不妊治療で採取し凍結保存した受精卵は、治療が終わった後どうなるのか。43歳で不妊治療を始め、48歳で第1子を出産した読売新聞記者の遠藤富美子さんは「私は使わなかった凍結胚を体内に戻す選択をした。『受精卵も命』という意識が強く私の中にはあった」という――。

※本稿は、遠藤富美子『48歳、初産のリアル 仕事そして妊活・子育て・介護』(現代書館)の一部を再編集したものです。本稿の内容は2025年6月末時点のものです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Natali_Mis

■「更年期」で目のクマは消えず、体重も増えてきた

娘が「なんでうちの親だけ年を取っているんだろう」と悩まなくてもいいように、見た目は少しでもこざっぱりできればと私は願っている。「実年齢より若く見えますね」と言ってくれる人にたまに遭遇するが、たぶん日々仕事や子どもを通じて多くの人たちとふれあい、刺激を受けている影響は何かしらあると思う。ただし、目の下のクマは消えないし、若い頃より体重も増加し、基本的に年相応だ。

出産前後からいまに至るまで、私は「更年期」の影響下にあるはずだ。産後の影響か、更年期のせいなのかわからないが、私は産後毎日あまりにもめまぐるしくて、すぐに何かを忘れがち。「年だから許して〜」と周囲に言っている。

更年期とは女性の体調が大いに揺らぐ時期を指す。一般的に女性ホルモンの分泌が急激に下がる閉経前後の45歳頃から55歳頃にかけて、「ホットフラッシュ」と呼ばれるほてりや発汗のほか、不眠、イライラなどの心身の不調が出やすくなる。

■ラジオ体操でいいから日々の運動を

私は若い頃は徹夜もできたが、近年徹夜は不可能だし、絶対にしたくない。できれば毎日ぐっすり寝たいが、娘が寝ている間に済ませたい家事や仕事の準備があり、睡眠時間は6時間未満。体調を崩すと回復しにくいし、常に肩、首、背中が凝っている。髪の毛のぱさつきや朝起きたときの口の渇きも気になってきた。体重もことさら落ちにくい。

更年期に詳しい婦人科医、小山嵩夫さんを訪ねると、「それは加齢からきていますね」とやさしい表情ながらはっきりと言われた。年を重ねると体内の水分が減ってくる。小山さんによると、意識して水分を摂取するようにし、たくさん歩くなどこまめに運動していると、身体に吸収されやすくなるという。

「大げさなことをしなくてもいいのです。ラジオ体操でいいから日々の運動が大切です」

そうした健康管理は、更年期症状のセルフケアにもなる。

更年期症状は、女性ホルモンの減少に加え、その人の性格や、仕事や家族関係などの環境的な要因が複合的に組み合わさって出てくるそうだ。「起き上がれないとか、周囲としょっちゅう衝突するとか、日常生活に支障が出るような状態であれば専門医の受診をお勧めします」と小山さん。更年期の数ある症状の中でも、特につらいのは精神的な疲れだという。

■更年期症状の軽減につながる「愚痴大会」

私は職場で管理職。全体を見渡し、所属部の部員から話があれば耳を傾け、部全体がうまく回るようにする役目だ。しかし、表向き落ち着いた対応を心がけていても、内心いつも仕事と育児でいっぱいの高齢の未就学児ママである。抱えるものが多すぎて心が折れかけることもあるけれど、立場上、職場では平静を保つようには心がけている。

私が心を解き放つのは、職場とはまったく関係のない友人たち。互いに忙しいから対面で話すことはほぼない。毎日連絡することもない。たまに突然LINEなどで連絡し合い、日常の細かな愚痴大会が始まる。大会といっても延々とは続かない。でも、そのつながりがあるという心強さは、明らかに私の心を守ってくれている。

