参入メーカーが相次ぎ、品薄状態が解消された不織布マスク

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 新型コロナウイルスの感染拡大によって、数か月にわたって品薄・品切れが続いていたマスク。現在はそうした状態もようやく解消されたが、この間、マスク製造に参入するメーカーが相次いだために、一転して生き残りをかけた激しいシェア争奪戦が勃発している。果たして最後に勝つメーカーはどこか。ジャーナリストの有森隆氏がレポートする。

【写真】マスク姿の通勤風景

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「マスクの市場規模が生理用品を上回る」──。生理用品大手、ユニ・チャームの高原豪久社長の発言だ。

 新型コロナの感染拡大を受け、国内ではマスクが供給不足に陥り、一時期、ドラッグストアなどの店頭から完全に姿を消し、高額転売が問題視された。だが、政府が補助金を出したこともあり、マスク製造に参入する企業が増えた。「最近は店頭に安定的に並び始めている」(ドラッグストアの店長)というのが、全国的な現状だろう。

 高原社長は、「これから始まるのはマスクの選別。品質や信頼できるブランドが選ばれるようになっていく」と述べ、先行きに対する自信を示した。

 ユニ・チャームは国内マスク市場で首位。「超快適マスク」「超立体マスク」を製造・販売しており、2020年1〜6月期のマスクの販売額は前年同期比で3倍にも膨らんだ。感染防止のため、マスクを着ける習慣が日本だけでなくアジアでも定着するとにらんでおり、「市場規模は1000億円を超え、生理用品を超えるカテゴリーになりつつある」(同)という。

マスク売り上げ45億円弱のシャープ

 これまでマスクの主力は不織布だった。不織布はポリプロピレンなどの樹脂でできた化学繊維を熱や接着剤を使って布状にしたもので、マスク以外にも紙おむつなどに幅広く使われている。

 コロナ禍でもなければ、1枚10円からの使い捨てである。このマスクの価値がコロナ禍で急上昇した。まさに“マスク・バブル”だ。

 1月に中国で新型コロナの感染が広がり始めると、この不織布マスクが一気に品薄状態になった。ユニ・チャームなど、日本の日用品メーカーが増産に乗り出したが需要に追いつかず、マスクを扱ったことがない業者が中国産マスクを大量に輸入し始めた。

 しかし、中国産は品質にばらつきがあり、消費者は安心して使える国産を求めた。このタイミングで登場したのが、シャープだ。3月から三重県多気町の液晶ディスプレイ工場を活用してマスクの生産を始めた。そして、4月26日、自社サイトを通じて50枚入り2980円(税別)で販売したところ、サイトにアクセスが集中して接続しにくい状況が続き、販売は抽選方式になった。

 同社は9月14日から普通サイズと比べて横幅が3センチ短い小さめのマスクを売り始めた。女性や小学校高学年以上の子供の使用を想定している。「4月にマスクを販売して以降、消費者から小さめのものが欲しいとのリクエストがあった」と説明する。小さめのマスクも普通サイズと同じように毎週水曜日に自社サイトで抽選販売する。価格は1箱50枚入りで2980円(同)。

 現在、シャープの日産枚数は普通サイズが60万枚、小さめが3万5000枚程度。これまで普通サイズで累計約150万箱(およそ7500万枚)を売り切った。単純計算でマスク売り上げは実に45億円弱となった。

マスクの「地産地消」掲げるアイリスオーヤマ

 アイリスオーヤマは不織布などの材料も含め、中国などの企業に頼らず、ほぼすべてを国内で作れるようにした。

 6月から宮城県内のプラスチック製品を作る角田工場で、家庭用の不織布マスクの製造を始め、8月からは月産1億5000万枚を生産する体制を整えた。流行語にもなった“アベノマスク”は1億2000万枚なので、アイリスオーヤマはこれを凌駕する。

