配布品が足りなくなるほどの行列になることも

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物価高や医療費負担、業界不振──仕事があっても生活は追いつかない。各地で人が殺到する炊き出しの現場から、日本で静かに広がる「見えない貧困」の実態を追った。
◆普通のサラリーマンが炊き出しに並んだ日

 2025年の年末、吐く息が白くなる寒空の下、都内の公園で行われた食料配布の会場には、開始前から敷地の外まで列が伸びていた。防寒着に身を包んだ人々の服装はまちまちで、作業着姿の中年男性の隣にスーツ姿の高齢男性が立ち、その後ろには家族連れの姿もある。いわゆる路上生活者ばかりではないことは、一目で分かった。都内某所の食料配布会場でも、年始から約900人を超える大行列ができていた。主催団体によると、過去最高だという。

 列に並んでいた都内の清掃会社で働く50代男性は、食費の高さを理由に一食でも浮かせたいと語った。周囲でも同じ事情の人は少なくないという。IT関係の仕事をしているという子連れのサラリーマンは、行列を見かけたので通りがかりに並んでみたと言うが、「結果的に夕飯代が浮いて助かった」と話した。

 取材陣が参加者に聞くと、言葉少ないながらもそれぞれの事情を話してくれた。

 埼玉県から来たというAさん(30代男性)は、数か月前に交通事故に遭い、最近ようやく仕事に復帰したばかりだ。だが収入は事故前の水準に戻らず、通院も続いているため治療費の支払いが重くのしかかる。

「会社には籍があるので、いまはリハビリという形で通っていますが、正直、生活はギリギリです」

 転職も考えてはいるものの、体調面の不安もあり踏み切れないという。

◆年金と合わせても生活費は足りず…

 建築関連会社に約30年勤めているというBさん(50代男性)は、この日が炊き出し初参加だった。

「大手ばかりに仕事がいき、中小の仕事自体が減っています。給料は出ているけど、物価高で全然足りない」

 フォークリフトの資格も持っているが、慣れ親しんだ仕事を簡単に捨てる気にはなれず、年末年始の長い休みに食料配布を利用することにしたと語る。

 少し離れた場所には、スーツにワイシャツ姿のDさん(70代男性)がいた。一度定年を迎え、現在は警備会社で働いているという。

「本当はフルタイムで働きたいけど、工事現場の仕事は体力的に厳しくて週3回が限界」

 年金と合わせても生活費は足りず、「同じような人は少なくないと思います」と静かに話した。

 ネットビジネスで年収300万円ほどを稼いでいるというEさん(50代男性)も、炊き出しはちょくちょく利用していると話す。

「円安で売りやすくなった面もありますが、去年より収入は100万円近く落ちました」

 固定費は下げられず、食費を削るしかなくなった結果、時折炊き出しに頼るようになったという。

◆家があるのに“餓死寸前”の理由

 投資詐欺に遭い、離婚しマンションを売ることになったという50代のサラリーマンFさんも、初めて年始の炊き出しに参加したと話す。円安の中、家族のために少しでも資産を増やそうとしたのが裏目に出たようだ。

「収入の大半は養育費と借金の返済でなくなります。会社も辞めて自己破産して、生活保護を受けた方がいいかと思ったんですが、役所に行ったらまずマンションがあるなら処分しろと。でも弟と共同名義だから売れなくて……」

 ここ最近はカップ麺を食べたが2日間は絶食。そんななか、炊き出しで命を繋いだという。

「助かりました。餓死するなんて冗談じゃないですから」

 飲食店を経営していたが、だまされて借金を背負い、今はアルバイトをしているというGさん(50代男性)も常連だという。

「今はホームレスはほとんどいなくて、正規でも非正規でも何かしら仕事をしている人が多い。炊き出しは都内なら毎日どこかでやっているし、障害者手帳を持っていれば交通費無料パスをもらえるから、回ってればそれで食っていける。そんな人いっぱいいるよ。僕は別居している嫁と子どもを、いつか迎えにいくつもり。だから炊き出しを使いながら頑張ってるの」