小山さんにも指摘された。

「身近な人に話を聞いてもらううちに症状が改善することもある。高校生くらいの年齢であれば、子どもでもいいですよ」

友人にチャットしたり、知り合いにちょっと話を聞いてもらったり。正直に気持ちを吐露できるわずかな時間が大きな助けになる。趣味や運動で気分転換をするのも更年期症状の軽減には良いそうだ。

■たまには自分のしたいことを第一優先に

私は、出産前までは健康診断の血液検査はいつもAだったが、産後は悪玉コレステロールの増加を毎回指摘される。小山さんに助言されたようにラジオ体操を心がけたいが、自分のための時間が日常生活の中で確保できないことに悩む。すき間時間を使えばいいのかもしれないがうまくできない。

アラフィフ世代の心がけについて、株式会社「ウェルネスシアター」(東京)の代表、永田京子さんに聞いた。永田さんは、NPO法人「ちぇぶら」(現在は一般社団法人)の活動を通じ、更年期世代に健康面でアドバイスを送ってきた。

永田さんは「40〜50代の女性にはこれまで子育てに追われて、自分のことは後回しにせざるを得なかった人が多い。更年期にはこの考え方の癖をやめて自分を一番大事にしましょう」と話してくれた。はたして、仕事+育児+家事をやり繰りする中で毎日様々なことが中途半端で終わってしまい、心の中でイライラの炎がくすぶり続ける私にできるだろうか。

そんな私に永田さんは「その場合は、まず自分のやりたいことを第一にスケジュールに入れてしまえばいいんですよ」と言った。「旅行でもヨガでも、まずスケジュールを入れてしまう。そうすれば心が安定して幸せな気分になれます」。なるほど、たまには自分が好きな映画を見に、映画館に足を運ぶのもいいかも。幼児向けのアニメ映画ではなくて。

■閉経は悪いことばかりではない

永田さんと話して、閉経は悪いことばかりではないということにも気づいた。生理痛から解放され、生理のたびにこまめにナプキンを替える手間も省かれる。これまでずっと背負い続けてきた習慣を手放し、新たなスタートを切るタイミングともいえそうだ。

永田さんがお勧めする更年期の過ごし方は「がんばらない」こと。でも、手抜きが難しい人は無理しなくてもいいそうだ。

「がんばりたいけどがんばれないからまたがんばろうとする、というループは断ち切ったほうがいいですね」

がんばれないときは、勇気を出してほかの人にお願いしてみては、と永田さんは提案する。

私たち夫婦は、同じ年の子どもを持つほかの親よりも一回りも二回りも年上だ。自分たちの心身の状態を過信せずに、体とも相談しながらちょうどよいさじ加減で過ごしていくのが理想だ。

■終わっていなかった不妊治療

2019年に出産し、翌年に職場復帰すると、私の生活は仕事を中心にくるくると忙しく回り始めた。その中で、ずっと心に残っていたことがあった。娘の出産で私の不妊治療は終わったようにみえたが、実は終結していなかった。

5年間不妊治療を続けた私には、まだ凍結していた胚が二つ残っていた。私が通ったクリニックでは、所定の凍結保管費用を毎年支払えばまだ保管してもらえた。しかし、出産時点ですでに48歳と半年。幸いなことに高齢でのリスクを乗り越えて長女を出産することができたが、もし妊娠できたとしても出産までたどりつける保証はない。出産と育児を経験して予想以上の大変さも思い知っていた。

不妊治療を再開して妊娠・出産を目指すことは私と夫の想像の範囲を超えていた。凍結胚はクリニックで数年保管されていたが凍結を延長しなければ、支払いもそこでなくなる。しかし、「受精卵も命」という意識が私には強くあり、クリニックに廃棄処分を依頼することはためらっていた。

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そんなとき、妊娠・出産の予定がないのに凍結胚がある場合、海外ではあえて妊娠しない時期に移植するケースがあるのを不妊治療関連のブログで読んだことを思い出した。英語ではどうやらcompassionate transferというらしい。compassionateには「同情的な、哀れみ深い」などの意味がある。

