淡々とオーダーを取る店員の仮面の下は…タイで出会った少女のギャップに共感集まる/画像提供:小林眞理子(@mariko_asia27)

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文化の違う異国の地では、相手の雰囲気や表情に対して普段以上に緊張してしまうもの。タイの飲食店で働く“鉄仮面”な少女から受けた、第一印象とのギャップあふれる接客を描いたエッセイ漫画にTwitter上で「かわいすぎる」と6万7000件を超えるいいねが集まっている。

【漫画】本編を読む

話題を呼んだのは、小林眞理子(@mariko_asia27)さんがタイでの出会いや体験を漫画に描き、2022年10月には『タイのひとびと』(ワニブックス)として単行本にもなった「タイのひとびと」シリーズの新作エピソード「田舎町の鉄仮面少女」。反響を受け、小林さんに同作の舞台裏をうかがった。

■淡々と接客する鉄面皮少女、その素顔との落差に心をつかまれる

タイの都市部から離れ、初めての町にやってきた小林さん。もちろん土地勘はないけれど、大行列のできる屋台なら間違いないだろうと初日の食事処にワクワクしていた。

が、その行列はテイクアウト向けの列で、イートインの席は待ち時間なし。並ばず食べられるという予期せぬ事態に動揺する小林さんを応対したのは、表情の読めない一見不愛想な少女だった。

少女が淡々と告げる早口のタイ語は聞き取れなくとも、列で待つ間に人気メニューを把握していた小林さんは臆せず注文を告げる。しかし、その後もタイ語で何事かを話し続ける少女にいよいよ怯んでしまう小林さん。

その様子を察知したのか、少女は「Drink?Water?」と、小林さんにも分かるように平然と英語に切り替えて応対を続けた。日本なら中学生ほどの年齢であろう少女の手慣れた雰囲気に小林さんは「すげえ」と感心するばかり。

だが、一番の驚きは、食事を終えた会計時。先ほどと同様、そっけなく「100バーツ」と代金を告げながらも、小林さんに「日本人…だよね?」とポツリと問いかけてきた。小林さんがイエスと答えると、少女は「やっぱり日本ッ……スキッ!」と、これまでの鉄仮面が嘘のように顔をほころばせたのだ。

日本人とのコミュニケーションに「ヤッターァ」と喜色満面の店員に心を掴まれた小林さんは、手を振る少女を背中で感じながら「また来よう」と心に誓うのだった。

■「一番に一生懸命コミュニケーションをとる」相手への着目

“塩対応”から真逆の歓待というギャップに魅了された思い出を描いたエピソード。昨年10月に投稿されると、同作を読んだユーザーから「これは破壊力が抜群過ぎる」「こりゃたまらん」「こんなリアクションされたらまた行くに決まってる」と、体験にほっこりしたという声が多く寄せられた。

これまでもタイでの接客時のエピソードを漫画に描いている小林さん。その中で今回の体験を題材に選んだ理由を訊いた。

――鉄仮面少女のギャップに心をつかまれる一篇です。このエピソードを漫画にしたのは?

「日本というワードを聞いた瞬間、弾けるような笑顔になった純粋さがとっても印象的で、漫画にして形に残したいと思いました。この漫画を描いた頃は、国中どこに行っても『鬼滅の刃』のイラストの入った服を着ているタイの子供を見ていたので、相変わらず日本のエンタメがタイの子供の心にすぐに浸透していると感じてました。やっぱりこの子も日本のものが大好きなんだ、とうれしくなりました」

――ある田舎町での体験とのことですが、小林さんはそうした郊外に足を運ぶこともよくあるのでしょうか?

「はい!地方にはよく行きます。色々な文化の違いが地方ごとに違う様子を知るのが楽しいです。どこに行っても新発見で、飽きることがありません」

――笑顔とともに、接客で英語を使いこなすプロとしての少女の姿も印象的です。

「バリバリの観光地で、外国人ばかり来るお店なら基本的に英語が通じますが、あの場所は地元の人が集まるような場所だったので、英語で対応してくれる人は大人でも少なかったと思います。子供がお店で働いている場合でも、話しかけるとモジモジしたり、大人のところにピューっと逃げていく子供らしい仕草の子の方が多いです。あの子はとても落ち着いてました」

――小林さんは今回のように、お店での接客に着目したエピソードを多く漫画にされています。描きたくなる理由はどんなところにあるのでしょうか?

「旅をしていて、一番に一生懸命コミュニケーションをとることになる相手だからですかね。タイのひとびとは日本とはまた別の感覚で食を大事にしていると感じます。そんな環境だから優しさを感じやすい状況になっているんだと思いますし、その、タイのひとびとの持つ独特な食を大事にする感覚を、漫画の情景を持って少しずつ表現出来たらと思っています」

取材協力:小林眞理子(@mariko_asia27)