日本国籍取得を目指すと発表したバスケス・バイロン【写真:(C)TOKYO VERDY】

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【インタビュー】11年ぶりの母国チリ凱旋で改めて感じた日本の良さ

 東京ヴェルディのMFバスケス・バイロンはチリで生まれ、9歳で来日してから早12年、今季は自身初となるJリーグの舞台で、アタッカーとして成長を印象づけている。

 かつてチリ代表を目標に掲げていたなかで、今年5月に日本国籍取得を目指すことを宣言。その決断に込めた真意を訊いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小田智史/全2回の2回目)

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「個人的な報告をします。日本国籍取得する事を決断しました。僕もいずれは日本人になるので皆さん今後とも宜しくお願いします!」

 22歳の誕生日を迎えた5月16日、バスケス・バイロンは自身のツイッターで日本国籍取得への思いを綴った。

 出身地であり、9歳まで過ごしたチリに対する思いは強く、青森山田高を卒業した際には、憧れてきたチリ代表入りを目標と掲げていた。しかし、2020年にチリ1部ウニベルシダ・カトリカへの期限付き移籍で母国へ戻った際、すでにチリよりも長い時間を過ごしてきた日本の良さに改めて気づいたという。

「11年ぶりにチリに戻った時、子供の頃とは違って自分でちゃんと世界を見れるようになっていたので、サッカーを始めて10年以上過ごしてきた日本の良さに改めて気づいたんです。2020年3月末に『日本という国は僕の誇りです。日本にいる時、気付く事ができなかった』とツイートしたんですが、結構反響がありました。生活環境、経済、サッカー環境、育成……、チリの現状を目の当たりにしてこんなにも日本と違うのかと。チリは新型コロナウイルス禍により半年以上外出禁止で、サッカーもできませんでした。もしコロナ禍でなければ、チリでプレーしていて、そこから別の海外リーグへ行っていたかもしれない。日本に戻ることになったのも縁だと思います」

 なぜ、22歳の誕生日に決断を発表したのか。バスケス・バイロンは、両親には以前から日本国籍の取得を勧められていたと明かす。

「僕はチリで無名の存在。両親はずっと日本国籍取得のことを言っていたんです。それでも、夢があったので、僕はチリに行きたいと。そこからいろいろ経験して人生設計も変わり、日本国籍を取得したいと思いました。2021年の夏くらいから(国籍を)変えたいねという話は家族でしていて、動き出すことは去年から決まっていました。周囲には僕がチリ代表を目指していると思っている人が多かったですね(笑)」

1年以内で日本国籍の正式取得を目指す

 決断をツイッターで発表後、バスケス・バイロンの元には「国籍を変えるの?」とたくさん連絡があったという。驚きとともに、応援してくれる声も多かった。「僕もいずれは日本人になる」というフレーズに込めた思いとは――。

「僕はチリ出身で、母国への愛情をなくすことはありません。でも、日本に12年いて、日本人になりたいと思わせてくれました。海外リーグでプレーしたい目標はありますけど、家族は日本にいるし、僕も日本で生活していきたい。今はチリ人ですけど、いずれは日本人になるので、温かく受け入れてほしいなという意味も込めて書きました。ただ、これは僕の心の中でしか分からないことで、手続き上、国籍がチリか日本かの違いくらいです(笑)」

 法務省によれば、日本国籍を取得する条件は「出生」「届出」「帰化」の3つ。チリ国籍のバスケス・バイロンは、国籍法第4条で法務大臣の権限とされている帰化の許可を目指すが、住所条件(日本に5年以上住んでいること)、能力条件(18歳以上、かつ法律によっても成人の年齢に達していること)、素行条件(素行が善良であること)、生計条件(生活に困ることがなく、日本で暮らしていけること)、重国籍防止条件(無国籍であるか、原則としてそれまでの国籍を喪失すること)、憲法遵守条件(日本の政府を暴力で破壊することを企てたり、主張しない者であること)を満たしていたとしても、必ず帰化が許可されるとは限らない。書類の多さには、バスケス・バイロンも舌を巻く。

「とにかく書類がたくさんあって(苦笑)。僕だけじゃなく、両親、弟、妹、全員のもの集めないといけなくて自分だけでやるのは大変なので、専門的な人にサポートしてもらっています。合計100枚以上の書類を提出して、法務省と2回くらい話をしてからおそらく審査に入ります。審査は半年〜1年ほどかかるそうで、すべてが上手くいったら最短で来年2月、時間がかかると1年以上。個人的には1年以内に取りたいと考えています」

東京VでJ1昇格、将来的な海外移籍、日本代表を見据える

 幼少期から欧州サッカーに憧れ、海外リーグでのプレーに憧れを持つバスケス・バイロン。日本国籍を取得すれば、これまでのチリ代表ではなく、日本代表を目指すことになるが、「代表は自然とついてくるもの」と段階を踏んでの成長を見据えている。

「日本人になったら日本代表になりたいという考えではなくて、一歩一歩ステップアップしたいと考えています。今はヴェルディの一員として、絶対にJ1昇格を果たす。J1でも結果を残して、いずれは海外でも活躍したら、代表は自然とついてくると思います。チームを活気づける、状況に応じたプレーができると思っているので、チャンスメイクを見てほしいです。あとは、僕、この顔で日本語ペラペラなんです(笑)。9歳でゼロからスタートして、最初はカタコトでしたけど、ひらがな、カタカナ、漢字、順番に一生懸命勉強しました。街中だと結構英語で話しかけられるので、みなさんに自分のことを知ってもらいたいです」

 バスケス・バイロンがチームの勝利のために戦う姿は、きっと観る者に多くの勇気を与えてくれるはずだ。

[プロフィール]
バスケス・バイロン/2000年5月6日生まれ、チリ出身。青森山田高―いわきFC―ウニベルシダ・カトリカ(チリ)―いわきFC―東京V。J2通算19試合4得点。パワフルかつ繊細なドリブルを武器とする新進気鋭のサイドアタッカー。2022年5月、22歳の誕生日に日本国籍取得を目指すことを宣言し、さらなるステップアップを誓う。(FOOTBALL ZONE編集部・小田智史 / Tomofumi Oda)