 前述したように、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は今年2月中旬以降、マスク増産に向け、設備投資を行うメーカーに補助金を出す取り組みを行ってきた。アイリスオーヤマはこれを活用して角田工場を約30億円かけて改修。中国の大連工場、蘇州工場と合わせ、月に2億3000万枚の家庭用マスクを国内に供給できる体制が出来上がったという。

 さらに、アイリスオーヤマは10月以降、米国やフランスでマスクの現地生産を始める。「マスクを着用する習慣がなかった欧米でも根付きつつあり、マスクの需要は世界規模で高まっている」と大山健太郎会長は判断した。現地生産したものは、その地で売る。「地産地消」そのものである。

ユニ・チャームは輸出も視野

 そして、国内マスク最大手のユニ・チャームは1月下旬からマスクの生産を24時間体制に切り替え、現在は通常の3倍の月約1億2000万枚を生産している。また、10月以降には新たな設備を導入してさらに上積みする方針だ。国内の感染状況をみながら、余裕が出てくれば輸出に回すという。

 具体的には、2021年から「超快適」「超立体」といった高価格帯の家庭用の不織布マスクをタイやインドに月2000万枚、供給する。国産マスク大手が大規模に輸出するのは初めての試みだ。いま、中国がマスクを含む繊維製品の世界輸出の4割強を占めているが、ユニ・チャームは高品質のメイド・イン・ジャパンのマスクで中国製に対抗する。

 家庭用の不織布マスクの覇権争いは、首位のユニ・チャームを、大増産体制を完了したアイリスオーヤマが追う展開となりそうだ。

ファッション性の高いマスクが次々と誕生

 マスクのシェア争いは不織布に限った話ではない。いまやさまざまな色や柄のマスクが百花繚乱。特にデザイン性の高い布製マスクはファッションアイテムとしての地位を築きつつある。

 6月19日、ユニクロ銀座店には開店前から長い行列ができた。お目当ては同日から販売をはじめた「エアリズムマスク」(3枚組で税別990円)。速乾性や通気性に優れる機能性肌着「エアリズム」の素材を使っており、蒸れやすい夏を乗り切るマスクの本命として消費者の期待が集まった。毎週50万パックを販売する。

 ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、当初、マスクの参入に否定的だったが、消費者の熱い要望を受け入れ、方針を転換した。

 また、良品計画傘下の無印良品は、生産時に余る残布を有効活用した「繰り返し使える2枚組・マスク」を発売。オーガニックコットンなど夏に向く素材で作られている。3種類のうち、6月5日発売の「サッカー織り」タイプは初回入荷分が早々に売り切れた。

 スポーツメーカーではミズノが水着や陸上ウエア用のストレッチ素材を採用。伸縮性を高めたマスクの販売を始めたほか、裏側に涼感素材を使ったマスクも投入した。スポーツ選手が着けたことから人気を呼び、5月20日にネットで販売を開始するとアクセスが殺到。販売予定数を5万枚から87万枚に増やしたほどだ。

皇室御用達ブランドもマスクで勝負

 数が満たされれば、毎日使うマスクをおしゃれに着けたいと思う消費者が増えるのが自然の流れだ。アパレル各社もファッション性の高いマスクを投入した。

 三陽商会は洋服とのコーディネートを楽しめるチェック柄やストライプ柄など16種類を揃え、気分や季節に合わせて選べるようにした。洗って繰り返し使える。自社サイトで限定販売し、価格は1枚900円(税別)。第1弾は1時間で完売するほどの人気だったという。

 かつて紀子さま御用達ブランドだったレリアンは1枚2640円、1980円などの、日本製の洗えるマスクで勝負する。

 レリアンといえばレナウンの子会社だったが、2009年末、伊藤忠商事に売却された。伊藤忠の岡藤正広会長CEOは『文藝春秋』(2020年10月号)のインタビューで、レリアンのマスクについて、こう語っている。

〈マスクも日本製は品質が素晴らしい。子会社のレリアンのマスクを見せてもらったのですが、着け心地が良いうえにものすごくオシャレ。コロナを機に、世界中で、上質で清潔なメイド・イン・ジャパンが再評価されています〉

