パソコン一台を手に、ネットワークを通じて世界を旅しながら働く人々「デジタルノマド」。かつてはバックパッカーが資金を切り崩しながら旅をしていたが、現代の彼らは「行った先で働けるので、ずっと旅を続けられる」という強みを持つ。

【映像】多くのデジタルノマドが暮らすチェンマイの施設

 コロナ禍でリモートワークが普及したことを背景にその数は一気に増加し、現在は世界に3500万人が存在するとの推計もある。朝日新聞の金成隆一記者は、アジアで人気の滞在先であるタイのチェンマイを訪れ、その実態を取材した。

 チェンマイには宿泊と仕事場が一体となった「コリビング・ワーキング施設(Co-living Working Space」という拠点がある。仕事をするスペースでは四六時中誰かが働いている。アメリカ時間やヨーロッパ時間で働く人など事情は様々だ。

 金成記者が訪れた施設では、あえて個々の部屋にテレビや冷蔵庫を置かず、共用キッチンやワークスペースに人が集まるよう設計されていた。そこには「ホテルとは思想が全く逆の発想」があり、多国籍な人々が共同生活を送りながらグローバルな交流を楽しんでいる。

 取材に応じたイタリアのソフトウェア開発者は、1日4〜5時間の労働で年収1800万円を稼ぎ、自由で豊かな人生を謳歌していた。金成記者は、彼らの装備のコンパクトさにも注目し、同じ黒のTシャツを7枚揃えて持ち歩くなど、極限まで身軽なスタイルで移動するホワイトハッカーの存在を紹介した。

デジタルノマドのメリットとデメリット

 デジタルノマドという生き方には、明確なメリットとデメリットが存在する。メリットについて金成記者は「ラップトップを閉じたらそこは旅先という刺激」に加え、世界中の同業者から最新技術や異なる仕事の進め方を学べる点を挙げた。取材先では、スペインのグラフィックデザイナーとフランスの起業家と台湾のソフトエンジニアとイスラエルのデータサイエンティストが異文化に刺激を受けながら共同生活を送っていた。さらに「強い通貨(ドルやユーロ)で稼ぎ、物価の安い国で使うことで、働く時間を圧縮できる」という経済的な利点を挙げた。一方でデメリットとしては、一人の移動に伴う孤独感や、雇用主側の国との深刻な時差による生活の過酷さも浮き彫りになった。

 近年、円安も手伝って日本も訪問先として人気が高まっており、東京や福岡、長崎など各地で誘致や交流会が活発化している。彼らの中には、一つの会社に依存する「安定したキャリア」に疑問を抱き、自ら人生を切り拓こうとする若い世代も多い。一方で、都合が悪くなればすぐに別の土地へ移動できる彼らのスタイルを社会の「いいとこ取り」であると自己批判的に捉える声もある。金成記者は「いずれデジタルノマドという言葉は使われなくなり、当たり前の存在になる」と予測し、その普及に合わせて税制や社会保障制度をアップデートしていく必要性を説いた。

(朝日新聞/ABEMA)