投資承認「57%減」の衝撃。フィリピン経済に何が起きているのか? 日本が支える安定の裏に潜むリスク
「成長の優等生」フィリピンが岐路に立っています。1月の投資承認額が前年比57.4%減という衝撃の事態に、内外の投資家には動揺が広がっています。汚職問題に伴う政府支出の停滞やインフラ遅延など、内政の混迷が「逆風」となる今、日本が支える安定の裏に潜むリスクとは。一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクター・家村均氏が、最新レポートから経済失速の真相と、再起をかけたマルコス政権の正念場を読み解きます。
転換点を迎えるフィリピン経済
2026年、フィリピン経済は重要な転換期を迎えています。アジア開発銀行(ADB)の最新見通しによれば、同国経済は2027年までに6%台の成長率を回復する潜在力を有しています。しかし、その道のりは決して平坦ではありません。過去の政情不安や汚職問題に伴う政府支出の停滞、さらに足元での投資承認額の急減といった逆風を、いかに構造改革とインフラ投資の再加速という追い風に変えられるかが焦点となっています。
ADBは、フィリピンのGDP成長率予測を2025年は5.0%、2026年は5.3%へとそれぞれ下方修正しました。背景にあるのは、昨年来の汚職問題に起因する政府支出の鈍化と、それに伴う投資家心理の冷え込みです。特に公共事業道路省(DPWH)の予算削減は、国内インフラ計画に大幅な遅延をもたらすリスクとして危惧されてきました。
これに対しマルコス政権は現在、「浄化(クリーンアップ)」と「加速」の二段構えで対抗しています。不透明な支出を精査しつつ、道路や橋梁の維持管理など基盤事業を優先する方針です。DPWHは2026年第1四半期に最大2,500億ペソの支出目標を掲げており、この公的投資の回復が、冷え込んだ民間投資を呼び戻す強力な起爆剤になると期待されています。
公的投資が回復の兆しを見せる一方、外資誘致の要である経済特区庁(PEZA)は、2026年1月の投資承認額が前年同月比57.4%減という厳しい現実に直面しています。1月の新規案件は18件、総額128.6億ペソにとどまり、前年実績を大きく下回りました。
しかし、テレシ・パンガ長官はこれを「撤退」ではなく、投資家による「戦略的調整期間」と位置づけています。事実、詳細を精査すると、投資の質と多様性は維持されていることがわかります。パラニャーケ市での50億ペソ規模の観光エコゾーン事業や地方の大規模開発が承認されているほか、カビテやラグナといった伝統的拠点からセブ、ゼネラル・サントスなど全土へ投資が波及し、包括的な成長基盤を形成しています。
特に日本は投資元首位を堅持しており、製造業を中心とした強固な信頼関係が、経済の安定性を支える緩衝材(バッファー)となっています。PEZAは年間3,000億ペソの目標を維持しており、「CREATE MORE法」等の法整備が進む中で待機案件が迅速に実行されれば、年初の遅れを挽回することは十分に可能です。
持続可能な成長への処方箋
長期成長の鍵となるのは、輸出拡大と産業構造の多角化です。フィリピンはASEAN諸国の中でGDPに占める輸出比率が低く、これが外部ショックへの耐性となる一方で、飛躍的な成長を阻む要因ともなっています。島嶼国特有の高コストな物流構造に対し、経済団体からは「先端技術による生産性向上」「農業供給網の整備による食料安全保障」「ガバナンスの徹底」「観光インフラの刷新」といった抜本的な改革案が提示されています。
これらの構造改革が着実に実行されれば、2028年の次期大統領選に向けた「選挙特需」という政治的サイクルとも相まって、成長率は再び上昇軌道へ回帰するでしょう。フィリピン経済は現在、内政上の混乱による一時的な「踊り場」にありますが、PEZAが示す底力とインフラ投資の再加速は、この停滞が一時的なものであることを示唆しています。
2027年の6%成長を実現するためには、予算執行の遅れ解消のみならず、物流コスト削減やビジネス環境改善といった積年の課題に、今、真摯に向き合う必要があります。日本を含む海外からの投資を引き続き呼び込み、ASEANの成長リーダーとしての地位を奪還できるか。フィリピン経済は今、その真価を問われる正念場に立っています。
