BTS(防弾少年団)

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 韓国だけでなく、世界的な人気となっている『BTS』。韓国では、18〜28歳の健康な男性は、約20か月の兵役が義務となる。しかし、昨年の東京五輪でメダルを獲得した代表選手など、スポーツや芸術で大きな功績を残した者はその義務が免除、もしくは延期される。韓国に大きな経済効果をもたらしているBTS。昨年12月1日の韓国国会でBTSメンバーの兵役を30歳まで延期できるとする法案が可決。しかし、その後は義務を果たさせるのか、免除になるかは決まっていない。

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徴兵を拒否した韓国人男性

 徴兵を拒否し、日本での生活は17年目となる韓国人男性・金成河(キム・ソンハ)さん。金さんは徴兵を拒否しようとする人たちに海外移住をすすめており、その情報をネットで公開するなどの活動も行ってきた。日本への移住によって彼自身には現在、兵役の義務はない。金さんに“なぜ”徴兵に従いたくなかったのかと聞くと、「普通、そう思うでしょう」と苦笑いしながら質問にかぶせるように答えた。全世界的に反戦が叫ばれるなか、自衛にせよその逆にせよ“戦争のために軍がある”のであれば、それに反対することは普通だといえよう。

 金さんは“自分の場合”と断りながら、自身と徴兵について話してくれた。彼はアメリカ留学を挟みつつ韓国の中学・高校に通った。そしてそのどちらでも軍隊式な管理、体罰を経験した。韓国の中学を辞めた後は、親戚のツテを使ってアメリカに留学、帰国後に韓国の高校に通った。中学時代も高校時代も韓国の学校の理不尽さを訴えた。しかし、金さんの両親は、

「団体生活に我慢して慣れないと、人生を送れない。社会でも生きられない」

 高校を辞め、金さんはイギリスに留学。しかし、その際、徴兵のある韓国ならではのシステムがあった。

「当時、連帯保証人を立てないと海外に出国ができませんでした。なんのためかというと、海外に出国した者が帰ってこなかった場合、“徴兵から逃げた”という処罰を、その人たちに受けさせるためです。所得が低ければ低いほど多くの連帯保証人を立てなければいけない。この制度は'05年に憲法違反として廃止されましたが、私の留学時はまだありました」(金さん、以下同)

 韓国のある規定で、イギリスの韓国領事館で3か月に1度パスポートを更新する必要があったが、一度金さんは忘れてしまった。

「届け出を忘れたまま3か月がたって何が起きたかというと、私の家族、親戚、連帯保証人全員に脅迫電話が入りました。“おまえらは処罰を受ける”と」

大学2年で多くの韓国人が軍人に

 '03年に韓国に帰国。韓国の大学に通うこととなった。

「ほとんどの人は大学2年生のときに兵役に行きます。そのため韓国の大学では2年生と3年生で年齢が離れていることが多い。さらに言うと“人”が違います。3年生は“軍人”です。ある日、私の態度が気に食わなかったのか呼び出され、“おまえ何歳だ? 軍隊には行っているのか?”って。そこで私は大学を辞めることにしました。学校を辞めるのは3度目。それを親に伝えると“おまえは社会不適合者だ。そんなことを我慢できないのか。世界中どこでもあるぞ”と言われましたね」

 韓国の大学を辞めた後、語学留学で来日した。

「親が言う“そんなこと”は日本ではありませんでした」

 しかし、日本でも同じ韓国人からは“そんな”仕打ちが。

 語学学校に通っていたときだ。

「当時、私は気の合う友人らとブログをやっていて、社会批判的なことも友人らと書いていました。語学学校のクラスで1泊旅行があったのですが、そのブログが同じクラスの韓国人に見つかった。すると旅行中の夜に、酔っ払った10人以上の韓国人に囲まれ、“売国奴”となじられ、“ボコボコにする”などと脅されて大騒ぎになりました」

 その後、金さんは日本の大学に合格。友人に徴兵制について発信するセミナーを開いたらどうかとすすめられた。

「当時、日本ではあまり知られていなかった、韓国の軍で毎年何人も事故や自殺で亡くなっていることなどがテーマ。私は兵役に行っていないので、除隊した知り合いを呼んで、兵役中にどんな“仕打ち”を受けていたのかなどを話してもらいました」

 最近でも、その“理由”は明らかになっていないが、アイドルグループ『SHInee』のテミンは、軍の服務によってうつ病とパニック障害が悪化し補充役(現役兵の代替要員として公的機関で勤務する立場)に編入となったことが報じられた。

BTSファン「待っているから義務を果たして帰ってきて」

 金さんは大学卒業後、日本で就職し、現在も日本に居住中。兵役には行っていない。

韓国に再び居住地を移せば徴兵対象になりますが、37歳までは1年間のうち、計3か月間まで、韓国に滞在ができます。そんなにいることはないと思いますけど」

 国外滞在者は37歳まで徴兵検査の義務がある。今年、金さんは38歳となる。

「個人的には去年、完全に徴兵と関係がなくなりました。留学すれば、その留学先の国で教育を受け、そこで就職することもできますし、近年はフランスなどでは韓国軍の人権を無視した“仕打ち”を問題視して、韓国人の亡命者も多く受け入れています。私のように帰る気がない人にはおすすめします」

 兵役と就職事情については。

韓国企業は、兵役に行って、“上のことをよく聞く”ことを叩き込まれた人を好む傾向があります。そもそも兵役に行っていないと韓国では就職が厳しいです。そもそも採用しないからです。雇う立場になったら、雇っても何年後かに兵役に行くのであれば、利用価値が少ないと考えます」

 韓国の履歴書には、“兵役欄”があるという。

兵役に行っていないと、就職しづらい理由がもう1つあります。兵役欄に“兵役免除”と書かれていると、それが何を意味するかというと、障がい者と認識されるのです。身体的な理由や病気などがあると兵役免除となるので、それに該当する人間と認識されるのです」

 これは金さん自身も体験したこと。韓国企業を親会社に持つ日本のあるIT系企業で働いていたとき……。

「社内ベンチャーを立ち上げることになり、そのプロジェクトの人と面談する機会がありました。はじめは日本人社員と話をしていたのですが、しばらくたって韓国人の社員が現れ、話すことに。すると、私を見た瞬間、突然パンチでも食らわせるように“アンタ軍隊行ってんの? 行ってない? 障がい者なの?”などと言われたのです」

 金さんは一連の経験を「あくまで私の時代にあったことで、今は徴兵の期間はどんどん短くなっていますし、給料も上がるなど、事情はほんの少しは変わったかもしれませんね」と話した。

 BTSの兵役についてファンたちは「待っているから義務を果たして帰ってきて」というような声も多く、逆に政府側が国益のために延期などの対応をとるという、ある種の逆転現象が起こっている。今回は問題を先送りにした政府。メンバーが30歳を越えたとき、韓国はどんな対応をとるだろうか。