変わりつづける「基礎英語」。制作陣が語る、講座への思いと未来。
長く親しまれてきたNHKラジオ「基礎英語」シリーズは、時代や学び方の変化に合わせて、少しずつ進化をしてきました。直近では2025年度に『中学生の基礎英語 レベル2』が、そして2026年度は番組名から「中学生の」が取れるとともに『基礎英語 レベル1』がリニューアル。
そこで今回は『基礎英語 レベル1』のプロデューサー・西入利雄さんと、『基礎英語 レベル2』のデスク・安田奈々子さんに、リニューアルの背景と番組づくりの舞台裏、その先に見据える「基礎英語」シリーズの未来について伺いました。
『基礎英語 レベル1』『基礎英語 レベル2』2026年4月号書影
──まずは、お二人が担当されているお仕事について教えてください。
西入:プロデューサーは企画のアイデアを考えたり、出演者の選定をしたり、予算やリスクを見きわめたりと、番組の方向性や内容の設計に深く関わっています。安定して番組を届けるための管理と、よりよい番組にするためのクリエイティブ、その両方に責任をもつのが役割だと思っています。
番組を製品にたとえるなら、その製品をつくる“工場長”のようなものでしょうか。きちんと納期までに、問題なく、想定した人たちに届けられるように管理する。そういう意味では、プロダクトマネジメントの責任者ですね。
安田:デスクは、番組の構成や伝え方にも踏み込み、仕上がりをよりよいものに整えていきます。『基礎英語 レベル2』では、「今月は何をテーマにするか」という段階から制作者として提案をしますし、最後に出来上がったものを実際に耳で聴いて、「ちゃんと伝わる内容になっているか」を確認するのも大事な役割です。
スケジュール管理も、デスクにとって重要な仕事のひとつです。出演者の予定、スタジオやスタッフの予定、そして音声やテキストの制作も含めて、さまざまな関係者の都合を調整しながら全体がきちんと回るようにスケジュールを組み進行していきます。
大切にしているのは「きちんと届くこと」
──番組づくりのなかで、とくに大切にしていることは何でしょうか。
西入:大きくは二つあります。一つは、リスナーのみなさんに番組の意図がきちんと届いているかどうかです。「基礎英語」シリーズでいえば、「英語をこれから学びたい」「英語を好きになりたい」という人の思いに応えられているか。聴いたあとに共感や発見、満足感が残るものになっているかは、いつも意識しています。
もう一つは、出演者も含めて、関わるスタッフそれぞれが自分の強みや持ち味をしっかり発揮できているかということです。番組は一人ではつくれません。チーム全体の力が合わさることで、よりよい形になっていくものなので、その総合力をどう引き出すかはすごく大事だと思っています。
安田:「基礎英語」シリーズは、英語を学びたい方のための番組で、その目的がすごくはっきりしているんです。だからこそ、その軸はぶれてはいけないと思っています。せっかく「聴いてみよう」と思って番組にアクセスしてくださる方に、後悔はさせたくないんですよね。
実は私自身、英語が得意なわけではなくて、どちらかというと“学び直し”に近い感覚もあります。だからこそ、「昔の自分だったらどこでつまずいたかな」とか、「こう教わっていたらもっとわかりやすかったかもしれないな」という視点を番組に取り入れるよう努めています。講師やスキット制作者との打合せの中で感じた「気づき」を、少しでも番組に反映できたらいいなと思っています。
長く続く講座だからこそ、“いま”を映したい
──長い歴史を持つ「基礎英語」ですが、いま番組づくりに携わっている立場だからこそ、感じることはありますか。
安田:ラジオで英語を学ぶ講座って、本当に長い歴史があるんです。その積み重ねの最前線に自分たちが立っていると思うと、歴史を大切にしながらも、できるだけ“いま”の空気や感覚も取り入れたいという思いがあります。
その時々で、人が日常的に感じていることや、英語でいえば学び方のニュアンス、会話のテンポといったものは、番組の内容に自然と反映されるものだと思うんです。番組そのものだけでなく、そこに映し出される“時代のムード”も未来に残っていくと思うと、より長い視点で内容や方向性を考えていくことになります。
西入:語学番組は、ただ知識を伝えるだけでなく、「こんな学び方もあるんだ」「こうやればできるのか」という気づきや発見を提供することも大切だと思っています。押しつけるのではなくて、「こういう形もありますよ」と差し出すような番組にしたい。そういう開かれた姿勢は、これからも大切にしたいですね。
リニューアルで目指したのは「より広く、より深く」
──今回のリニューアルでは、どんなことを目指したのでしょうか。
西入:今回のリニューアルに関して一言でいうと、より幅広いリスナーに親しまれ、なおかつ、より深く刺さる番組にすることです。
タイトルから「中学生の」を外したのも、そのためです。扱う内容は中学英語ですが、実際には大人の学び直しのニーズもとても大きい。だからこそ、リスナーを中学生だけに限定せず、より広く開かれた講座として届けたいという思いがありました。
一方で、メインのリスナーが中学生であることは変わりません。そこにもしっかり寄り添いたい。だからこそ『基礎英語 レベル1』では、現役の中学校の先生と中学1年生の生徒役を迎えて、「自分も一緒に学んでいる、参加している」と感じることのできる構成にしようと考えました。
