現在、日雇い派遣の仕事などで生活費を稼いでいる筆者・小林ていじ(撮影/藤井厚年)

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―[42歳日雇い派遣男のリアル]―

 現在42歳、僕はまったくお金にならない小説を書きながら、日雇い派遣の仕事などで食いつないでいる。しかし以前、仕事をせずに小説だけを書き続けていた時期がある。その頃、ほんの一時ではあるが、ホームレスになっていたことがあった。

 ネットカフェを転々とする生活を送っていたのだが、ネットカフェに泊まるお金さえも尽きようとしていた。収入になることをまったくしていなかったのだから、当然といえばあまりにも当然のことだった。

◆お金が底を尽きそうになり、日雇い派遣に登録

 早急にお金を稼がなくてはならなかった。その手段は日雇い派遣しか思いつかなかった。インターネットで適当に派遣会社を選んで応募する。その後、スタッフ登録のために登録センターまで出向いた。

 場所は都内の雑居ビルの一室。スーツ姿のスタッフから就業規則や仕事の流れなどの説明を受けながら書類に必要事項を記入していく。住所は以前住んでいたシェアハウスのものを書いた。僕以外の来場者はすべて20代の若者である。この年齢になって彼らに交じって日雇い派遣をするというのはそれなりにこたえるものがあった。

 こんなのはただのつなぎ。こんな状況からはすぐに抜け出してみせるさ。自分の心にそう言い聞かせた。が、すぐにこんな疑問が湧いてくる。でも、どうやったらこの状況から抜け出せるの? 小説が売れたらだよ。でも、どうやったら小説は売れるの……?

 書類を記入するペンの動きが止まった。ため息がこぼれた。考えるのをやめて書類の続きを記入した。そのあとはスタッフとの個人面談になった。

「工場や倉庫での軽作業や飲食系の仕事などを紹介できますが、どんな仕事をやりたいですか?」

 どんな仕事もやりたくないです。毎日ただ小説だけを書いていたいです。そんな本音を押し殺して僕はこう答える。

「飲食系の仕事をやりたいです。昔、居酒屋でバイトしていたこともありますし、料理を作るのが好きなので」

 本当はただ工場や倉庫の流れ作業だけは絶対にやりたくないだけだった。若いときにパン工場で短期バイトをしたことがあった。ラインで流れてくる型に入ったスポンジケーキをひっくり返して型から外していく。延々と続くその単調な作業に発狂しそうになり、流れてきたスポンジケーキを床に叩きつけてしまった。そして社員に激怒された。僕にとってあれは精神的な拷問でしかなかった。

「飲食系でしたらすぐに紹介できる仕事があります。来週から二週間開催されるフードイベントがあるのですが、いかがですか」

 スタッフのすすめるそのイベントで初日から働くことにした。

◆ひたすらご飯を炊く仕事

 会場は東京湾に近い広場である。ハンバーグやかき氷、タピオカなどのさまざまなブースが出されており、派遣先の会社はそのうちの数店舗を運営していた。僕が配属されたのはご飯のブースだった。

 最初に社員がオペレーションを説明し、そのあとは僕を含めて3人の派遣だけで回していった。3台の業務用ガス炊飯器で次々とご飯を炊いていき、発泡スチロールのどんぶりによそって販売する。なんの変哲もないふつうのご飯である。が、このフードイベントでは他にご飯ものを出すブースがなかったため、飛ぶように売れた。営業時間中はほとんど常に長い行列ができていた。

 スタッフは全員がその日はじめての派遣だったので上下関係がなく、目のまわるような忙しさでありながら、まるで学園祭の模擬店でもやっているかのように和気藹々とした雰囲気だった。3日目にもなると、みんなそれなりに仕事にも慣れてきてスムーズにブースを回せるようになっていた。