『新幹線大爆破』配役変更ならではの魅力 実は名作揃い(?)なリメイク作をまとめてみた
パニック映画の名作『新幹線大爆破』(1975年)が、50年の時を経て新たに生まれ変わった。監督は樋口真嗣。4月23日にNetflixで配信開始となった。
参考:『トワイライト・ウォリアーズ』吹き替えの配役に涙 往年のカンフーファンを唸らせる傑作
走行中の新幹線に、時速80km(リメイク版では100km)を下回ると爆発する爆弾が仕掛けられた。
オリジナル版のストーリーの説明自体は1行で済むが、映画自体は152分ある。これだけ長いと中だるみしそうな気もするが、最初から最後まで緊張感が途切れることはない。命の危機にさらされた1,500人の乗客や乗務員たちと同じ気持ちで観入ってしまい、鑑賞後は恐ろしく疲れている。
疲れる理由は、メインキャストの“強さ”にもある。まず、犯人役が高倉健である。いきなり超大物であり、この超大物がヒール役というのも珍しい。ただヒールとは言え、彼が犯行に至る理由も丁寧に描かれており、実質主役である。リメイク版での犯人役は誰が演じるのか。実に興味深い。
国鉄(当時)の運転指令長に宇津井健。犯人・高倉健と、何度も電話越しに緊張感溢れるやり取りを繰り広げる。度重なる苦渋の決断やトラブル回避の指示を出し続け、胃に穴が開きそうである。リメイク版で同役を演じるのは斎藤工だ。いいキャスティングである。楽しみだ。また、オリジナル版ではあまり活躍しなかった車掌役に、草磲剛を配しているのも面白い。このリメイク版では、実質彼が主役のようだ。
そして、1,500人の命を一手に預かることになってしまう世界一不運な運転士を演じていたのは、千葉真一だ。アクション俳優としての彼の全盛期の作品だが、目立ったアクションはない。基本、ほとんど運転席に座っている。だが彼は、座っていても、その顔が、目が、オーラが、アクションをしている。目が血走り、大量の冷や汗をかき、幾多の無茶ぶりにテンパり逆ギレしながらも、ギリギリで難を逃れ続ける。正しいヒーロー主人公であり、この役は彼でなければ務まらなかっただろう。この難役を、新たに演じるのは誰か。
樋口真嗣版『新幹線大爆破』で運転士を演じるのは、のんである。間違いではない。あの『あまちゃん』(NHK総合)の、あの『さかなのこ』の、あの『この世界の片隅に』の、あののんである。これは予期せぬ変化球だ。千葉真一のイメージが強すぎるため、にわかには受け入れがたい。
だが、リメイクにあたり主人公を大幅にキャラ変し、そのことが功を奏した作品も、なくはない。それらの作品を振り返りながら、少しずつ心を落ち着けてみよう。
『ICHI』(2008年)~主人公の性別変更~
座頭市と言えば勝新太郎であり、勝新太郎と言えば座頭市である。座頭市は兇状持ちで盲目の侠客だが、普段は腕のいいあんま師をしている。三枚目のひょうきん者で周囲からも好かれており、また妙にモテたりもするが、実は居合の達人でもある。
1962年の『座頭市物語』から1989年の『座頭市』まで、計26作にわたるロングシリーズである(1974年~1979年にかけては、テレビドラマシリーズも放送されている)。どれを観ても、「エンタメ時代劇かくあるべし」と言える面白さだ。
特筆すべきは、市の立ち回りの恐ろしいスピード感だ。複数に取り囲まれたと思いきや、チャカチャカチャカッとわけのわからないスピードの太刀さばきで、一瞬にして全員斬り伏せる。このスピード感について、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(2024年)のアクション監督でもある谷垣健治が、自著で解説している。
「たぶん打ち合わせの時は『いち、にー、さん。こんな感じな』ってゆっくりやっていたのに、本番になると全然違うスピードでフライング気味に勝さんがムチャクチャに斬って、それを斬られ役の人が何とかがんばって合わせようとしているけど、間に合っていない。で、みんなが倒れるころには勝さんはもう刀を納めている……これが『相対的に』速く見える原因じゃないかと」(洋泉社『アクション映画バカ一代』より)
実際、斬られる人たちの「間に合ってなさ」が、「市の剣にまったく反応できず、わけがわからないうちに死んでいく」雰囲気を醸し出している。このエピソードだけでも、勝新太郎という不世出の俳優の非凡さを感じる(周りは大変だっただろうが)。
勝新太郎のイメージが強すぎる座頭市だが、ビートたけしや香取慎吾がリメイクに挑戦している。そして、実は女性ながらにして座頭市役に挑んだ命知らずがいる……。綾瀬はるかである。2008年の映画『ICHI』がそれだ。
彼女の演じる「市」は、あんま師ではなく瞽女(女性盲人三味線奏者)である。厭世観をまとい、他人に心を開かない。「勝新の座頭市と全然違うじゃないか」と思うだろうが、しばらく観ていると答え合わせがある。