安田:『基礎英語 レベル2』でも、リスナーが置き去りにならずに学べる構成にすることは強く意識しました。語学番組は、「自分もそこが言えない」「それ、気になっていた」というポイントがあると、一気に学習者との距離が縮まるんです。ただ情報を詰め込むのではなくて、学ぶ人の気持ちに寄り添う設計が大事なんだと思います。
『基礎英語 レベル1』に“生徒”が入った理由
──『基礎英語 レベル1』で番組構成に“生徒”を導入した背景について、もう少し詳しく教えてください。
西入:英語教育の専門家や現場の先生方に取材していくなかで、リスナーのアバター、つまり分身のような存在になる“生徒”がいたほうが、リスナーが自分と重ねることで学びやすくなるのではないかと思いました。
先生がいて、生徒がいて、そのやりとりをリスナーも一緒に聴く。そうすることで、「そこ、自分もわからなかった」「やっぱり、そこでつまずくよね」とリスナーが共感しながら、主体的に学べるんです。もちろん、そのやりとりに割く時間は、15分という限られた放送時間のなかではそれなりのウェイトを占めます。それでも、等身大の生徒役とともに歩むことで、理解の深さや親近感を持てる構成が大切だと考えました。
もう一つ大きかったのが、“小中接続”です。いまは、小学校で英語にふれたあと、中学校では文法中心の学びが本格的に始まります。その段階で一気にハードルが上がり、苦手意識を持ってしまう生徒が少なくありません。教育の現場では、文法の学習などで脱落する生徒を出さないために、反復しながら少しずつ身につけていく“スパイラル式”の考え方も浸透してきているようです。
番組では、生徒役に「それって英語では?」などと単語やフレーズを確かめる場面があります。さりげなくフォローしながら、講師が学習者に並走することで、「英語好き」になってもらえればと思っています。
「15分×週5日」だからこそできること
──『基礎英語 レベル1』『基礎英語 レベル2』の特徴ともいえる、「15分×週5日」という放送スタイルには、どんな強みがあると感じていますか。
西入:いちばん大きいのは、日々の生活サイクルのなかで、無理なく耳から英語にふれられることですね。ストーリー(英語の会話劇)は“聴く朝ドラ”のように楽しめます。15分のなかで同じストーリーが何度か流れるため、解説と合わせて繰り返し聴くうちに、最初は難しかったところもだんだんわかってくるようになっています。
音声ならではの親しみやすさに加えて、声を通して講師の人柄や熱意、スタジオの空気が伝わる“ラジオならではの近さ”も魅力です。
講師の呼びかけに背中を押されて「自分もやってみよう」と感じられますし、身近な例文が出てくると、自分事のように感じながら学べるようになるんです。
安田:通勤・通学の電車のなかで聴いてくださる方も多いと思うんですが、そうした環境では声を出しにくいですよね。だからこそ、聴くだけでも語学の学習になるというハードルの低さは長所の一つです。
一方で、やっぱり声に出してみることが、少しずつ話す力につながっていくんですよね。そこは音声教材の難しさでもあり、面白さでもあるのかなと思います。リスナーのみなさんの生活に自然に寄り添いながら、どこかで「このフレーズ、実際に言ってみよう」と思える設計にしていきたいですね。
英語学習を、世界とつながるきっかけに
──最後に、これからの「基礎英語」シリーズについて聞かせてください。
西入:ラジオ英語講座は、放送開始から100年を超えました。その長い歴史や伝統、エッセンスは大切にしながらも、やはり時代に合わせてアップデートしていくことが欠かせないと感じています。口語表現や、いまの時代ならではの言い回しもそうですし、より根本的なことをいえば、「なぜ英語を学ぶのか」という問いに答えられる番組でありたいんです。
英語は、試験や受験のためだけではなくて、国際理解や異文化コミュニケーションのための大事な手段でもあります。英語を母語としない人たちが世界各地で使っている、多様な英語にも目を向けていきたい。英語を学ぶことを通して、世界の文化や多様性にもふれられる。そんな講座にしていけたらと思っています。
安田:長く続いてきた番組だからこそ、いまのリスナーに合わせて変えていくことも大事なんだと思います。でも、その根っこにあるのは、「英語を学びたい」と思った人たちに応えたい、ということです。聴いてくださった方が「ちょっとやってみようかな」と思える“英語学習の入口”であり続けられたら、すごくうれしいです。
2026年度の「基礎英語」シリーズは、NHK FMとネットラジオ「NHK ONE らじる★らじる」と「NHKゴガク」アプリにて、
・小学生の基礎英語
・基礎英語 レベル1
・基礎英語 レベル2
というラインナップでお届けします。「らじる★らじる」では聴き逃し配信で、放送後1週間、「NHKゴガク」アプリでは、放送翌週の月曜から1週間、いつでもお聴きいただけます。
3月30日からの新年度講座放送開始をお楽しみに!
詳しい聴取方法や、テキスト学習の仕方については、
【NHK出版サイト内「はじめてのNHK英語テキスト」ページ】
をご覧ください。
■取材協力:NHKエデュケーショナル
■写真:相沢亮
■編集:井上峻
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