楽天・則本昂大【写真提供:楽天野球団】

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安部井本部長「観客が減ったのは、選手のせいでも球団のせいでもない」

 今年のプロ野球は、新型コロナウイルスの感染拡大で、無観客試合や入場制限、さらには試合数減を余儀なくされ、売り上げを大幅に減らした。どの球団も懐事情は苦しいが、楽天は26日から仙台市の球団事務所で始まった契約更改交渉で、全選手へ今年の収支など球団経営の実態を開示し、理解を求める異例の方針を明かした。

 この日、“トップバッター”として更改を終えた則本昂は、オンライン会見での一言一言が緊迫感に満ちていた。自身は来季が7年契約の3年目とあって、予定通り現状維持の年俸3億円プラス出来高(金額は推定)でサイン。しかし、球団側が示した資料には衝撃を受けた様子だ。

 新型コロナはここにきてまたもや猛威を振るいつつある。チームの選手会長でもある則本昂は「来年、全く試合ができないこともありうる。最悪のシナリオも考えておかないといけない。そういう場合にどうするのか、球団と選手の協議の場を設けることを確認しました」と明かし、「チームが存続するために危機感を共有したい」と表情を引き締めた。

 実際、プロ野球全体の今季観客動員は、昨年比2171万3384人減(約82%減)の482万3578人。楽天も主催試合が71試合から60試合に減り、昨年比158万5701人減(約87%減)の23万6084人とがた落ち。当然、チケット収入、グッズ収入は激減し、スポンサー収入の減少を最小限にとどめるのが精いっぱいだった。

 球団の安部井寛チーム統括本部長は「この際、全選手に球団の経営状況をしっかり説明する。今までにはなかったことだが、今年はプロ野球始まって以来初めての状況だから」と説明。「観客動員が減ったのは、選手のせいでも球団のせいでもない。プロ野球がどれだけファンとスポンサーの皆さまに支えられているのかを認識するためにも、数字を見せて説明させてもらう」と言う。

厳戒態勢で選手やスタッフらチーム関係者の感染者をゼロに

 この日は則本昂をはじめ9選手が契約を更改。「どの選手も観客の減り方を数字で見ると、改めて感じるところあるようだ」と安部井本部長は見た。

 特に則本昂には、試合が開催できなくなった場合のファンサービスなどでアイデアがあるようで、安部井本部長は「詳細を話せる段階ではないが、球団、スポンサー、ファンの皆さんの力になれるようにと、いろいろ考えてくれている」とほのめかした。

 楽天は今季、感染予防のために最大限の厳戒態勢を敷いた。3月30日にチーム活動を停止し、5月8日の練習再開まで球団施設の利用を禁止。他球団では、消毒を徹底した上で、施設の利用は制限しなかった所もあり、球界全体から「NPBが一律の基準を設けないと、不公平になる」と不満の声が上がったほどだった。

 その甲斐あって、楽天は選手やスタッフらチーム関係者の感染者をゼロに抑え込んだ。安部井本部長は「選手が頑張って感染を予防してくれたので、まず第一に(球団経営の話より先に)感謝の気持ちを伝えさせてもらった」と明かした。

 ただし、則本昂が「施設を使えない時期が続いたので、春季キャンプから積み上げてきたものが消えてしまった部分があり、うまく自分本来のパフォーマンスを出せなかった」と語った現実も各選手にあった。下馬評で優勝候補に挙げられていたチームは、Bクラスの4位に沈んだ。

 勝負師である以上、チームや個人の成績を上げることはもちろん大事だが、それだけでは済まない異常事態。楽天は球団が選手と手を携えて難局を乗り切きろうとしている。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)