2025年のマーケティングおよびメディア業界は、急速な技術進化と市場構造の変化が重なり、これまで当たり前とされてきた前提が揺らぎ始めた1年だった。とりわけAIの進化は、ツールの域を越え、マーケティングにおける生産性と創造性の前提を書き換えつつある。加えて、検索、ソーシャル、コマース、生成AIといった接点が絡み合い、顧客体験の「入り口」そのものも分散・再編されはじめた。Digiday Japan恒例の年末年始企画「IN/OUT 2026」では、当メディアとゆかりの深いブランド・パブリッシャーのエグゼクティブたちにアンケートを実施。2025年をどのように総括し、そして2026年に向けてどのような挑戦とビジョンを描いているのか。その声を紹介する。ユニファイド・サービスで、マーケティング 執行役員 CMOを務める甲斐博一氏の回答は以下のとおりだ。

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――2025年のもっとも大きなトピック・成果は何ですか。

【AI Nature時代の到来。普遍的価値の追求と、Googleの変化への適応】最大のトピックは、AIが業務の「自然(Nature)」な一部として浸透したことです。進化の速いAI時代において、長期的な未来を正確に予測することは困難だと考えています。だからこそ、技術に振り回されるのではなく、「本質的に変わらない普遍的価値」とは何かを議論の軸に据えることが重要だと考えます。2025年の重要な成果は、そうした長期視座での議論の傍らで、足元の「短期的にできること」を少しずつですが確実に見出し、実践へと変換できた点にあります。また、過去25年続いたGoogle中心の潮流は、Google自身が大きな変化を遂げる中で、しばらくは形を変えながら続いていくでしょう。プラットフォームと対立するのではなく、その進化の文脈に寄り添った「これからのWebコンテンツの在り方」が明確に見えたことも、2025年の大きな収穫でした。

――2026年に向けて見えてきた課題は何ですか。

【人を動かす力は共感と共有から、具体的な「行動」へのブリッジ】2026年に向けた最大の課題は、真の意味での「人を動かす力」の再実装です。情報が溢れる現代において、単にメッセージを届けるだけでは人は動きません。行動の手前には、必ず強固な「共感」と、それを他者へ伝播させる「共有」のプロセスが不可欠だからです。しかし、共感を得ることはあくまで前提条件に過ぎません。私たちマーケターの課題は、その共感と共有の熱量を、いかにして具体的な「行動」へと転換させるかという点にあります。顧客の感情が揺れ動いた瞬間を逃さず、シームレスに次のアクションへとつなげる動線をどう設計するか。感情という不定形なものを、ビジネス成果という確固たる形へ着地させるための「共感から行動へのブリッジ」の精度を極限まで高めることが急務だと感じています。そのためには、原点に立ち戻り、個人としてのN-1理解、B2Bではさらに組織としてのN-1理解からの洞察が重要な出発点となるものと思います。

――2026年にチャレンジしたいことを教えてください。

【組織と市場の共振、そしてAGIとの共創による新たな生態系へ】CMOとしての挑戦は、社内外における「共感と共有」を経営資源として最大化することです。社内では未来の「絵」を共有し、組織の生産性を高めること。対外的には、業界の発展に資する良質なコンテンツを生み出し、その価値を定量化して経営に組み込むことに挑みます。そしてより広い視座では、いよいよ現実味を帯びてきたAGIへの道程を楽しむ1年にしたいと思います。かつて生態系を破壊して繁栄したホモサピエンスは今、コンピューターとの共創により、生態系を維持する新たなメカニズムを構築しようとしています。人間とAIが補完し合い、破壊ではなく維持と再生のために知能を使う。そんな少し長い時間軸での進化を見据え、AGI時代のマーケティングを模索していきます。