婦の事例から、老後破綻を防ぐポイントをCFPの松田聡子氏が解説します。
かわいい孫への援助を続けて20年超…ふと気づいた「危機的状況」
「孫の教育費援助で自分たちの老後が破綻しかかるとは思いませんでした」
そう語る畠山周一さん(81歳・仮名)は、元会社員の年金生活者。千葉県内の一戸建てで妻・昌子さん(80歳・仮名)と暮らしています。
会社を定年退職した際、退職金なども合わせると手元に約2,500万円の貯蓄がありました。妻の分も含めた世帯の年金は月23万円あり、「貯蓄を取り崩せばなんとかやっていける」と感じていました。
ひとり息子の満夫さん(52歳・仮名)夫婦は、いわゆる就職氷河期世代です。苦労してなんとか正社員の座をつかんだ満夫さんと妻は、「自分の子どもには同じ思いをさせたくない。できるだけいい学校を出て、就職に有利になるようにしてあげたい」と、孫の啓太さん(仮名)が小学校高学年になる頃から中学受験の準備を始めました。
「父さん。啓太に私立中学を受験させたいので、教育費を援助してもらえないか?」
満夫さんからそう頼まれた周一さんは、退職直後で懐はそれなりに温かく、かわいい孫のために援助をすることにしました。
中学受験の塾代から始まり、入学金、授業料と、援助は毎年続きました。その甲斐あって啓太さんは私立中学・高校を経て私立理系大学へと進学。周一さんが76歳の頃です。
その後、有名企業の技術職として採用された啓太さん。「よかった、役に立てた」―― 孫の就職報告を聞いて、しばし達成感にひたったという周一さん夫婦。
しかし、ようやく援助から解放された頃には、退職時に2,500万円あった貯蓄がいつの間にか1,000万円を切りそうになっていました。
「こんなに減ってしまった。この先大丈夫だろうか」。そう思い始めた矢先に、自転車で転倒事故を起こした周一さん。これが、周一さんの不安を倍増させることになりました。
「あれだけ援助したのに」…息子のひと言で露呈した“ズレ”
骨折は意外に重度でした。当時、すでに80代間近という年齢もあり、手術とリハビリで退院まではしばらく時間がかかることに。日中は看護師やリハビリのスタッフが出入りしますが、ひとりになる時間も少なくありません。病室で横になりながら、周一さんの不安は増していきました。
もし、思うように歩けなくなったら、自宅の階段の上り下りはどうするのか。手すりを付けるだけで済むのか、それとも大がかりなリフォームが必要になるのか。あるいは、介護サービスに頼る日が来るのかもしれない。
減ってしまった残高で、そうした費用まで賄えるのか……。そんな中、見舞いに来た満夫さんと二人きりになったとき、周一さんはぽつりと口を開きました。
「実はお前たちに援助してきたこともあって、貯金がかなり減ってしまったんだ。この先のことを考えると不安でな」
満夫さんは驚いた表情で言いました。
「知らなかったよ、どうして今になって……。そんな状態だったなら、最初から頼まなかったのに」
満夫さんの心中には「援助してもらったことへの罪悪感」や「これから親の面倒を見なければならないかもしれない不安」が渦巻き、とっさに感謝の言葉も出なかったのかもしれません。
しかし、「あれだけ援助したのに、そんなものなのか」とがっくり肩を落とした周一さん。その裏には、感謝を求める気持ちだけでなく、自分が差し出してきたものの重さが伝わっていなかったことへの戸惑いがありました。
「孫破綻」は他人事ではない―― データが示す老後資金の現実
周一さんのような「孫への教育費援助が老後資金を圧迫する」ケースは、決して特別な話ではありません。
孫の啓太さんが歩んだ「私立中学→私立高校→私立理系大学」というルートにかかる学習費の総額を、文部科学省のデータで確認してみましょう。以下の図表は、「令和5年度子供の学習費調査」 による中学、高校各3年間にかかる学習費の平均額です。
【図表】公立・私立の子どもの学習費の違い(3年分) 出典:文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」
中学校は、公立が約163万円に対して私立は約468万円。高校は、公立が約179万円に対して私立が約354万円。中学、高校とも公立と私立では数百万円の差があることがわかります。2026年からの高校無償化により、私立高校に進学した場合の負担はかなり軽減されますが、それでも私立中学の教育費負担は大きいままです。