自分の通っていたクリニックに、こうした移植はしてもらえるのかと尋ねると、「こうした希望を言ってくる患者さんが現れると思っていた」と担当医は述べたうえで、「クリニックとして勧めるものではないが患者側が希望するのであれば、患者の意思を尊重する立場から行うことはできる。ただし移植費用はかかる」とのことだった。

夫は、私の判断に任せると言った。私には「廃棄するよりは体の中に戻してあげたい」という思いがあった。

■「ありがとう、おかえり」と胚を迎え入れた

そんな気持ちをくんでくれたクリニックで、私は妊娠予定のない凍結胚の移植を受けた。通常の移植とは異なり、妊娠しやすいタイミングなどは考慮しないものだ。何年も凍結保存されていた胚をお迎えして、「これまで待っていてくれてありがとう」「おなかにお帰り」という気持ちが広がった。この種の移植について通常の妊娠を目指す移植とは異なるため、このクリニックは減額している。

あと10年若ければ、私は2人目の出産も視野に入れただろう。しかし、私たちには長女だけで精いっぱいだった。不妊治療をしていると、余剰胚をどうしようか悩んだ経験のある人は多いのではないかと思う。クリニックの書類を見れば、凍結を延長するか否かの選択肢が示され、延長しない場合は廃棄されることが多い。廃棄にあたり心を痛めた人も多くいるだろう。

妊娠を目指さない移植については様々な考えも生じるだろう。

海外に目を向けてみると、米生殖医学会はcompassionate transferについて妊娠の可能性が極めて低い部位や時期に胚移植を行いたいという患者の要望は、「個人の価値観を反映しており尊重されるべき」としながらも、本来の目的である妊娠を目指さない治療に対する懸念や、医療従事者の自律性を保つ観点から、医師がcompassionate transferを拒否する権利も認めている。

こうした移植を実施するには、医療機関が作成した文書化された方針に基づいて行うよう強く推奨している。

■「残された胚の扱い」は繊細なテーマ

あくまでも個人的な経験だが、私は何年間も凍結していた胚が自分のところに戻ってきてくれてうれしかった。あと10年、いや5年早ければ妊娠のために移植できただろうに、と思うと悲しさもあった。最後の凍結胚は、かつて初期流産した我が子と空の彼方で一緒に過ごしているように願う。こうした受け止めも、人それぞれだろう。

遠藤富美子『48歳、初産のリアル 仕事そして妊活・子育て・介護』(現代書館)

余剰胚とどのように向き合うか。それは、当事者のそのときの状況でも変わってくると感じる。子どもを一人出産し、余剰胚のcompassionate transferも終え、治療に完全に終止符を打った私に、いまクリニックで保管してもらっている余剰胚はない。たとえば余剰胚が科学の発展のため、とりわけ不妊治療分野の研究に利用されるのであれば、いまの私なら提供することを選択肢の一つに入れるように思える。

私が余剰胚の移植を依頼した担当医に、患者さんが余剰胚についてどうとらえているのか尋ねると、「多くの方が悩まれており、皆さん泣く泣く破棄しているのが現状です」と教えてくれた。非常に繊細なテーマだと思う。

保険適用を受けて、不妊治療は身近なものになりつつある。しかし、治療を終えた後に存在する凍結胚の存在は、体外受精をし始めたばかりの患者さんたちは想像しきれないと思う。残された凍結胚の扱いは、今後ますます検討しなければいけない課題だと当事者として感じる。

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遠藤 富美子(えんどう・ふみこ)
読売新聞記者
1995年、読売新聞社に入社し、北海道支社、国際部、マニラ支局、金沢支局、生活部などを経て英字新聞部長兼THE JAPAN NEWS編集長。不妊体験者を支援するNPO法人「Fine」認定の不妊ピア・カウンセラーの資格を持つ。
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(読売新聞記者 遠藤 富美子)