“再登板”2年目の石丸監督。地道な指導でチームを高みに引き上げている。(C)EHIMEFC

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 2023年シーズンのJ3も折り返し地点を過ぎ、8月5・6日の段階で21試合を消化した。現時点で首位を走るのは、11勝7分3敗の勝点40を稼いでいる愛媛FC。彼らは6月17日の奈良クラブ戦から8戦無敗というしぶとさ、粘り強さを見せつけている。

 昨季を見ても分かる通り、8月を無敗で乗り切ったいわきFCがトップでJ2昇格を果たし、7〜10月をわずか1敗で乗り切った藤枝MYFCが2位に滑り込んでいる。それだけ夏場の戦いが重要なのは間違いない。

「夏を制する者がJ3を制する」と言っても過言ではないだろう。

「僕らも後半戦初戦だった7月29日の松本山雅戦(1−1)は正直、不甲斐ない内容でしたし、反省材料が多かった。最後に追いついたってことで『上手くいってる』って捉え方があるかもしれませんけど、もっと先手を取りたい。チームとしては実際のところはそこまで上手くいってる状況ではないと感じているので、ここからもう一段階ギアを上げていく必要があると思ってます」と、2022年から指揮を執る石丸清隆監督は厳しい見方をしている。

 それも「今季は絶対にJ2復帰を果たさなければいけない」という強い覚悟の表われなのだろう。

 大阪の名門・枚方FCでボール技術を徹底的に磨き、阪南大からアビスパ福岡入りし、京都パープルサンガ(現京都サンガF.C.)、愛媛と、Jリーグ3クラブでプレーした石丸監督。彼は頭脳的なテクニシャンとして名を馳せたプレーヤーだった。指向するサッカースタイルも、ボールを回して敵を凌駕する攻撃的かつ華麗なスタイルだったに違いない。

 そういう考え方は2006年の引退後、愛媛で指導者キャリアを踏み出してからもあまり変わらなかったようだ。監督として采配を振るった2013〜14年もそういう傾向が見て取れた。
 
 とはいえ、2006年から16シーズンもJ2に在籍していた愛媛が、J3に落ちたタイミングで古巣に戻ってきた時、彼自身のスタンスは微妙に変化していたという。

「まずは勝たなければ何も始まらない。チームをJ2に復帰させることが自分のミッション」という強い自覚を持って、チーム作りを始めたのである。

 指揮官は神妙な面持ちで言う。

「自分は約10年間、監督業をやらせてもらってますけど、愛媛に戻ってきたタイミングで『現実路線に舵を切らなきゃいけない』と心底、思った。それはJ3という環境が非常に大きな要素でした。

 J2だったら『攻撃的サッカー』『見る者を魅了するスタイル』といった理想論をクラブが掲げても良かったかもしれない。自分もそういう方向性を理解したうえで進んでいました。だけど、今は大前提として上がらないと意味がない。それが一番大事なことなんです。

 もちろん、今までも勝利を目ざしてはいましたけど、どことなくモヤモヤした部分がなかったとは言い切れない。僕らは『良いサッカーをしていたらいいよね』『お客さんが喜ぶサッカーをしていたら良いよね』といったスタンスから脱却しないといけなかった。

 やはり目に見える結果を残して、指導者として育ててもらったクラブに恩返しをしたい。そう心を決めて、愛媛で仕事を始めたつもりです」

 けれども、1年目の昨季は7位。序盤から苦戦し、シーズン終盤は昇格争いから脱落。最終的にいわきと藤枝に2枚の切符を奪われた。その悔しさはひとしおだったに違いない。

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 だからこそ、今季は絶対に失敗できない。勝負を賭けて大混戦の今季J3を戦っているのである。

 そういった指揮官を強化部も力強くバックアップしている。今年、日本代表入りした川村拓夢(広島)が2021年までレンタル移籍していたように、以前の愛媛はサンフレッチェ広島との関係性が強く、何人ものレンタル選手が来るチームという印象が強かった。若かりし日の森脇良太もその1人だった。

 だが、今は広島に限らず、柏レイソルから升掛友護、東京ヴェルディから石浦大雅、横浜F・マリノスから木村卓斗といった優秀な若手が続々とレンタルで加入。森脇、矢田旭、松田力、曽根田穣、平岡康裕といったJ1経験のあるベテランがチームを引き締めている。

 このタレント力はJ3屈指だろう。石丸監督は「強化部が頑張ってくれている」と感謝を口にしていたが、クラブが一丸となってJ2返り咲きに向かっていることが色濃くうかがえる。

「Jリーグにはそれだけくすぶっている選手が、たくさんいるということ。レンタルで来た若手、既存の選手もそうですけど、彼らが前向きにチャレンジし、チャンスを掴んで、成功体験を得られれば、それが大きな力になっていく。だから、選手には『グラウンドにはチャンスがいっぱいあるんだから、モノにしたほうがいいよね』という話はよくします。

“安パイ”のプレーをしていても成長しないし、失敗してもいいから半歩でも成長してくれればいい。ボールを失ったらまた取り返せばいいし、やり直せばいい。僕たちはそれを見て、一緒に高め合う仲間。そうやって前向きな声掛けを続けて、向上心や闘争心を掻き立てています」と、石丸監督は一人ひとりの意識を研ぎ澄ませるアプローチを続けているという。
 
 こうした小さな積み重ねがプレーへのこだわり、勝利への執着につながり、「負けない愛媛」という形で表われている。その不屈の闘争心は大混戦のJ3を勝ち抜くうえで必要不可欠なのだ。

「今季スタート前から、今年のJ3は横一線になると考えていたので、大混戦になるという見通しはありました。そういうリーグを勝ち抜くためには、やはりやるべきことを徹底してやることが大事、『勝ちに不思議はあっても、負けに不思議はない』という言葉がありますけど、基本的にスキがあると相手に得点をプレゼントしてしまう。とにかくスキを与えないことにこだわって、ここからも勝点を確実に積み上げていきたいと考えています」

 まさに勝負師の顔を見せる石丸監督。この姿は、かつて松本で一緒に仕事をした反町康治監督(現・JFA技術委員長)と重なって見える。反町監督がアルビレックス新潟、湘南ベルマーレ、松本をJ2からJ1に上げて「昇格請負人」と言われたように、石丸監督もそうなれるのか。ここからが本当の勝負と言っていいだろう。

※第1回終了(全3回)

取材・文●元川悦子(フリーライター)