 ちなみに、筆者が通う鍼灸院の40歳代の女性鍼灸師にもレリアンのマスク(2640円、写真)の着け心地を聞いてみたところ、「デザインがかわいい。作りがしっかりしていて、洗っても型崩れしないし、耳ひもも調節できるので負担が少ない。息がしやすい」と好評だった。

「チュールレースを使っているので下着っぽい感じがする。地下鉄の車内などで着けていると一瞬、男性の視線が止まる感じがして存在感があり過ぎ(笑)」とも。レリアンは大手百貨店に店舗があるし、ネット通販で購入も可能だ。一部商品はSOLD OUTしたが、再入荷している。

イオン系は1枚10万円のマスクも販売

 イオン系アパレルのコックスは9月8日、ファッションマスク専門店「Mask.com(マスクドットコム)」をJR東京駅に直結する八重洲地下街にオープンした。

 多様なデザインと機能のマスク200種類を並べ、品揃えは日本最大級という。販売する全種類のマスクの約3割がコックスのオリジナル商品となっている。多くの商品のサンプルを展示しており、商品を触ったり、比較したりしながら購入できる。

 コックスオリジナルの「さらマスク」は特殊な加工で保湿効果がある仕様にした。抗菌防臭処理もされており、接触冷感素材を使っている。色は12色あってS〜Lの3サイズがある。価格は1枚500円だ。

 中には1枚10万円する超高額マスクもある。最高級の輝きを誇るクリスタル(ガラス)として世界中に広く知られているオーストリアブランド・スワロフスキーのガラスの粒を、職人が手作業で付け、星などの形にしたものだ。生地は綿で黒と白を用意した。

新大久保では50枚入り499円まで値崩れ

 9月の4連休前の夕刻、“マスクのメッカ”東京・新大久保を歩いてみた。ドラッグストアなど、あらゆる店頭からマスクが姿を消した3月、ありふれた品質のマスクが1箱(50枚入り)4980円の超高値で売られていた場所だ。

 路上で売られていたマスクは700円台、600円台、500円台といった値札が目立った。もちろん50枚入りで、最安値は499円のもの。インド人とおぼしき売り子が手持ち無沙汰に立っていた。商品には〈1回限りの非医療用。4時間以上の使用には適していない〉との但し書きがついている。

 素材本体はポリプロピレン、耳ひもの部分はポリエステル、ポリウレタン。メイド・イン・チャイナとあるが、メーカー名、住所とも、まともな日本語にはなっていない。多分、でたらめなのだろう。大量に輸入したマスクを日本で小分けにして、箱詰めしたと類推できる仕上がりになっている。

 道をへだてた反対側には中堅のドラッグストアがあり、ここで「nepia 鼻セレブ」(王子ネピア、日本製)を売っていた。17.5cm×9.5cmのふつうサイズだが、「1日中、口にはりつかない 口元空間マスク」がセールスポイントで、5枚入りが547円だった。

 こうして50枚499円で叩き売られているマスクがある一方、高品質で相対的に高い価格を維持している日本製マスクもある。ファッションメーカーから出ているマスクは1枚2000円台でも売り切れのものがある。

 中国、ベトナムなどを中心に東南アジアから輸入されたマスクの国内在庫(デッド・ストック)はどのくらいあるのだろうか。零細な業者はマスクの山にうずもれ、瀕死の状態にある。品質が劣り、価格競争力を失ったマスクの明日を、連休前の新大久保で見た思いがした。

 日本衛生材料工業連合会によると、現在の国内のマスク供給量は月10億枚。3月に比べて7割増加した。国産品が占める割合も2019年度の2割から5割弱まで高まった。洗って繰り返し使えるマスクの普及もあり、一時期の品薄感は薄れている。

 とはいえ、副業としてマスクを作っていたメーカーは、品質面でのレベルアップを図るのが難しいことから、いずれ撤退していくことになろう。