雷は極端な気象現象の1つであり、これまで地球、木星、土星で観測されています。一方、火星でも雷が発生する可能性が長年議論されてきましたが、これまで確実な観測例は存在していませんでした。


アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査車「パーサヴィアランス(Perseverance)」には録音用のマイクがあり、火星の2年間で30時間以上の音を記録しています。トゥールーズ大学のBaptiste Chide氏などの研究チームは、このうちの約28時間分のデータを分析し、全部で55回の雷の音を発見しました。これは火星で初めて検出された雷発生の直接的証拠です。


発生している雷の規模は、冬場に金属に触れた際に感じる静電気と同レベルであり、それほど強いという印象はないかもしれません。しかし規模こそ小さいものですが、火星で雷が発生していることを確認したのは重要な意味があります。


【▲ 図1: 今回の研究成果を説明する想像図。つむじ風の中で雷が発生し、その時に発生した音を火星探査車が記録しました。(Credit: Nicolas Sarter)】

火星に雷はある?

雷は、地球で起こる劇的な気象現象の1つです。その発生メカニズムは非常に複雑ですが、かいつまんで言えば「大気中に含まれる物質同士の摩擦で静電気が蓄積すること」が雷の発生に大きく関わっています。つまり雷とは、簡単に言えば、静電気が蓄積し、空気の電気抵抗に打ち勝って放電する現象です。


地球以外の天体では、木星と土星で雷の発生が確認されています。この3天体はいずれも、濃い大気を持ち、水の雲の中で雷が発生しているという共通点があります(※1)。激しい気流の中で氷の粒が摩擦しあい、蓄積した静電気がやがて雷になると考えられています。


※1…木星の雷は、水の雲で発生する雷に加えて、水とアンモニアの混合物の雲の中で発生する別の種類の雷も観測されています。


一方で、雷が存在すると見られていたものの、実証されていなかった天体として「火星」があります。


火星には0.0075気圧という非常に薄い大気しかありませんが、普段から砂塵を大量に含んでおり、激しい砂も頻繁に発生します。そして氷の粒と同じように、岩石の塵同士の摩擦でも静電気は蓄積します。地球の砂漠ではこの現象が自然発生することが知られていますが、地球の砂漠では放電するほど大量の静電気が蓄積することは稀です。しかし、火星は大気が薄いため、放電するのに必要な静電気量も少なく済みます。


これらのことから、地球のものより規模は小さいものの、それでも火星で雷に分類できる放電現象が発生している可能性は予想されていました。


火星の雷の音が探査機のマイクで記録されていた!

【▲ 図2: 雷の音を捉えたマイク(Microphone)は、パーサヴィアランスの観測装置「スーパーカム」に設置されています。(Credit: NASA & JPL-Caltech)】

NASAの火星探査車「パーサヴィアランス」には、火星探査機では初搭載となる録音用のマイクがあります。トゥールーズ大学のBaptiste Chide氏などの研究チームは、このマイクによって記録された約28時間分の火星の音を分析し、雷放電による電気的な干渉と直接的な放電音の検出を試みました。


その結果、雷の放電に関連する音が全部で55回分見つかりました。このうちの7回分は放電現象全体に渡る現象が記録されており、この記録の分析から「火星で初めて雷を捉えた」と発表することができました。これで火星は、雷が発生することが確認された4番目の天体となりました。



【▲ 動画: 火星でのミッション開始から1296ソルとなる日に録音された、火星の砂の中で発生した雷の音。雷が原因の音は動画の9〜10秒付近に録音されています。(Credit: JPL)】


火星の雷の実際の音は、上のYouTube動画で聞くことができます。火星の雷は動画の9〜10秒のところで聞こえますが、おそらく、多くの人が想像している雷の音とは違うでしょう。


今回の論文が掲載されたNature誌の公式ポッドキャストでは、これを「イヤホンから端子が抜けた時のノイズ」のような音だとたとえています。


【▲ 図3: 今回分析された音のグラフ。特に分かりやすい赤色のグラフで説明すると、左側の最初のピークは実際の音ではなく、放電による電気的干渉で発生した信号であると推定されています。それに対し右側のピークと、それに続く波は、実際の雷の音を捉えていると考えられています。(Credit: Baptiste Chide, et al.よりトリミング)】