そして私立大学の理系学部では、4年間の学費の総額は平均約567万円です(文部科学省「令和7年度私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額(定員1人当たり)の調査結果」より)。
このデータから中学から大学卒業までを単純に合算すると、1,400万円近くになります。もちろん満夫さんが一定額を負担していたとしても、周一さんが長年にわたって「足りない分」を補填し続ければ、数百万円規模の援助になったことになります。
また、啓太さんは4年で就職しましたが、理系だと大学院へ進学するケースも少なくありません。もしそうなっていれば、さらに援助が続いた可能性もあります。
問題は、こうした援助を、老後の生活を支えるはずの資金から出してしまうという点です。総務省「家計調査」(2025年平均)によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯では、可処分所得約23万円に対して消費支出は約26万円と、毎月約3万円の不足が生じます。
周一さん世帯の月23万円という年金収入は、この統計とほぼ同水準です。骨折による入院・リハビリの医療費が加われば、収支はさらに厳しくなります。
しかし、自分たちの生活費だけであれば、この程度の支出は想定内だったのではないでしょうか。孫のためにと財布の紐を緩め続けたことで、周一さん夫婦は経済的に不安な状態に追い詰められたのです。
FPが伝えたい「孫破綻」を防ぐ3つの鉄則
では、このような事態を防ぐためには、どうすればよかったのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの立場から、祖父母世代に知っておいていただきたい鉄則を3つお伝えします。
●鉄則その1 祖父母の役目は副次的なものと心得る
子どもの教育費を負担する一次的な責任は親(子世代)にあります。子世代が負担しきれない孫の教育費を親世代が援助する義務はなく、支援を求められたからといって自分たちの生活を犠牲にする必要はありません。支援をするにしても「できる範囲で」と、親も子も節度を持つことが大切です。
●鉄則その2 援助の前に「自分たちの老後資金」を先に確保する
援助を始めるタイミングは、多くの場合、退職直後の「懐が温かい時期」と重なります。しかし、退職後の生活は思った以上に長く、医療費や介護費は年齢を重ねるほど増えていきます。援助を検討する前に、まず「自分たちが生涯にわたって必要な資金総額」を試算しておきましょう。介護費用も加味したうえで、「余った分だけ援助する」という優先順位を徹底します。
●鉄則その3 援助するなら上限を最初に決める
一度出してしまったお金は戻ってきません。「頼まれたから出す」を繰り返していると、いつ終わるのかが見えなくなります。援助できる金額が決まったら、それを子どもに伝えておきましょう。最初に上限を知らせておけば、「まだ余裕があると思っていた」という認識のズレを防げます。
「孫のため」で老後が脅かされないために
幸いにも、周一さんは順調に回復して、自宅に戻ることに。リフォームや介護の不安からはいったん解放されました。しかし、その時が絶対に来ないとは限りません。
そこで退院後、周一さん夫婦は家計を見直すことにしました。貯蓄はずいぶん減ってしまいましたが、もう援助をする必要はありません。これからはできるだけ年金の範囲で生活するように心がければ、なんとかやっていけるのではないかと話し合いました。
周一さんの満夫さんへのわだかまりは、すぐには消えませんでした。それでも夫婦で慎ましく生活するなかで、「孫が一人前になるための手助けができた。それだけで十分だ」と徐々に思えるようになってきたのでした。
この事例では、結果として生活が大きく崩れる事態にはいたっていませんが、それは、たまたま条件が重ならなかったに過ぎないともいえます。
「孫のために」という思いでも、その善意が自分たちの老後を揺るがすものであってはなりません。前述の3つの鉄則を踏まえ、どこまで支え、どこで線を引くのか。それをあらかじめ考えておくことが必要だといえます。
松田聡子
CFP®