彼女の回想シーンに、本家・座頭市っぽい人物が登場する(演じるのは杉本哲太)。彼女の居合の師匠であり、父親だったかもしれない人物だ。綾瀬はるかの「市」は本家の弟子であり、また、座頭市二世かもしれないキャラなのである。
綾瀬はるかのアクションは、相変わらずシャープで美しい。勝新版ではチャカチャカチャカッと一瞬で終わる殺陣も、スローモーションで丁寧に見せてくれる。ただ、綾瀬はるかは稀有な女性アクション俳優であると同時に、一流のコメディエンヌでもある。彼女のキレのいいアクションにコメディエンヌとしての才をプラスすれば、本家本元の勝新・座頭市に迫れるのではないか。もし続編があるのなら、今度はその線でお願いしたい。
『シン・仮面ライダー』(2023年)~主人公の性格変更~
藤岡弘、の演じる本郷猛(仮面ライダー)は、快活な健康優良主人公である。快活に笑いながら、「かなわないなぁ、立花さんには!」とか言う。この時代の二枚目主人公は、必ず「かなわないなぁ、○○さんには!」と言う。必ず言う。元祖は誰なんだろう。加山雄三あたりだろうか。
庵野秀明がリメイクした『シン・仮面ライダー』の本郷猛(池松壮亮)は、「かなわないなぁ、○○さんには!」とは言わない。時代の違いもあるが、そもそも快活ではないからだ。「頭脳明晰、スポーツ万能なれど、いわゆるコミュ障で無職」という珍しいキャラである。それだけのハイスペックなら、陽キャに成長していても良さそうなものだ。実はこれは幼少期のあるトラウマによるものである。また、池松壮亮は「コミュ障の若者」の役が日本一似合う俳優である。
「本郷猛を勝手にコミュ障にしやがって」と思う向きもあるかもしれない。だが石ノ森章太郎が原作漫画で描くヒーローは、繊細で愁いを帯びたタイプが多い。『サイボーグ009』の島村ジョーしかり、『人造人間キカイダー』のジローしかり、『仮面ライダー』の本郷猛もしかりだ。本郷猛と言えば、どうしても藤岡弘、のイメージが強い。だが池松壮亮演じる繊細な本郷猛のほうが、石ノ森章太郎の世界観には近いのである。
また、藤岡版ではあまり描かれなかったが原作では描かれていた要素として、「突然勝手に改造人間にされた男の苦悩」というものがある。原作では、軽く殴っただけで追手が死んでしまい、本郷猛が戸惑うシーンがある。本作でも、ごく普通のパンチでショッカーの戦闘員の頭がどんどん潰れていく。望みもしないのに“人外”になってしまった自分自身に、本郷猛は苦悩する。また、池松壮亮は「苦悩する若者」の役が日本一似合う俳優でもある。
本郷猛が碇シンジのようであり、ヒロイン・緑川ルリ子(浜辺美波)は綾波レイのようでもある。好き嫌いは分かれるかもしれないが、個人的には大好きな作品だ。
『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』(2008年)~主人公自体変更~
樋口真嗣は、17年前にも過去の名作のリメイクを手掛けていた。1958年公開のオリジナル版『隠し砦の三悪人』は、黒澤明の名作エンタメ時代劇である。この時期の黒澤明が撮った時代劇は、本作以外にも『七人の侍』(1954年)、『用心棒』(1961年)、『椿三十郎』(1962年)など、どれも傑作揃いである。「エンタメ時代劇の教科書」と言ってもいい。
この物語は、三船敏郎演じる侍大将・真壁六郎太が、たまたま巻き込まれた(無理やり巻き込んだ)農民2人・太平(千秋実)と又七(藤原釜足)の力を借りながら、姫様(上原美佐)を助け、お家再興を計るというストーリーである。本来、太平と又七はコメディリリーフであり、主人公はあくまで真壁六郎太だ。だが樋口真嗣は、このコメディリリーフのひとりを松本潤に演じさせることにより、主人公を交代してしまった。
オリジナル版の姫様は徹頭徹尾毅然としており、演じる上原美佐のキリッとした風貌も相まって、実にカッコいい。女子校で後輩にモテるタイプである。一瞬もデレることはない。だがリメイク作の姫様(長澤まさみ)は、途中から松潤にデレデレである。相手が松潤では致し方ないが、つまり、途中からストーリーも大幅に変わる。本来コメディリリーフだった男が、大活躍する。
正直に申し上げて、「黒澤明原理主義者」なら怒るかもしれない。だが「別物」と捉えれば、こちらも極めて面白いエンタメ時代劇だ。そして後半の展開にはなんか既視感があるなと思ったら、脚色が中島かずきだった。劇団☆新感線の座付き作家である。確かに後半の派手な展開は、「いのうえ歌舞伎」さながらであった。オリジナル版とリメイク版、両方を見比べてほしい。
さて、これまでいくつかのリメイク作を振り返ったうえで、改めて『新幹線大爆破』の配役について考えよう。
千葉真一とのんには、ひとつだけ共通点がある。それは、“目力”だ。若い頃の千葉真一の目は、力が強くて、でも子供のように曇りがなく、キラキラしていた。のんの目も、同じように強く、曇りなく輝いている。
のんに、1,500人の命を託してみようと思う。(文=ハシマトシヒロ)