雷の音は、よく聞くと3つの音に分かれています。そのうち最初の2つは実際の音ではなく、放電がマイクの回路に電気的な干渉を与えて発生した信号であると推定されます。一方で、最後の1つは実際に発生した音であり、放電によって発生した圧力波であると推定されます。


これを地球の雷に置き換えれば、最初の2つの音はピカッと光る稲光、最後の1つの音は光より遅れてやってきたゴロゴロという雷鳴に当たります。音の間で発生した時間差から、この録音の雷は、マイクから約1.9mの距離で発生したと考えることができます。


前章でも述べた通り、火星は放電に必要な静電気量が少ないという特徴があります。実際、今回の記録から推定される火星の雷の放電量は、金属のドアノブに触れた際に走る静電気とほぼ同じレベルです。


小さいながらも重要な発見

日常的に触れる静電気と同じくらいでは、雷と呼ぶには小さいと思うかもしれません。とはいえ、この雷の発見は決して小さなものではありません。


雷は高エネルギー現象であり、安定した分子を分解し、反応性の高い不安定な分子に変換することがあります。火星の表面では、過酸化水素や過塩素酸塩など、有機物を分解するほどの反応性の高い分子が見つかっていますが、これらの生成に火星の雷が関与している可能性があります。


特に注目されているのは、火星大気中のメタンとの関連性です。火星の大気には、わずかながらも検出可能なメタンが含まれています。このメタンの発生源は火星独自の生命なのか、それとも生命とは関係ない自然現象なのかは、現在でも議論が続いています。


ただし、メタンの発生源の謎とは別に、火星のメタンが大気中から急速に消えている謎も議論されています。メタンは安定な分子であり、なぜ急速に消滅するのかは大きな謎でした。しかし反応性の高い分子ならば、メタンを分解することができます。火星での雷の観測は、火星のメタンに関連する長年の謎を解決するきっかけとなるかもしれません。


【▲ 図4: マーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)によって撮影された火星のつむじ風。火星の雷はこのような局所的なの中で発生しやすいと考えられます。(Credit: NASA, JPL-Caltech & University of Arizona)】

また、今回の研究では雷の発生条件も見えてきました。全55回の雷のうち54回は、風がとても強い時(測定された風速の上位30%)に発生していたことが分かりました。風の音や、マイクの近くに砂粒が当たった時の音も記録されていることも合わせると、火星の雷は広い範囲の砂よりも、つむじ風(ダストデビル)のような局所的なで発生しやすいことが推定されます。


火星の砂は、広範囲を覆うほど大規模ながら風速が小さいと、局所的ながら風速が大きいとに大別されます。今回の観測結果からは、火星の雷の発生は後者のに関連付けられることになります。火星の雷がどのような条件で発生するのかを正確に知ることは、雷によって発生する様々な現象の発生頻度を考察する上でも重要な情報となります。


さらに、砂と雷には別の関連性がある可能性もあります。砂粒が静電気を帯びると、電気的に引き合ったり反発したりすることで、普段よりも浮き上がりやすくなるからです。雷は静電気の蓄積によって起こる現象のため、雷の発生頻度を正確に知ることができれば、火星の砂の発生規模や頻度の正確さを挙げることにも繋がるでしょう。


火星の雷は精密な電子機器を壊すのに十分な強さであるため、放電現象の発生条件を正確に捉えることは、リスク管理の上で重要です。この研究は、将来の無人・有人の火星ミッションにも影響を与えるかもしれません。


そして、地面の砂の摩擦によって起こる雷は、金星やタイタンのような、表面が乾いている環境の天体での雷の発生を検討するのにも役立ちます。


ひとことコメント

火星の雷は、想像しているものよりはだいぶ小さいかもだけど、発見はとても大きいのよ!(筆者)


 


文/彩恵りり 編集/sorae編集部


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